第182話 マギアス魔法学園・2
「ふむふむ、種族間の歴史ですか~。それならこれなんて良いと思いますよ~」
次々と本棚から抜き出して、本が積み重なっていく。
手に持って見てみるけど、読むことは可能だ。正確には本に書かれている文字が勝手に日本語に変換されて、字幕のように浮かび上がってくる。
この本には種族間というよりも、獣王国の成り立ちのようなものが書かれている。獣王国は国の名前がころころ変わっている。その国の王になったものにより名前が変わるからだ。
ただ誰が王になっても変わらないことが一つだけある。それは王の決め方だ。力こそ全て、その理念のもと王を決めるための武闘大会が開かれ、そこで優勝した者が王に任命される。
元々この地には国がなく、魔物の支配領域を開拓したことが始まりだった。そのため強さを求められたという歴史があるからのようだ。
ここ百数年は獣人が王に君臨しているため、獣王国と名乗っている。その所為か、各地から獣人が集まり人口の七割が獣人が占めていているという。腕に覚えがある者が王になるために集うため、個の戦闘力に関しては随一と噂されている。
例えば武の秀でた者が治めたら武王国。魔法使いが優勝したら、魔道国なんて名乗っていた時代もあるとか。
「読めてますか~」
黙々と本を読んでいたら聞かれたので頷いておいた。
「本の背、ここの部分に番号があるので~。読み終わったら~、対応する場所に戻してくれると助かるかな~」
そう言って奥の方に、カウンターの席に座って手に持った本を読み始めた。
分からないことがあったら聞きに来いといった感じのようだ。
速読なんて出来ないから、とりあえず一冊一冊読んでいく。本によっては目次のようなものがある本もあるため、関係なさそうなら確認のため数ページ目を通すだけで読むのは止める。一冊一冊のページ数が少ないのも特徴的だな。薄い本が目立つ。
十二冊目を手に取り一息、流石に目が疲れてきた。仮面があるから目元をマッサージするわけにもいかないし。仕方がないから凝り固まった体をほぐす。
少しの休憩後開いた本には、魔人について書かれていた。ただ情報量は少なく、薄っぺらな本になっている。
魔人とは、の一言で始まったその本に書かれていたことは、長き時を生きる長寿の種族であること。女神ではなく魔王を信仰していること。人と魔物が交わり、誕生したのではないだろうかという憶測。これは魔王討伐からの生き残りが、魔人が魔獣へと変貌する姿を見たという証言などから、そのように考えられるとある。
ただそれらは全て推定される、という言葉が添えられてる。
印象的だったのは最後のページの一言。
魔王がいないとき、彼らは何処で何をしているのだろう? という問いかけのような言葉だった。
それが分かれば、それこそ魔女狩ならぬ魔人狩が起こってそうだ。人と比べて絶対数が少ないようだし。
ただな……イグニスのことを思い出す。あの力に、飛行能力。魔人狩なんて不可能だよな。
それから何冊か読んだ後、手に取った本はタイトルのない、表紙が黒一色の本というか、ノートのようなものだった。
何か惹き付けられるそれのページを捲ると、こう書かれていた。
『勇者召喚について』
次のページには、筆者の考察が色々書かれていた。
勇者召喚の始まりは、魔王の被害に苦しむ人類のために、女神が与えてくれた奇跡である。女神より直接加護を授かった勇者の力は絶大で、魔王討伐後、女神に導かれて元の世界に戻ったとある。
ただページを読み進めるうちに、次々と最初に書かれていたことを否定するような言葉が出てくる。
そこには勇者召喚を人自らの力で行う方法などが、嘘か本当か分からないけど書かれている。
勇者召喚を行うには、媒体となるあるものが必要になる。それは魔力がこもった高品質の魔石。ただしここで必要になるのは魔力。なので代替え品として高い魔力をもったものなら何でも構わないとある。
また召喚された勇者が、戦争に参加したと思われる歴史が書かれている。何故そのように思ったのか、戦争による被害などから、人ならざる力が行使されたとしか考えられない惨状から推察したとある。
読み進めていくと、途中でページが破られていた。乱雑に引きちぎったのか、少し皺が寄っている。
「何を読んでるの~って、それか~」
かなり集中して読んでいたようで、接近したのに全く気付かなかった。
「それね~。結構有名な学者さんというか、何代か前のここの学長さんだったらしいんだけどね~。晩年は何かにとりつかれたというか、狂人って言われてたな~」
「それじゃここに書いてあるのは嘘ってことか?」
「どうかね~。そもそも嘘か本当か分からないものが結構あるし~」
「記録として残しておいてそれでいいのか? 誰かが信じたらどうするんだよ」
適当過ぎないか?
「ああ~、それは大丈夫。狂人って結構有名な話だから~。知らない人には私が注意するしね~」
今注意されてるらしい。というかそんな危ない物見せるなよ。
「それでだいぶ本を読んだようだけど、お目当てのものは見付かったかな~?」
「興味深い本ばかりでもっと色々と読んでみたいな。ただ、エルフに関する本がないんだが、ここにはないのか?」
「ん~、あったと思ったけどなかった~? けど何でエルフのことを知りたいの~?」
探るような視線が向けられたように感じた。
「エルフを見たことがないからどんな感じなのかなって。ここ近年、その姿を見たこともないって言うし。エルフの歴史でも分かったら住んでる場所とか分かるかと思って」
「……ん~、やっぱないな~。ごめんね~」
ないなら仕方ない、まだレイラたちも来ないし他の本を読んでいるか。
一時間後、やっと戻ってきたと思ったら、レイラは何処か疲れた表情を浮かべていた。うん、興味はあるけど、何があったか聞くのはやめておくとしよう。
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