第93話 聖都騒乱・13

 馬車の調査で予想以上に時間を費やしたため(実は馬車を作っている現場にも訪問させてもらった)、商業ギルドに行く前にレイラを除く面々と合流してお昼を一緒に食べた。仲間外れにしたわけじゃないですよ。


「それでレイラがいない理由は?」

「ギルドでまだ話しています。ここだけの話ですが、少し問題になっています」


 ヨルが声量を下げて言ってきた。討伐に行った先に魔物がいなかった件か。


「何事もないといいのですけど」


 ヨルさん、それはフラグというのですよ。


「セラとヒカリは用事は済んだのか?」

「うん、買い物は終わらせた。だからこれからは一緒」


 ちょっと頼んだ荷物が多かったかもな。セラからバッグを受け取りアイテムボックスに収納した。もちろんダミー用のアイテム袋を経由して。

 お昼を食べ終わったらヒカリとセラを連れて三人で商業ギルドを訪問。ミアはヨルたちと一緒に屋敷に戻って貰った。


「なんか呼ばれたらしいんだけど?」


 ギルドカードを渡して呼び出し理由を尋ねたら、前に通された部屋に案内された。

 部屋の中にはギルマスのアーサーがいた。


「急な呼び出しをして申し訳ない。少し聞きたいことがあったもので」


 それだけ言って言葉が止まった。用件は?


「……その、数日前にポーションを持ち込んだと聞いたのですが、どうなりましたか?」

「別の所で買取ってもらいましたが?」

「そうですか。もしまだ在庫があるようなら売って貰いたかったのですが……」

「あの価格で?」

「いえ、もちろんあの品質でしたら、もっと高く買い取らせてもらいます」


 俺の持っていたポーションを知っているような口ぶりだな。イドルで売ったものか、聖都で売ったものを手に取ったのか? 否、道具だと誰が売ったかなんて分からないからイドルで売った奴が情報源かもな。


「理由が分からないな。高く買い取ってもらう」

「……それは……」

「だって、それだと前回来た時の査定は、適正価格でない値段で買い取ろうとしたってことだよな?」


 痛いところを付かれたのか、表情を歪める。

 ああ、これもあれか。ギルドのランクで買取価格を決めてるのかもしれないな。

 それとも、今冒険者ギルドに問題になっている件で、ポーションが必要になるかもと思って事前に手を回してるかのどっちかだな。あとはここのギルド自体に問題があるという可能性もなくはないか……。


「それは商業ギルドが詐欺を働いたってことか? それとも査定も出来ない職員を担当においているってことか?」


 もしそれが真実だとしてもイドルの時は仕方ない。ヒカリにも言われたし、あの頃の俺は無知だったと認めよう。だが今は安く買われるなら高いところに売ればいいと思えるだけの余裕がある。お金に汚くなったわけでは決してない!


「特に用がないようだから行かせてもらうよ」


 これ以上話しても実りある話が出来るとは思えない。そもそもここのところの商業ギルドの株はだだ落ちだしな。


「待ってくれ。……待ちなさい」


 必死な言葉に足を止めて振り返る。

 何かを決意したような、睨みを利かせた顔で口を開く。


「そのような態度ならこちらにも考えがある。いいのか?」


 脅しか? 非を認めず逆切れか。


「分かった。ならこのポーション、薬師ギルドと錬金術ギルドに持っていくよ。そこでいくらで買取してくれるか聞いてくるよ」


 ならこちらもそれなりの対応をしよう。


「それで商業ギルドでは、これをいくらで査定されたかを公表させてもらおう。問題ないよな?」


 舐められたままだと、今後もこのような輩が同じようなことをしてきそうだ。釘を刺しておくのは大事だ。もちろんこれが原因でギルドを辞めさせられるなら、別の方法を模索しないとだから面倒だが。

 否、いっそ毎回入場料を払って入ればいいのか? けどそれだと手続きが面倒なことになるかもしれないんだよな。


「主様は、結構敵が多いのか?」

「どうなんだろうな。別に相手が普通に対応してくれるなら、自分から喧嘩を売ろうとは思わないんだけどな」

「けどいいのかい? もしかしたら高く買い取ってくれたかもなんだろ」


 そうなんだよな。今、お金が切実に欲しい時なんだよな。

 けど嫌なところに無理に売るのも何か嫌なんだよな。

 屋敷に戻って事の次第を話したらミアには呆れられた。けどヨルたちからは賛同を得られた。多分、依頼に関して色々と嫌なことも経験してきたんだろう。

 何故かその後愚痴大会に発展し、トリーシャーの怖い一面を見せられた。

 うん、普段おっとりしている人ほど怒ると怖いよね。けど他の面々はその姿に特に戸惑うこともなく、軽く聞き流してる様子だった。パーティー組んで三年って話だったしな。

 女子会が白熱してきたので俺は一声掛けて部屋に戻ると、アイテムボックスから材料を取り出すと錬金術をはじめた。

 まずは鉄鉱石を分解して幾つかの山に仕分ける。一つの鉄鉱石に色々混ざってるから不純物を取り除くのが大事。それを買ってきた鉄鉱石全てで繰り返す。

 一応既に不純物を取り除いた鉱石も売っているようだが、高いのでやめた。不純物は不純物で弾丸ほかで使い道があるので取っておく。

 結局食事の準備が終わって呼ばれるまで、一人黙々と錬金術に精を出した。

 そしてその日。結局レイラが屋敷に戻ってくることはなかった。

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