第180話 マジョリカ・18

「ウィル・アレクシスだ。娘が色々と世話になったようだな」


 深々と頭を下げられた。


「それで聞いた話だとダンジョンで鉱石を発見したと聞いた。今、現物はあるか?」

「お父様。色々と先走り過ぎですわ」

「ん? けどソラ君だったか? 君のことは色々と聞いているからな。そう、色々と。ああ、あと話し方は普段通りで結構だ」


 どんな話を誰から聞いたかは追求しない方が良さそうだな。危険だと第六感が訴えている、ような気がする。何人か心当たりがあるにはあるけど。

 俺は言葉に従い魔鉱石に魔水晶、ミスリルをテーブルの上に並べた。

 感嘆の声を上げて、ウィルが人を呼んだ。呼ばれてやってきたものはテーブルに並ぶそれらを手に取り、ルーペのようなもので色々と調べている。


「旦那様、間違いありません。品質も申し分ありません」

「ふむ、となると一度調査隊を組む必要があるか……ただ問題はどれぐらい採れるかだな。君は分かるか?」


 急に真剣な表情になったな。きっと頭の中では物凄い計算をしているんだろうな。


「俺も正直どれぐらい採れるかは分からないな。を見繕って掘った結果だし。専門家ならもっと見付けられるかもしれないし、そこはダンジョン次第としか言えないな。変遷で採った鉱石が復活するかとか検証は必要だと思う」

「ふむ」

「それで一つ聞きたい」

「なんだね?」

「仮にこれからダンジョンでレアな鉱石が採れるとして、その場合どうなる?」


 その質問にウィルは眉を顰め、ジッとこちらを見てきた。何か観察するような視線が、全身を這うように注がれる。


「国の方針次第としか言えない。ダンジョンで仮に採れるようになったとしても、元々市場に出回っているものだ。量にもよるだろうがね」


 それもそうか。下手に考えても仕方ないな。詳しい人間が上手く扱ってくれることを祈ろう。


「さて、では次の話をしよう。今後の調査次第にはなるが、もしこの情報が正しかった場合の報酬だ。何が良いだろうかね」


 パッと思いつくのは二つぐらいなんだけど、難しいかな?


「言うだけは自由だ。遠慮はいらない」


 なんか試されているような感じも受けるけど、言うだけはタダだしな。


「ソラは魔法学園に通いたいと言ってましたわ」


 考えていたら横合いからレイラが突然口を開いた。

 それ、俺じゃなくてヒカリだからね。そして何故満足そうにしている。


「そうなのかね?」

「あ~、それは俺と言うよりも、パーティーの仲間が一度行ってみたいと言っていまして」

「だ、そうだが?」


 ギロリとレイラを睨んでいるけど、レイラは視線を逸らしている。

 やがてその視線が俺に注がれる。答えを促す様に。


「今思いつくのは二つほど。一つは孤児問題で、もう一つは奴隷の情報が欲しい」

「ふむ、詳しく聞かせて貰おうか」


 予想外の答えだったからなのか、興味深そうに聞いてきた。


「孤児に関しては仲間の一人が気にしていて、な。否、街の人の中にも気にしている人がいたな。だから改善出来るようならして貰いたい。奴隷に関しては、これもパーティーメンバーが幼馴染みを探していて、奴隷になっているんじゃないかということで、伝手があって探すことが出来るなら探したいというところだ」

「……孤児に関しては現状手の打ちどころがないな。出来ることはしているが、根本的に資金が、ね。ただ鉱石の採掘で資金が回ればそちらに回すことは可能かもしれない。奴隷に関しては流石に畑違いだな」


 そうだよな。奴隷に詳しいとか、かなりの好き者じゃないと率先して調べようとは思わないよな。見た感じ、ウィルからはそんなイメージないし。俺の思い込みかもしれないけど。


「奴隷か。所在が分からないとなると戦争奴隷か何かかな?」

「そうらしい。そのうちの一人は見付けられたんだけどな。もう一人、エルフの子がまだ見つかってないんだ」

「……探してるのはエルフなのか?」


 眉間に皺が寄り、腕を組んで考え込んでしまった。


「エルフなのは何か問題があるのか?」

「今ではないが、戦争がまだ激しい頃だったかな? 一時期エルフが誘拐されているなんて噂が流れたことがあってね。そもそもエルフ種自体、数が少ないというのもあるのだが……実際エルフの奴隷なんて、ここ数年見かけた者はいないんじゃないか」


 確かドレットもそんなことを言っていたような気がする。

 クリスの件もあったけど、俺が思っている以上に、この世界はエルフが生きるには厳しい環境なのだろうか?


「報酬に関しては……またこちらから連絡させて貰おう。ただ学園の件は、それとは別に体験ぐらいなら出来るように手配するとしよう。もちろん君も魔法の使い方が上手くないと聞いた、為になるかもしれないぞ?」


 もしかして騎士団あたりから連絡があったのかもしれないな。レイラは不思議そうにその話を聞いているし。


「なら仲間に相談するとしよう」

「ふむ、今回は有意義な話が出来た。調査結果次第だが、まあ、それは結果が出てから話すとしよう」


 何故か握手を求められたので、迷ったが従った。

 ずっしりと厚い感触が手に平に伝わってくる。ちょっと、少し力入れすぎじゃない? 痛くはないけど、締め付けるように握ってきているんだが。


「では、また機会があれば会うとしよう」


 涼しい顔で別れの言葉を言われた。最後のは一体何だったんだろう?

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