第86話 奴隷契約
相変わらず部屋に入ると、敵意を向けられる。
ミアなんて最初小さな悲鳴をあげたしな。今も怖いのか、不安そうに腕にしがみついてくる。うん、まだまだ成長期です。将来に期待、ということで。
「で、何の用だ」
「お金が貯まったから君を購入しに来た」
「……今日は女を増やしてわざわざ来たの」
ミアを睨んで喧嘩腰の言葉遣いだ。
悪ぶって、印象を悪くして買われないようにしているのか?
だけどエルド共和国の名前を出した時は、ちょっと迷うような仕草をした。
否、逆か。人種の言葉だから素直に信じられない、というのもあるのかもしれない。
「俺買う人、君買われる人。拒否権はないから悪ぶるな。それに……」
「それになんだ?」
「最後に一度だけ、人間を信じてみろ。後悔はさせないよ」
通じなくていい。今は。本当ならルリカとクリスがいれば素直に買われるんだろうけどな、ただ、今は獣王国の方にいってるし。物騒な通り名があるようだけど、戦力だけを考えれば誰かが買うかもしれない。
それに獣人は人気があるようで、見た感じ黙ってれば愛でたくなるような容姿だから心配になる。結局金さえあれば奴隷に拒否権なんてないわけだし。
むしろ売れていなかったのはタイミングが良かったのか、かなり運がいい。奴隷を嫌う風土も味方してくれたかもしれない。あとは見た目からは強さが分からないというのもあるんだろうか?
俺の場合は鑑定をすればレベルが分かるからな。
「それではソラ様。まずは代金の確認をよろしいですか?」
「ああ」
カードを提示し、金貨七〇枚を渡す。
「それではカードから金貨四三〇枚を引き落として、そして金貨七〇枚、と。合わせて五〇〇枚。確かに確認しました。では契約内容の確認を」
契約者に危害を加えることを禁止する。ただし自身が危険に晒された場合はそれ限りではない。
「要約するとこんな感じか。結構シンプルなんだな」
「戦争奴隷だと一般的にはこのような感じになります。また、この危険は幅広く適用されます。例えば性的なことを無理やりしようとしても危険に該当します。中には早く解放されたくて了承する者もいるにはいます」
「特に不満はないからこれでいいよ」
「分かりました。セラよ、こちらに」
魔法陣の中で契約が執行される。
両手両足の拘束具がとれる。
改めて見ると、貫頭衣のような服でちょっとエロい。頭一つ分小柄なのに、出るとこ出てるから視線に困る。首輪がさらにいけない感じにさせる。
ぎこちなさを感じ取ったのか、ミアがローブを要求。俺が差し出すとセラに渡し着るように促した。
当のセラはそれが当たり前の服装だったから気にした様子もなかったけど、その剣幕に押されて素直に従ったようだ。
「最低です」
不可抗力じゃないですか! と声高に叫んでもミアは認めないだろう。だから言い訳はしない。そのような目を向けたことは事実。甘んじて受けよう。
「それでは契約が完了しました。どうか、よろしくお願いします」
奴隷商なんてやっていても根が悪人ではないのだろう(偏見か?)。セラの境遇を知っているから心配そうに言ってきた。
「大丈夫。悪いようにはしないよ」
俺が言えるのはそれだけだ。
「まずは……服を何着かと、武器が必要だな。だがその前に改めて自己紹介をさせてもらう。俺はソラ。こっちの可愛い子がヒカリ。俺の特別奴隷で先輩になる」
「ヒカリ。先輩だから何でも聞く」
「それでこっちが……一応教え子? のミア」
「……ミアです」
「友達がほぼいない子だから、短い間だけど仲良くしてやってくれ」
場を和ませようとしたら、おもいっきり足を踏まれた。酷い。
「ボクはセラ」
「他にはないのか?」
「特にない」
ツンツンしてるな。もう少し心を開いて貰いたいがすぐには無理か。
お店に行く道すがら、セラはキョロキョロと周囲を見回している。
まずは普通の私服を二着。それだけでいいのかと聞いたけど別にいいと、ぶっきらぼうに応えられた。獣人用に手直ししてもらうため少し待たされたけど、無言のままじっとしていた。
ミアが何事か話しかけていたけど、ガン無視されていた。ちょっと涙目だったから慰めておいた。勇気あるよ、あんた。最初あんなに怖がっていたのに。
次は旅用の服。こっちは主に冒険者が利用するような店だ。
セラはこちらの方が馴染みがあるようで、真剣に見ている。護衛に買ったって言ったから、それなりに使えるものを選定してるんだろう。予算を決めて、その中で予備を含めて買うように命令した。ただ頼むだけだとなかなか言うことを聞いてくれないからだ。
またこの店では、ミアがちょっとはしゃいでいた。普通なら利用する機会もないだろうし、物珍しかったんだろうな。しきりにヒカリに色々と質問していた。
最後に寄ったのが武器屋。両刃の斧で、柄の長さが七十センチぐらいのモノを選んでいた。二本も。
「これは予備か?」
「違う、左右に一本ずつ持って戦う」
「重くないのか?」
「? このぐらい問題ない」
獣人は身体能力が高いと聞くしな。試しに持たせて貰ったら……あれ? それほど重く感じないな。ただこれを両手に持って扱えと言われても無理か。
「模擬戦で使う、練習用の木剣みたいのも選んでくれ」
「模擬戦なんてやるのか?」
「あ~、最低限戦えるように鍛えてるんだ。セラにも相手してもらうつもりだから」
流石にあの斧で模擬戦はお断りだ。下手したら腕を切り落とされかねない。
「これで一通り揃えることが出来たな」
今のセラの姿は冒険者ルック。動きやすさ優先で、魔物素材を使った、見た目に反した防御力を持つ装備だ。斧は街中では邪魔になるから俺がアイテムボックスで管理。専用のアイテム袋が必要だな。なので普段は解体兼用の短剣を腰に差している。
あとはポーション用のポーチも購入。お金が飛んでいく。お金持ちになったのは一瞬だったな……。
「それじゃ最後に、冒険者ギルドに行くか」
セラには冒険者登録をしてもらおうと思っている。俺が登録する訳にはいかないけど、ギルドで使いたい機能があるんだよな。
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