第179話 マジョリカ・17

 今日はヒカリと一緒に商業ギルドに訪れた。

 何故か相も変わらず一人で行動するのを禁止されている。


「それでは更新をお願いします」


 借家の更新を済ませて帰ろうとしたら呼び止められた。


「あ、あの、ソラさんがダンジョン探索をしているという話は本当でしょうか?」


 確か何度か話したことがあったと思うけど、どうしたんだろう?


「もし次にこちらの階に行くようなことがあったら、お願いしたいことがあります」


 採取依頼や素材の依頼だった。主に五階で採れる食べ物関係と、ロックバードとタイガーウルフの素材だった。


「冒険者ギルドの方にも一応出しているのですが、こちらにはなかなか回ってこないものでして」


 それで直接話を持ち掛けたという話か。確かに商業ギルドへ直接持ち込むと、ギルド員じゃないと買取価格が安くなるんだったか? 聖王国でそんなことを言われたような気がする。

 そのことを話したら、首を傾げられた。国によってルールが違うのか?

 考えてみれば、確かにそれだと、わざわざ商業ギルドに素材を持ってこようとは思わないよな。


「機会があったら構わないが、魔物の解体とかはした方がいいのか?」

「こちらに施設がありますので、そのまま持ち込んで貰っても構いません。解体代の方は……タダにはなりませんが値引きさせて貰います」


 帰る時、知り合いの冒険者にも是非声をかけて下さいと言われた。

 知り合いか……何人かの顔馴染みはいるけど、いないようなものだよな。フレッドたちぐらいか?

 なんてことを考えていたからかどうかは分からないけど、借家に戻る途中に件のフレッドとバッタリ会った。しかもその傍らには懐かしい顔があった。


「お、ソラじゃねえか。今日は休みか!」


 フレッドの声に、周囲にいた冒険者の目が注がれた。


「フレッドか……新しいメンバーの勧誘か?」

「ああ、少し前にこの街に来たみたいでな。話してみたら馬が合ったっていうか……って、どうしたサイフォン?」

「悪い。知った名前だったから驚いてな」

「どうも初めまして。行商を生業としているソラと言います」


 前と比べて目線が少し違うな。あれ? もしかして俺の背が伸びているのか?


「こいつ商人詐欺だから気を付けろ。下手に揉めると魔法で焼かれるぞ」


 それはどういう意味だ?


「魔法? 魔法を使うのか彼は……」

「まあな。以前一緒にというか、探索に付いて行ったパーティーの一人だ。ちなみにそこの嬢ちゃんも強いぞ」


 ヒカリは興味なさそうにしているな。一応君の事言ってるようだぞ。


「ん? ということはまた一階からダンジョンに行ってるのか?」

「ああ、この前四階まで行ってきた。そういうソラは何処まで行ったんだ?」

「一応二十階のボスを倒したところだ。戦力不足を痛感したけどな」

「六人でか?」


 そんな信じられない者を見た目をされてもな。確かに無茶なことをしたと、今だったら素直に言えるけど。

 俺はそれならと、先ほど商業ギルドで聞いた話をフレッドにした。


「そういう依頼もあるのか。五階に行くし、余裕があったら見てみるとするわ。食べ物系は、ソラがせっせと集めてたのを見たからな。実際食ったら美味かったし」


 街を案内するということで、フレッドたちとはその場で別れた。

 一応ルリカたちにサイフォンたちがこの街に来ていることは伝えておいた方がいいな。俺のことを話すとは思わないけど、驚いた拍子にうっかりということもありえる。

 借家に戻って早速話したら驚いていた。プレケスのダンジョンに行くって言っていたのにマジョリカにいると考えれば仕方ないか。

 午後は先日の約束通りレイラに連れられてとある家、正確には屋敷にやってきた。

 馬車に揺られて高級住宅街の方にきた時から薄々感じていたけど、やっぱりか。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 馬車が停車すると同時に、外側からドアが開けられてのお出迎え。屋敷に入れば使用人が並んでのお出迎え。一言二言話すと、先導されてとある一室に通された。


「あまり驚いていないのですわ」

「まあ、なんとなくこの街に来てからの周囲の人がレイラに向ける目とか、な。それで何となく察したかな?」


 鑑定で改めて見れば、レイラ・アレクシスとある。セカンドネーム? ファミリーネーム? これが付いている人は稀だったしな。もちろんただの町人には、ファーストネームしかなかったし。

 ただ街の領主の娘とは思わなかった。訪れた街で一々領主の名前とか確認したこともなかったし。

 けどヨルのところに行った時に、レイラたちが落ち着いていた理由が分かったような気がする。友達の家というのもあったのだろうけど、常日頃からレイラと接していて慣れていたのだろう。


「残念ですわ。驚かそうと思っていたのに」


 え、あれで? ケーシーもちょっと驚いている。時々自爆気味に口を滑らせたりもしてたような気がするけど気のせいか?


「改めて名乗りますわ。私はここの領主の娘で、レイラ・アレクシスと言いますわ。今まで通りレイラと呼んでくれて構いませんわ。あ、あと今まで通り接して貰えると嬉しいですわ」


 確かに学園の人たちの態度は、憧れというか、ちょっと一歩引いているような感じだったしな。ただ慕われているのは感じられる態度だった。


「まあ、レイラはレイラだしな。ヨルの時も大して変わってなかっただろ?」

「そう言われたらそうですわ。ソラはもしかしたら大物かもですわ」


 ただ単にこの世界の常識に疎いだけだけどな。あと口のきき方が良く分からないと言った感じだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る