第87話 冒険者ギルド
やってきました冒険者ギルド。
ただなんか雰囲気が前来た時と違う。
ミアは初めて来たらしく、キョロキョロと物珍しそうに見ている。目立っていますよ、ミアさん。ただでさえ男一人に奴隷二人、女一人なんだから。
珍しい獣人よりも目立つとか、ある意味才能か?
「セラは冒険者ギルドで登録したことはあるか?」
「ない」
「なら受付に行って登録してくれ」
「主様は冒険者登録しないのか?」
「ああ、俺は商業ギルドで登録してるから。必要ない」
何故か呼び方が主様になった。どうやらヒカリが主と呼んでいるからそうなったらしい。名前を呼びたくないからじゃないよね?
セラが登録している間、周囲の会話に耳を傾ける。放っておくとミアが何処かに行きそうで怖いから手を握って拘束しながら。
冒険者が話しているのをまとめると、どうも魔物の数が減っているらしい。良いことではないかと思ったら、討伐依頼で向かったけど、何処を探しても見つけることが出来なかったりと、色々問題になっているようだ。しかもそれが一つだけでなく、少なくない数発生しているようだ。
「主様、登録終わった」
まだ余所余所しい言葉遣いだな。壁を感じる。
「なんかお使いクエストがあるようだから、街中を歩くついでに一つ依頼を受けてみよう」
これで三十日に一度のノルマをこなす計算になる。どれぐらいの頻度で受けることになるか分からないから、時間がある時にこなしていきたい。
依頼書の前で三人が、主にミアが興味深そうに依頼を眺めている。ヒカリとセラはどれでも良い、みたいな感じだ。
結局ミアが決めた依頼を受けることになった。内容は東側に建つ教会から孤児院への配達。降臨祭の準備で忙しく、人手がないため依頼を出したようだ。
セラが受注すると、四人で連れ立って歩いた。
街の説明をしながら歩く一行。主な情報が飲食関係なのは気の所為じゃないよね? ヒカリなら仕方ないと思うけど、ミア、君もそうか……。
依頼は無事終了。セラが前面に立って色々こなしたけど、教会でミアに気付く人がいるかと思ったけど誰も気付いた様子はなかった。
ギルドに報告する前に食事をとることに。セラの食べる量は年相応で普通だった。遠慮しなくてもいいと言ったけど、特にお代わりはしなかった。我慢しているわけではなさそうだからいいか。
その後ヒカリとミアに懇願されてスイーツ店に。贅沢を覚えてしまったようだ。と、思ったけど、ヒカリ曰くセラのためとのこと。美味しい物で関心を惹く作戦か?
それを聞いて一瞬目を輝かせ、すぐに平静を装った者がいたけど、尻尾がソワソワと揺れているのを俺は見た。
大人だから指摘はしませんよ。指摘したら意地をはって食べないとか言いかねないから。そうなるとヒカリもミアも遠慮しそうだし。
奴隷期間が長くても、甘味を食べる機会があったのか。それとも奴隷になる前に食べた時の記憶を覚えていたのか。真相は謎のまま、聞く雰囲気でもなかったしな。
人数が増えた分だけ、前回よりも支払った料金は増えた。もちろんお土産も忘れない。
今日一日で貯金の殆どがなくなった……明日からまた頑張ろう。
ただお金が減ったからカードにお金を預ける必要もなくなってきたな。というか、ギルドを首になったらこのカードの中のお金はどうなるんだ?
食事を終えて冒険者ギルドに報告したら真っ直ぐ屋敷に戻った。あとは寝るだけ! と思うがやることはある。
お土産を渡し、少し休憩してから模擬戦。セラの実力を知るのは大切。ヒカリも参加するようだ。ミアとユリ、ルーは観戦するらしい。お茶のセットは要らないと思いますが?
結果はセラの戦い方はただただ豪快。パワーとスピードを生かした攻撃で、型らしい型はない戦い方。攻撃に重点が置かれていて、防御は木剣を交差させて面で受け止めるか避けるかしている。スピードを生かした回避行動が主だった。
俺は立ち回りを気を付けて戦ったけど、結局パワーに押されて負けた感じ。久しぶりに力負けした。
逆にヒカリはスピードを生かしてセラの先手先手を打って押し負かした。
「豪快な戦い方だが、何だってこんな戦い方してるんだ?」
「魔物に型なんかない。攻撃されたら不利になるのはこっちだから、その前に倒す癖が付いている、んだと思う」
おお、素直に教えてくれた。
納得だ。確かにセラの戦い方は対人とかを考えた戦い方じゃないな。良く言えば無駄のない攻撃、悪く言えば素直過ぎる攻撃。フェイントなど皆無だ。魔物も個体差はあるとはいえ、人ほど駆け引きのある攻撃をする個体は少ないような気がする。少なくとも俺が戦ってきた魔物限定だけど。
まあ、オークなどの人型は多少の駆け引きをしてきたけど。
模擬戦が終了したから浄化魔法を使った。あくまで一時的な処置だ。屋敷にいる以上、お風呂を使わせて貰っている。これもある意味贅沢だよな。
セラは抵抗したけど、ヒカリ、ユリ、ミアに引きずられて連れて行かれた。
「奴隷と聞いてましたけど、素直そうな良い子ではないですか」
「比較的同性に対しては棘がないよう、です。あとは距離感に戸惑っているような感じがします」
「ふふ、良く見ているのですね」
「……これから一緒に生活していくわけですし。それなりに気を使っていますよ」
「私に対するその言葉遣いもその表れですか。娘たちと同じような言葉遣いでも問題ありませんよ?」
からかわれているのか? ある意味この家で一番つかみどころのない人だよな。
食後は自由時間。セラの教育はルーさんを中心に任せた。ヒカリ、色々心配。ミア、一般常識が心配。ユリ、強く言えないかもしれない。ルー、きっと大丈夫。ということでお願いした。皆も一緒に受講中だ。俺にも必要なような気がするけど、今更だしな……。
俺は一人になれたので色々と工作をすることに。まずは製作途中の五代目の作成。連射性の向上もそうだけど、耐久性重視で作っていく。耐久性を上げると厚く、重くなってしまうので、なかなか上手くいかない。最終的に別の鉱石を混ぜることでどうにか出来上がった。
次は銃弾の作成。これは付与術を使って、通常の弾丸だけでなく属性を付与したり、魔法を付与したりして色々作ってみる。試射しないと効果が分からないのが難点だ。街の外に出て今度試すしかないか。
あとは音を抑える為の部品、サイレンサーの作成か。レイラも銃声にはかなり驚いていたようだしな。洞窟内だったから特に響いたし。
そして今日作ろうと思った一番の魔道具の作成に取り掛かる。
オークの魔石を二〇個取り出しこれを錬金術で合成する。運搬代としてかなりの魔石を貰えたからな。
魔力を多めに籠める。ここで一本、二本とマナポーションを空にする。休めば回復するけど、興に乗っているためそのままの勢いで続行。MPが全快したのを確認して結界術の付与を魔石に行う。
コントロール出来ない。まるで吸い込まれるように魔力が減っていく。途中で中断することも何故か出来ない。魔石から目が離せず、ただ成功を信じて完成するのを待つしかない。
あと少しで魔力が切れると思った瞬間、魔石から眩しい光が発せられて視界を覆う。しばらく発光していたけど、やがてそれも納まると、手の中には赤色から青色に変色した魔石があった。
「い、今の何?」
驚いた。振り返ると、そこにはミアがいた。
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