第178話 マジョリカ・16

 無事生還出来た。

 誰かが数は力だと言ってたけど、確かにその通りだと実感させられた一戦だった。

 下の階に行くほどパーティーメンバーの人数が多くなっていた理由が分かったような気がする。

 同人数同士で戦えば決して負けない相手なのに、苦戦するのがその証拠だ。もちろん一人一人の力量も必要だが。連携とか。

 報告と納品を済ませて、今日は真っ直ぐ家に戻った。

 家に到着すると、見知った顔と意外な人物が待っていた。


「レイラとケーシーは分かるけど、そっちは何の用だ?」


 タリヤたちは買い出し、女性陣はお風呂と体を休めるために自室に戻っていて、今この場には四人しかいない。


「まずは謝罪を。君の証言が正しいことが分かったから、それを言いに来た」


 守護の剣、アッシュが頭を下げて謝ってきた。

 一瞬何のことかと思ったけど、十階のボス部屋の件だということを思い出した。

 ただわざわざ謝罪に来るとは思っていなかったため、どう対応すればいいのか戸惑う。

 レイラも突然のアッシュの態度に驚いているようだし。

 それを察したのか、アッシュは苦笑して、頭を掻きながら弁明した。


「実はどうしたものか迷ってね。ただレイラ君とも親しい君には、うちの実情というか、隊長のことを知っておいて欲しいと思ってね」


 それから始まったアッシュの話によると、ジェイクは先代のクランリーダーの息子らしく、リーダーになってまだ間もないと言う。

 時期的にはレイラたちが聖王国に行っている間で、迷宮攻略中の探索で仲間を庇って命を落としたとのことだ。

 流石にその時は混乱し、クラン存続の危機だなんだとあったけど、ジェイクが継ぐことで事なきを得たらしい。アッシュがサブリーダーとして補助しているのは、若くして攻略組で活動していたというのもあるけど、何かとアッシュと組んで仕事をすることが多かったというのもあるらしい。


「学生の頃に書類仕事とかも、良くやっていてね。レイラ君は知っていると思うけど」

「確かに先輩は色々と先生に頼まれてましたわ」


 どうやらアッシュはレイラの先輩で、一緒にダンジョン探索をしたこともあるそうだ。懐かしそうに話すレイラを見て、何処か嬉しそうにしている。


「だから色々とジェイクさんは苦労していてね。威厳を出そうと気難しい態度をとったりと、ちょっと空回り? することもあるけど、それは必死にクランを守ろうとしてなんだ。本人としては、真偽はともかくとして、身内を守ろうとしたんだよ」


 だから許してくれと言われてもな。


「もちろん、嘘を言った彼らにはペナルティーを設けた。結構厳しめのな」


 脱退させないのは、クランを首になるというのは、結構重い意味を持つかららしい。

 もちろん理由によっては、例えばさらに上を目指すために大きなクランに移籍をするなどならまだいいけど、規律を破ったなど負の理由で抜けた場合は、別のクランに入ることも、それこそこの街で活動することも難しくなる。

 それなら何故あのような嘘、禁止とまで言わないけど迷惑行為に手を染めていたのかということになるわけだけど、大きなクランに所属していたということで、その権威を利用して周りを巻き込んでいたとのことだ。

 最前線でダンジョン攻略を行うクラン。それは利益を生むという意味でも、特別な立ち位置になっていたようだ。特に今は、競合するようなクランが他にないため特にその傾向が強かったらしい。

 また勘違いする者も多いという。自分が大手に所属しているというだけで、強くなった気になるというか。困ったことだが、少なくない者がそのような錯覚に陥るらしい。教育はしっかりした方が良いと思うぞ?


「まあ、分かった。正直俺たちに害がなければどうでもいい。ただそいつらが暴走し、危害を加えるようなことがあったらこちらもそれ相応の対処はするし、責任の追及はさせて貰う」

「分かっている。それに関してはこちらで責任を持つから安心して欲しい」


 もっともそんな馬鹿なことをすることはないだろうけどな、とレイラを見ながらアッシュは呟いた。


「僕から伝えたかったことは以上だ。本当にすまなかった」


 再度頭を下げて、しばらくしてアッシュは帰って行った。

 すぐ帰らなかったのは、レイラの用事が気になっていたからのようで、レイラが申し訳なさそうに話すことが出来ないと説明したら席を外す形で帰ったのだ。

 その顔は少し残念そうに見えた。


「レイラの話は例の件か?」

「ええ、それで、一度ソラに会って直接話を聞きたいという話になりましたの。それでソラの都合を聞いて欲しいということでしたの」

「こっちはダンジョンから戻ったばかりだから、数日は休むつもりだが……明日の午前中は商業ギルドに行くから、それ以外だったら問題ないかな」

「それなら……明日の午後に時間を作ってもらってもいいですの?」

「急だな。けど俺は構わないよ。っで、会う人ってお偉いさんか?」


 聖王国の時はなし崩し的にヨルの家に行ったため、特に気にしなかったけど、今度会う相手は間違いなくそれなりの身分の相手になりそうだ。

 緊張するというよりも、面倒だな~という感情の方が強い。あまり良いイメージがないんだよな、この世界の権力者たちって。


「その辺りは大丈夫ですわ。まだ内内の話なので」


 その言葉を信じよう。言葉遣いとかもこんなんだけど大丈夫か聞いたら、問題ありませんわ、ってことだし。


「なら明日迎えに来るので、待っていてですわ」


 その後少しダンジョンのことを話したら、ボス部屋への挑み方が異常だと怒られた。途中で撤退出来ない場所なのだから、パーティーメンバーに空きがあるなら、ギルドで募集するなりした方が良いと言われた。

 その通りだよな、と素直に思う一方、知らない人と組むのもなという危惧もある。

 そう吐露したら、何故私たちを頼ってくれないのかと怒られた。

 次がある場合は、必ずお願いすると強く約束させられましたよ。半分以上は、レイラの必死な懇願による勢いに負けてだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る