第89話 魔力講座・5

 モゾモゾという物音を捉え、意識が覚醒していった。

 目を覚ますと、目の前にミアの顔があった。覗き込むように見てくる。視線が合って、向こうも驚き慌てている。

 その姿を見て冷静さを取り戻した。そして思い出す。昨日寝るまで魔力の練習をしたんだった。


「ごめんなさい。その、ベッドを奪ってしまったようで……」

「気にしなくていい。昨日は俺も止めるタイミングを見誤って、無理をさせたようだしな」

「ううん、そんなことない。お陰で今日は頑張れば出来るような気がするし」


 昨日の練習でいつも以上の手応えを感じたのか、嬉しそうに笑った。その自信が成果に繋がってくれればと思いながら、ちょっと見惚れていたのは内緒だ。ギャップがね……。

 朝食を済ませ、先に模擬戦を行い、それから魔力の練習。これにはヒカリにセラ、ユリも参加した。いつもヒカリたちが練習している客間に集まる。


「ヒカリたちはどのぐらい出来るようになったんだ?」


 ゆっくりと話したことはなかったな。日常生活のあれこれとか、美味しいお店の話は良くしていたけど。


「主、凄く成長している」


 練習用の魔石を手に持ち、魔力を籠め始めた。

 以前はちょろちょろと弱い注がれ具合だったのが、今はスーっと、遅いながらも安定して一定量注がれていく。もちろん実践で使えるレベルではないけど、めざましい進歩だ。

 次はユリのお披露目。元々の魔力量が多かったのもあって、ユリはもっと早く魔力を籠めることが出来るようになっている。これを将来どう活用するのだろうか? と思うが、楽しそうにやっているのでとやかく言わない。魔法に目覚めたら、ダンは血を吐いて倒れそうだが気にしない。


「主様、これは何をしてるんだい?」


 傍から見たら意味不明だろうな。魔力のコントロールだと言っても分かってくれないだろう。ただ、セラは無意識のうちに使っているような気がする。模擬戦の時に一度魔力察知をしながら戦った時があったけど、その時戦いになると魔力を体中に循環して戦っていた。ただそれが戦闘に繋がっていたかと言うとそうでもないんだよな。


「セラは魔法を使うことが出来るか?」

「主様、ボクたち獣人は基本的に魔法は使えない。もちろんたまに使う者もいるけど、極稀だよ」

「だからセラは使えない、と」


 セラは頷く。


「なら魔力を感じることは出来ないのか?」

「出来ないよ」


 なら天性のものか、それとも戦いの中で生き延びるために進化して無意識のうちに身に着けたのか。あくまで想像だけど。

 少なくとも俺と同じぐらいの子が、1からレベルを65まで上げようと思ったら、どれほどの魔物と戦い経験値を積む必要があるのか。正直想像することが出来ない。


「けど、セラは無意識に使っているような気がするけどな」

「……分からないな」

「そうだな。例えばセラが誰かと戦おうとした時に、普段よりも体が軽くなったとか、動きが良くなったとか感じたりするか?」

「考えたことはないな」

「なら今度模擬戦をする時に意識してみるといい。あ~、ただし実践ではやるな。変に意識して動きが悪くなると危険だからな」


 それが分かるようなら、魔力の使い方を改めて学ぶのはいいかもしれない。


「主、ミアとはどんな練習してるの?」

「そうだな。なら両手を出して」


 差し出された手を握る。


「こうやって手を握って、俺が魔力を流す」

「ん、ぞわぞわして変な感じがする」

「俺の右手から流れて、ヒカリの体を経由して俺の左手に戻る。そんな流れを感じることが出来るか?」

「うん、出来る」

「これでまずは魔力を感じて貰ってたんだけどな。どうも説明不足で上手くいかなかったんだ」

「そうなの?」

「はい、駄目でした。けどけど、昨日は別の練習方法を教えて貰ったので、今までよりもはっきり分かるようになったんですよ!」


 嬉しいのか凄く興奮してる。テンションも高めだ。


「うん、それは良かった。どんな方法?」


 それを聞いちゃいますか。コテンと可愛らしく傾げても駄目ですよ。素で聞かれると恥ずかしいのか、ミアの顔が真っ赤になっていきますよ。

 あ、なんかセラが目を細めている。猫目だから? 視線がきつく感じられます。

 だがここで誤魔化すと疑惑が深まってしまう。ここは練習だからアピールで乗り切るしかない。


「ヒカリは魔力を籠めようとする時に、体のどのあたりに一番魔力を感じるか分かるか?」

「ん、と。ここ」


 心臓のあたりですか~。魔力察知で視る限り間違ってはいませんね~。え、そこ触らないといけないの? ある意味胸ですよね。まだ育ち盛り中で未発達だからセーフかもだけど、ミアの視線が凄く痛いですが。自分の時は恥ずかしそうだったけど、我慢してたけど、他人にするのはアウトですか?

 こ、ここは口で説明して納得してもらおう。


「ヒカリはそこを触ったまま、魔力を魔石に流す時の様に魔力の出力を強めてみな」

「うん、分かった」


 ふ~、どうにかいけそうか?

 あ、背後からなら問題なかった。

 けど真剣なヒカリの邪魔を今更する訳にもいかない。


「どうだ? 掌に感じる強さが変わったりするのが分かるか? 分かったら意識して魔力を動かしてみるんだ」


 魔力察知で視る限り、先ほどよりも大きくなっている。大丈夫。ヒカリはやればできる子だ。信じているぞ。


「おお、変な感じがする。けど動かすと分かりにくい」

「出来てるようだな。練習していくうちにはっきり分かるようになるから、そうなったら合格点を上げるぞ」


 頭をポンポンと撫でてミアを見る。

 視線で語る。どうする? と。

 流石に他の人がいると恥ずかしいのか、自分の手で当てながら練習を行った。良かった、のか?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る