第92話 聖都騒乱・12

「主、お待たせ」


 部屋に入るなり胸に飛び込んできた。

 だんだん年相応の反応をすることが多くなってきたような気がする。良い傾向だと思う。石鹸の良い匂いは気にしないようにしよう。顔を緩めると後の二人が怖いからキリリと引き締める。引きつってないよね?

 ただ心なしかセラが疲れてるように見える。何かあったのか?


「さて、とりあえず座ってくれ」


 三人が座るのを待って、話を切り出す。


「降臨祭まで今日を含めてあと四日。もう今日が終わるから実質三日になるから、色々と予定を話しておこうと思う」


 ミアの顔に一瞬陰りが見えたけど、別れは最初から決まってたことだからな。


「まず次の目的地はエーファ魔導国家だ。あ、学園に通う訳じゃないからな」

「むう、残念」

「で、今後のことを考えて馬車を買いたいと思っているので、すぐには出発出来ないかもしれない。お金がないからな」


 セラの視線が痛いな。エルド共和国の話をチラッとしたから期待してたかもだしな。言えば素直になるだろうけど、まずはそんな力なしで仲良くなってみよう。決して意地悪で言わないんじゃないんだよ?


「それとは別にセラには頼みたいことがある。明日だけどレイラたちが冒険者ギルドに顔を出すらしいんだ。その時にギルドにお金を支払って、伝言を頼んでもらいたい。内容は……この手紙をギルドに渡してくれればいいよ。もちろん手紙の内容を知ろうとするのは禁止な。これ命令だから注意するように」


 セラに手紙を渡す。ついでに金貨をヒカリに渡す。


「ヒカリも一緒に行ってくれな。帰りにこのメモに書いた奴を買ってきてくれ」

「主、おつかい?」

「ああ、大事な買い物だから頼んだぞ。セラもな」

「セラ姉。大事な任務だから頑張る」

「分かったよ。命令だから従うよ」


 いつの間に呼び方が変わってる? 仲良くなった証か。


「それでミアにはこれを渡しておこうと思ってな。と、まだ完成してなかった。今から作るな」


 取り出したるは昨夜作った青い魔石。そこに鉄鉱石を使って台座と鎖を作ってペンダントに加工。これで完了、と。


「これは?」

「ん~、お守りだと思って身に着けておいてくれたら嬉しいかな。降臨祭が無事終わるまででいいから。しっかりしたものは、また誰かに買って貰ってくれ」

「……ありがとう」


 手渡そうとしたら何かを期待するような目で見てきた。

 これはあれですか、首にかけて下さいという無言の圧力ですか。

 気恥ずかしいのを我慢して首にかけましたよ。

 ヒカリが珍しく物欲しそうに見てるな。


「ごめんな。魔石とか材料がもうないんだ」

「なら頑張って魔物狩る」

「無理をしない程度にな。旅をすればまた魔物と戦う機会もあるだろうし、その時は頼むぞ」

「うん、任せる」


 頼もしいことだ。

 二人には先に眠って貰って、ミアと魔力の練習をする。


「今日はここまでだな。無理しても成果は上がらないと思う。だから焦る必要はないんだぞ」

「……わかった」


 昨日はここで無理して力尽きたんだよな。同じ過ちを犯す訳にはいかない。



 翌日。午前中はそれぞれが外出することになった。

 レイラたちは予定通り冒険者ギルドに。俺はまったりしてようと思ったけど、馬車を買った場合いくらになるかの市場調査と、商業ギルドから呼び声がかかったため向かうことになった。

 もちろん時間指定などされてないから優先するのは馬車の価格確認。これは乗合馬車を管理する商会で色々話を聞いた。結構中古品もあるようで、荷台だけなら金貨十枚からであるらしいけど、安いと小さかったり耐久力が心許こころもとなかったりした。

 アイテムボックスがあるとはいえ、馬車の中で寝たりするのを考えると、それなりの広さは欲しい。耐久力は、最悪錬金術を駆使して補強すればいい。

 新品だと同じ型でも二倍から五倍すると言われた。それにはオーダーメイドも含まれるらしく色々と要望に応えてくれるようだけど、一から作ると早くても二十日はかかると言われた。もちろん人と材料が揃っていた場合だ。

 木を加工して組むだけなら簡単では? と思うが手作業だからな。魔法がある世界とはいえ、馬車作りで魔法を使うぐらいなら、別の職に就くだろうし。探せばもしかしたらいるかもしれないけどな。少なくともここ聖都にはいないらしい。


「ミアが乗るなら、どんな馬車がいい?」

「やっぱり座り心地のいい、疲れないような馬車がいいかな」


 軽い気持ちで聞いたら答えが返ってきた。

 聖都から出ないイメージを持っていたから驚いたけど、話を聞くと近隣の村や町に訪れることが年に数回あるらしい。これにはミア自身が希望を言って実行されている側面もあるとのことだった。あとは騎士団に同行した時に乗ったようだ。

 確かに前教会に行ったけど、あそこで四六時中ずっと過ごすとなると、息が詰まるかもしれないな。なんか堅苦しさを覚えたし。気分転換は必要だよな。

 と、話が逸れたな。まとめると、

 ①快適に旅を続けるには衝撃を緩和する機能が必要。

 ②野営をする機会が増えるから馬車で休めるだけのスペースが欲しい。

 ③は今は特に思い浮かばないな。②も野営で野宿する機会が増えたから、別に魔法で寝床作ればいいかなと思ってしまう自分が、ある意味怖いな。慣れとは恐ろしい。


「ありがとう、色々参考になったよ」


 次は商業ギルドか。テンス村の復興に関して何か進展があったのだろうか?

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る