第90話 閑話・4

「……先の戦いでなんですが……」

「そうですね。私の場合でしたらこうしたでしょう」

「僕だったらどうすれば良かったですか?」

「正解なんてありません。ただそうですね、勇者様は私たちと違ってスキルによる武技でしたかな? それがあります。それで切り抜けるのも一つの手だと思います」

「けどあれは使い過ぎると体が重くなるみたいで……」

「その点に関しては私も分からないのですが。そうですね……では、まずは限界を探してみてはどうですか?」

「限界ですか?」

「はい、もちろんこれから成長すると限界がまた変わるかもしれません。ですが一度訓練で連続して使ってみて、体の負担具合を調べてみるのは良いかと思います」

「…………」

「実戦で試すよりは良いと思いますが……」

「そうですね。一度試してみようと思います」

「分かりました。今すぐは……無理でしょうし、試す時にはお声をかけて下さい。勇者様の攻撃の威力は強力ですので、場所の手配などをしないといけませんので」

「分かりました。僕も体調を整えてから試そうと思います。準備が出来たら声をかけます」


「……一時はどうなるかと思ったけど、だいぶ落ち着いたわね。雰囲気も口調も元に戻ったというかなんというか」

「はい、本当にあの時は怖かったです」

「やっぱり連続して戦ったのが原因ですかね?」

「どうだろう。ただ、確かにそれはあるかも」

「ははは、その節は迷惑を掛けました」

「悪いと思ってるの?」

「も、もちろんですよ先輩。あの時は、その、ちょっと血を見過ぎたというか。なんか戦っているうちにテンションが上がってしまって。いや~、若気の至りって奴ですよ」

「貴方ね……。とりあえず結構酷いことを言ってたんだから、しっかり謝っておきなさいよ。騎士団の皆だってこっちを守るために頑張ってくれてたんだから」

「そ、それは大丈夫ですって。もう済ませてあります、はい」

「ならいいけど。しっかりしなさいよ。一応は頼りにしてるんだから」

「そこは可愛く、頼りにしてますって、すいません。調子に乗りました。あ、それじゃ俺はこれで」

「……大丈夫でしょうか?」

「頭痛くなるわ。とりあえず殺伐としてないし、大丈夫だと思いたいわね」

「少し忙しすぎるのかも。最初の頃は結構私たちのペースに合わせてくれてたけど、ここのところ次々と指令をこなしている気がする」

「教会の方も、心配してました。知り合いの方に話をしてくれるとは言ってましたけど……」

「そうね。私からも団長さんに話してみるわ。思えばこの頃しっかりした休みをとったことなかったし」

「出来れば街の方にも行ってみたい。もちろん危ないところじゃなくて、折角だしこの世界がどんな感じか見てみたい」

「私は教会に行くから少しは街を見ますけど、いつも馬車の中からです」

「それも頼んでみるわ。それに……」

「あの人のことですか?」

「ええ、あの時は私も状況に流されてしまって……というか余裕がなかったから。今思うとせめてしっかり保護してくれるよう言うべきだったわ」

「けど、街で今暮らしているんですよね?」

「ええ、支度金? しっかり援助もしてくれてるって言ってたし、陰ながら護衛を付けてくれてるって話だから大丈夫だと思うけど」

「そうですね。もしかしたら私たちよりもこの世界のことを知っているのかもしれません」

「それはありそう。ただどっちが幸せなんだろうね」

「私たちの方が殺伐としてるわね。ただ力があるから、多少の危険も切り抜けることが出来てるけど」

「力があるから戦わされてるんだけど……」

「ですね……」

「あ~、やめやめ。暗い話はここまで。なら一度お願いしてみましょう。顔を見るだけでも安心出来ると思うし、ね」


「どういうことですか。会えないって」

「申し訳ございません。その、勇者様たちには至急行って貰いたい場所があるようでして」

「……何処です?」

「エーファ魔導国家にあるダンジョンです」

「ダンジョン?」

「何故そこに行く必要があるのですか?」

「勇者様たちの成長が近頃停滞気味ということもありますが、そこで鍛錬と同時に素材を集めて欲しいとのことです」

「素材?」

「はい、勇者様たちの装備を整えるためにも、ダンジョンで取れる素材が必要になるだろうと……」

「他の人に頼むことは出来ないのですか?」

「その、近年下の階層に潜れるほどの者がいないようでして……こちらでも他国にかけあって素材を集めているのですが芳しくなく……」

「分かりました。確かに僕もここのところの戦いで、レベルの上がりに限界を感じています。そちらに行って強くなれるなら構いません」

「あ、ありがとうございます」

「分かったわ。それよりも約束していた、あの子と会うことが出来ないってのは何故なの?」

「そ、それが。今、街は警戒態勢になっておりまして」

「何かあったの?」

「は、はい。魔人が現れたらしく、騎士団の上の方も混乱しているようでして……」

「確か魔王の手下だっけか? って、そんなの出たのに俺たちはいかなくてもいいのか?」

「は、はい。そちらは専門の部隊で対処すると聞いています。勇者様たちには、ダンジョンに行く準備をして貰いたいとのことです。今まで魔人を見た者はいませんでしたが、こうして現れた以上、向こうも本格的に動き出すのかもしれないと」

「時間的余裕がなくなったということですか。分かりました。それで僕たちはどうすればいいのですか?」

「はい、こちらも今急いで準備をしております。準備が出来次第声がかかると思います。勇者様たちは装備など、いつでも旅に出られる準備をして貰えればと思います」

「……けど本格的に動き出すって時に、私たちがここを離れてもいいの?」

「はい。理由は分かりませんが、その時が来たら分かると、おっしゃっていましたので」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る