第91話 聖都騒乱・11

 昼過ぎにレイラたちが戻って来た。予定よりも早いな。

 屋敷に入って来た一行はお疲れの用だ。特にタリアとルイルイの疲労の色が濃い。


「それで、紹介して欲しいですわ。そこのを……」


 帰って来たら知らない女がいたから怒っているのかな? けど奴隷を買うことは前々から言ってましたよね。


「戦争奴隷のセラだ。獣人だから身体能力は高いぞ。模擬戦で手も足も出なかった。これで安心して旅が出来るってもんだ」


 あれ? 反応なしですか。頑張って説明したはずなのに。


「そうですの。それは是非、今度手合わせをお願いしたいですわ」


 向上心の塊だな。帰ってそうそう模擬戦の話とか。俺だったら休む。


「それよりもタリアとルイルイが疲れてるようだけど、何かあったのか?」


 他の四人はむしろ元気が有り余っている感じだ。もしかしてパーティー内に蔓延はびこる虐めというやつですか。


「何を想像してるかわかりませんが、違いますわ。タリアちゃんとルイルイちゃんは、斥候で忙しかったのですわ」

「そうです師匠。今回の依頼はおかしかったのですよ。複数パーティー募集の討伐依頼だったのに、現場に行ったら魔物が一体もいませんでした。それでタリアとルイルイが範囲を広げて探したのですが、それでも見つかりませんでした」

「誰かが先に行って討伐したとかはないのか?」

「それはありませんわ。少なくとも私たちは群れが出来てると言われて参加しましたから。それにAランクの方も参加してましたから、かなり精度の高い情報を元に討伐依頼が出されたと思いますわ」

「それなのにいなかったからおかしい、と」


 確か俺たちが冒険者ギルドに行った時も、討伐先に魔物がいないとか話をしていた冒険者がいたな。


「……スタンピード」

「セラ?」


 ポツリと呟いたセラに注目が集まる。


「似てるってだけ。ボクは一度だけ経験したことがあるから」

「そうですの。なら備えは必要ですわね」

「信じるの?」

「無駄に不安を煽る必要はありませんが、何かあった時にすぐに対処できるように備えるのは必要ですわ」


 自分の言葉を信じるレイラに信じられない者を見たように、セラが驚きの表情を浮かべている。

 たぶん、レイラとしては冒険者の経験から状況を顧みて出した結論なのだろうけど、セラとしては自分の意見を信じたように見えたのかもしれない。最初は敵意のような視線を送ってたしな。


「と、そうでした。私たちの自己紹介がまだでしたわ。私はレイラ、よろしくですわ」


 レイラを筆頭に、次々と自己紹介を始めた。

 セラは黙ってそれを聞いていた。

 自己紹介が終わると交流会を兼ねた模擬戦が行われた。何故に?

 セラは断ると思ったけど、付き合いが良いことに了承していた。どうも昼前に話した魔力云々を確認したかったようだ。そうだよな、素直に従うような感じじゃないよな。俺だけ、というか男に厳しいだけかもと思ってますが。

 模擬戦はセラとレイラ、ケーシーの三人で行われた。俺? もちろん丁重にお断りしましたよ。

 帰って早々の模擬戦に元気があるな~と思っていたら、依頼を受けた間、特に体を動かさなかった二人は鬱憤うっぷんが溜まっているとのことだった。二人というよりも主にレイラが。

 セラはケーシーとはやる時は体の動きを確認しながら戦っているようだったけど、レイラと戦う時はその余裕がないようだった。レイラも互角に戦えるのが嬉しかったのか、模擬戦なのに徐々にヒートアップして最後の方は本気で戦っているように見えた。


「久しぶりに熱い戦いが出来ましたわ」


 凄く満足そうだ。逆にその戦いぶりを見て、ヨルたちは驚いている。

 たぶんロードと戦った時の経験値で、今のレイラは頭一つ分強くなってるんだよな。鑑定で見る限り、レベルに差が出来ている。もちろんセラの方が高いけど。

 セラと互角に戦えたのは、対人戦の経験の差だろう。学園でも護身術を習っているとか言ってたし。魔法学園なのに。

 そんなレイラたちにも勝てない俺は、まだまだ修行が足りない証拠か。


「ボクも良い経験になった」


 ヒカリとは武器の相性もあったかもしれない。剣だとまともに打ち合うから手応えが違うんだろうな。


「褒めていただき光栄ですわ。ただ、……真剣勝負だと私よりもソラの方が強いですわよ」


 後半は小声で何を言ったのか聞こえなかったけど、セラが驚きの表情を浮かべて俺を見たのが気になる。変な評価を植え付けないで貰いたいのだが。ただでさえ印象が悪いんだし。

 夕食を終えたら女性陣は大浴場に。部活のようなノリでワイワイ向かっていくな。あまり風呂が好きでないセラは(昨日も渋ってたな)、復活したタリアとルイルイに引きずられるように連れて行かれたな。


「ソラ君も一緒したいの?」


 一行を眺めていたらルーさんにからかわれた。肯定したら許してくれるんですか? それともさげすまれますか? 答えを聞くのは怖いので曖昧に笑って黙秘しましたが。こういう時便利ですよね、愛想笑い。

 俺は一人寂しく個人用の風呂に入る。狭くても湯船に浸かれるだけでも正直嬉しい。浄化魔法で体をきれいにすることは出来るけど、やはり日本人としてはゆっくりと体を湯船に沈めたい。は~、生き返る。宿だと料金の高い良いとこじゃないと、お風呂とかないからな。

 お風呂後はまったり。女性陣は長風呂だからな。魔力練習の約束はしたけど、いつになるかが分からないのは仕方ない。ここは男が我慢するしかないのだ。

 その間旅について考える。MAPを表示して発信機に魔力を籠めると、MAP上に反応が出る。もちろん行ったことがないから真っ暗だけど、方角からしてまだラス獣王国方面にいることは分かる。

 合流するならやっぱりエーファ魔導国家経由でラス獣王国に行くか、エーファ魔導国家内だな。エレージア王国経由の方が早く合流できるかもだけど、あそこは出来れば近付きたくないんだよな。

 あとは移動方法か。俺は歩きたいけど、流石にな。ヒカリを無理に歩かせたことが脳裏によぎる。我慢強い子だから、辛くてもなかなか言ってくれなかったから大丈夫だと思って無理をさせてしまった。

 ただ馬車を購入するにしても、この世界の馬車は乗り心地が悪い。ここは錬金術で改善出来るかどうか。お金も魔石も足りないのが問題か。

 けど、あの時王城から追い出された時のことを思えば、今はなんと恵まれていて、楽しいか。そう、楽しいんだな。命の危機とかも確かにあったけど、充実しているのは間違いない。

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