第85話 聖都騒乱・10
「それでは行ってきますわ」
装備を整えたレイラたち一行が、早朝屋敷を出発していった。
ダンが心配そうに最後までごねていたが、ヨルは取り合わずスルーしていた。ルーとユリは一言だけ声を掛けて、後は黙って見送っていた。
レイラたちは結局合同の討伐依頼を受けたようで、一泊二日の日程になるということだった。現地までは馬車が用意されるみたいで、歩かなくて良いと喜んでいたな。
降臨祭までいよいよあと五日か。ミアも前日には戻るようなことを言ってたし、この生活もあと少しで終わると思うと少し寂しい気もするが仕方がない。
日課の魔力の練習をしようとして、ダンに呼び止められた。
珍しいなと思ったけど、もしかしたら昨日の件かと思ったら違った。
「効果の高いポーションを持っていると娘から聞いてな。少し譲ってもらえないかと思って」
「教会なら神聖魔法で十分じゃないのか?」
神聖魔法の使い手が多ければポーションなんていらなそうというイメージがあったから聞いたら、逆にだからこそ、いざという時の備えとして欲しいと言われた。
道具屋の買取価格を伝えたら、少し高く買い取ってくれた。何か裏があるのかと思ったら、それだけの価値があると言われた。
何でもポーションの一部をその道具屋から購入した教会関係者がその効果に驚き、もう少し補充したいという話になったらしい。ちなみに何故俺がそのポーションの出所なのか分かったかというと、ユリから聞いたから知ったらしい。娘と話した自慢は正直要らなかったが。
ちなみに何故ユリが知っていたかというと、ヒカリから聞いたからみたいだ。
回復、マナ、スタミナポーションを各五〇本で金貨七〇枚で買い取ってくれた。
「これで資金が貯まったな」
「奴隷を買うんだったか?」
思わず呟いた言葉に、おっさんの冷たい言葉が返ってきた。
「旅をするのに護衛は必要だからな。行商で旅するなら馬車も欲しいし、そうなったら自前で護衛を準備しないとだろ?」
「確かに旅は何があるか分からないがな。魔物だけでなく盗賊にだって気を付けないといけない」
「そういうことだ。あ、もし奴隷を買ったりした場合、連れて来るのは悪いか?」
「……しっかり
ヒカリの事もあるから今更か。
「教育に悪いことさえしなければ問題ない」
最後に釘を刺された。
ポーションを渡し、金貨は現金で受け取った。前もって用意していたようだ。
ミアとの魔力の練習を行い、その後奴隷商に行くことを告げた。なんかゴミを見るような目で見られたけど、最初か後かの話だしな。黙っていても買ってくれば分かるわけだし。
ミアにはヒカリと留守番をして貰おうと思っていたら、行くと言い出した。
流石に連れて行くのに抵抗を覚えたけど、梃子でも動かない感じだったのでこっちが折れた。一人にして勝手に何処かに行かれるのも怖いしな。
「それで何で奴隷を買うのですか? また特殊奴隷ですか?」
奴隷を嫌うこの国でも、特殊奴隷は別らしいしな。だが残念ながら特殊奴隷ではない。
戦争奴隷だけど、あれは自分を買い戻すためだから借金奴隷になるのか?
「多分借金奴隷になるんじゃないか? 目的は護衛な。性目的ではないからな?」
これは名誉のために言っておこう。……興味がないかと言われたら興味はあるが……。声高には言えないが。
「私、奴隷商に行くのは初めてです」
普通の人? はそうそう行くような場所じゃないだろうしな。
「主、あの人を買うの?」
「ああ、そのつもりだ」
「……あの人は危険。止めて欲しい」
敵意むき出しだったしな。ヒカリとしては心配なんだろうな。
「大丈夫。俺に任せなさい」
何を任せるのか分からないけど、安心させるために頭を撫でてやる。
「そんな危ないのを奴隷にするの?」
ミアにも飛び火したよ。
「大丈夫大丈夫。契約もあるし、主人には逆らえないようになってるからさ」
抜け道はあるっぽいけどな。
「そう言えば、前々から思ったんだけどさ。ミアって聖女だよな?」
「そうですけど」
「知名度ないのか? 聖女って有名人の割には、普通に歩いているのに誰も気付いた様子がないようだけど」
「ああ、貴方と同じよ。普段は顔が分からないように目元を隠す仮面をしてるから。貴方は家の中でもしてる変人のようだけど」
酷い言われようだが納得だ。素顔が分からなければ、今のミアはちょっと可愛い町娘にしか見えないしな。
「そんなことない。主、格好いい」
それは仮面を褒めてくれたのか? 最初は散々怪しいと言ってきたよね?
慣れとは恐ろしいもので、ヒカリはもう見慣れてしまったんだろうな。
そんなくだらない事を話していたら奴隷商の近くにまでやってきた。
近くに歓楽街があるから、朝帰りのきわどい服装のお姉さんの姿がちらほら。ミアはその姿を認めて顔を真っ赤にし、何故か
俺、関係ないよね?
何となくダメージを負った俺は、気付かないふりをして奴隷商の扉を開いた。
顔を出すとドレットは驚いた表情を浮かべたが、すぐに営業スマイルを浮かべて話しかけてきた。流石プロだ。
「例の奴隷を買いたい」
俺は要望を伝え、例の部屋に案内された。
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