第88話 魔力講座・4

「だ、大丈夫なの?」


 ミアには驚いたけど、今は応えることが出来ない。MPを使い過ぎた。倦怠感に襲われてちょっと体を維持するのも辛い。横になろう。

 と、思っていたら徐にミアに掴まれて、頭がミアの膝の上に。何故?


「ルーおばさまに教えて貰いました。疲れた男性にはこれが一番だって……」


 確かに疲労困憊ですが、何を教えてるんだあの人は。

 視線の先にはミアの顔。ちょっと顔が赤いようだけど、恥ずかしいなら無理する必要もないと思うのだが?


「そ、それよりも先ほどのは何ですか!」


 恥ずかしさを紛らすためか、声がいつもより大きい。ちょっと裏返ってますよ。

 耳に響くから音量は抑えような。


「今のは錬金術だよ」


 下手に隠して追及されると困るので、言えることは話す。


「今のが錬金術ですか。ソラはポーションも錬金術で作るって言ってましたしね」


 言ったか? 記憶にないから誰かから聞いたのかもしれない。


「錬金術を初めて見ましたが、不思議ですね」

「俺のは独学だから、普通とは違うかもだけどな」

「そうなのですか?」

「ああ、ミアの神聖魔法と同じ。ある時使えるようになったから、何故出来るかとか、どうすれば出来るとかはちょっと説明出来ない」

「そうですね。それだと説明は難しいかもですね」


 自分に置き換えたのだろう。納得してくれたようだ。


「それより何か用だったのか?」

「その、今日も魔力の練習をしたいと思って。無理なら今日は止めておきます」

「……問題ないよ。だいぶ楽になったし。それに俺は魔力を使わないから大丈夫だ」


 膝枕からの解放。恥ずかしかった。

 目が合うと、ミアも恥ずかしそうに一度目を逸らした。恥ずかしいなら無理にやらなくてもいいのに。とは、口に出して言わない。

 変な空気のなか手を合わせて魔力を流す練習をする。

 ミアは目を閉じて集中。もうすぐこの練習をする時間も終わる。俺がいる間に成果が出てくれればいいけど、出来なかったらどうしようと悩む。

 俺が魔力を流した時は感じることが出来ている。インプットは出来るけど、アウトプットが出来ない。けど無意識にヒールを唱えた時に魔力を放出しているから、出来ないことはないと思う。


「ミア、魔力を流そうとするとき、どんなことを考えている? それとも何も考えずにやっているのか?」

「一応体の中で魔力を探って、それを流そうとしてる感じ?」

「魔力は感じることが出来るのか?」

「……ぼんやりと感じてる、のかな?」


 自信なさげに言われた。

 これは俺のミスかもしれない。魔力を感じたという話だったから、もうすっかり分かっているのかと思ったけど、どうも違うみたいだ。


「ちょっとストップな」

「ストップ??」

「あ~、待ってくれという意味な。少し休憩、というか考えをまとめるよ」


 手を放し、姿勢を変えて横に並ぶように座る。

 問題は魔力をしっかり掴めて……感じていないからだと思う。これは間違いない、はず。


「どうしたの? 何か私のやり方に問題があった?」

「俺の教え方の問題かもしれない。今、ミア一人で魔力を感じることが出来るか?」


 目を閉じてミアが集中する。

 俺は魔力察知を使って魔力を視ようとする。

 お腹の下あたりに魔力があるのが視える。おへその下あたり、丹田と言われる場所だな。


「今、一番魔力を感じる場所がどこだか分かるか?」


 ミアが迷いながら心臓あたりから、お腹の上あたりを撫でる。自信なさげな感じがその手つきから伝わってくる。


「今から俺が魔力を感じている場所を触るけどいいか?」


 一言断る。突然触ると悲鳴を上げられかねないからな。そうしたら惨事だ。


「うん、いいよ」

「それじゃ触るからな」


 俺はそっとおへその下を触る。ビクリとしたが、ミアは何も言わずジッとしている。うん、きわどい場所だよねここ。


「今俺が手で触っているところがそうだと思うが、分かるか?」

「…………うん、意識すると、そこのような気がする」

「それじゃそこに意識を集中してみて」

「あ、そのままでお願い」


 手を離そうとしたら止められた。これも知らない人が見たら通報ものですからね。どうか、誰も来ませんように。

 俺は色々な意味で願った。

 沈黙する時間。ミアの息遣いだけが静まり返った室内に聞こえる。

 下手に動揺するとミアに伝わって焦らせてしまうかもなので、平静を装う。緊張で力が入って強めに押したら色っぽい吐息が。柔らかいな。あ、お腹がポッコリしていて柔らかいんじゃないよ? 一応名誉のために言っておくと。

 うん、何を変なことを考えてるんだ。真面目に魔力を視よう。

 最初動きのなかった魔力は、しばらくしたら少し、ほんの少し動いた。おへその位置までゆっくり昇っていき、また元の位置に戻った。

 それだけでミアの額には大粒の汗が浮かび上がり、疲労の色が濃く見えた。


「難しいけど、いつもよりしっかり魔力を感じられたような気がする」


 けどその表情からは手応えに満足した様子がうかがえた。


「もう一回付き合って貰ってもいい?」


 少しの休憩を挟んで、ミアがおずおずと尋ねて来た。

 やる気に溢れていたから付き合うことにした。

 結局一回で終わらず、何度も何度も繰り返した。視ていて徐々に魔力を大きく動かせるようになっていたため、止めるタイミングを逸してしまったとも言う。

 結果。今ベッドにはミアが横になり、静かな寝息をたてている。

 起こすのも悪いと思い、俺は仕方なく床で寝ることにした。

 むう、背中に感じるこの堅さ。微妙に寝にくい。これなら土魔法で陣地を築いた野営の方が快適かもしれない。そんな事を思いながら眠りについた。




 


 

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