第177話 閑話・8

「使えない、使えない、使えない。何度言ったら分かるんだ!」

「す、すいません」

「欲しいのは謝罪じゃない。結果だ」

「…………」

「まあ、まあ、その辺で許してやりなよ」

「……僕が間違っているっていうのか?」

「そうは言わないよ。そもそも君を基準に考えるのが無理があるんだ。冷静になって考えてみろよ」

「……そうだな」

「だろ?」

「貴方たち。また揉め事なの?」

「あ、先輩。揉め事なんて、そんなことありませんって。なあ? って、何処行くんだよ」

「疲れたから休む」

「やれやれ、で、先輩何の用です?」

「はあ、まあいいわ。言いたいことは揉め事を起こすなってこと。あとは無理を押し付けても仕方ないでしょう」

「そうですか? 俺はその点はあいつ寄りですけどね。少なくとも、俺たちに魔王討伐を求める以上、それ相応の働きをして貰おうと思うのは間違っていないと思いますよ」

「はあ、貴方まで……」

「そ・れ・に。これは王様たっての依頼なんですよ? 強くなるためにここに来てるんだ。ならそれのサポートを命じられている方々にも頑張って貰わないと、ね? こっちだって命を掛けてるんですから」

「は、はい。申し訳ありません」

「うんうん。物分かりが良い人は好きですよ。ってことで、俺はこれで。先に休憩させて貰いますよ」

「…………」

「すいません、ツバキ様。不甲斐なくて……」

「いいえ、こちらこそすいません。あの子たちが変にあたってしまって」

「いえ、勇者様のサポートをするのが我々の務めですから……すいません。戻って明日の確認をしてきます」

「……話は終わったの?」

「ええ、終わったわ。たぶん」

「お疲れ様です」

「……って何?」

「ツバキさんももう少し肩の力抜いた方がいいと思います。パンクしてしまいますよ?」

「それは分かっているんだけどね」

「何か心配ごとですか?」

「あの二人のこと。変だと思わない?」

「……特には、普段通りじゃないですか?」

「以前と比べて暴力的になったと思います」

「そう、それ! あれは……黒い森ってとこから帰った頃かな。なんか言動がとげとげしくなったというか。一時期納まったと思ったんだけどね」

「ここに来てから、良く騎士の皆さんにあたるようになったような気がします」

「暴言とか多いわよね、特に近頃は。攻撃的というか。あの子もあんなんじゃなかったんだけどな」

「そういう風に子供扱い? してるのが原因かもしれません」

「……そうなのかな?」

「どうでしょうか……だけど分からなくもないです。四六時中このようなところで魔物と戦っていたら、気が立つのは仕方がないと思います。黒い森の時は適度に休憩出来てましたけど……」

「ここのところ、上手いこと先に進めてないから……それでストレスを感じているのかもしれません」

「そうね。一度この階の攻略が終わったらお休みを貰った方が良さそうね。団長さんには私から相談しておくわ」



「死ね死ね死ね。雑魚が俺の前に、邪魔なんだよ」

「おいおい、もう死んでるぞ。そんな奴に無駄な力を使ってどうしたんだ? 素材だってそれじゃ使い道なくなるぞ」

「……近頃レベルの上がりが悪いし、それに……」

「あ~、確かに。ここに来た当初は下に行くにつれてそれなりに上がってたよな。近頃はレベルの上がりが悪くなった気がする」

「ふう、魔物はそれなりに強くなってるようだけどな。僕にとっては雑魚だけど」

「強くなりすぎたとか?」

「……なら、ここにももう用はない。足手まといはいるし、さっさと魔王を倒しに行った方が良い気がする」

「けど希少素材とかも集めないとだろ? 正直今の武器じゃ、この先俺たちが全力で戦ったら、武器の方が先に駄目になる気がするぞ」

「……それはそうだけど」

「それにあと少しで階層の攻略記録更新だろ? しかも出るのはドラゴンって話じゃないか」

「ドラゴンか……力を示すにはちょうど良い、か」

「ああ、これで君に、俺たちに文句を言う奴もいなくなるだろう?」

「ああ、誰が正しかったのか教える必要もあるな」


「ってことを話していました」

「日に日に悪くなっていってるわね。頭が痛いわ」

「息抜きするための休日も、トラブルが増えただけでしたし……」

「……けど二人の言う通り。ドラゴンを倒して素材が回収出来たら、ここから帰ることは出来ると思います」

「戻っても、次は黒い森に行かないとだけどね」

「…………」

「結局私たちが解放されるには、魔王を倒さないと行けないってことね」

「そう、だからあの二人が増長しても、目的さえ達成するならいいのかもしれません」

「そのために周囲の空気が悪くなってもいいって言うの?」

「それは仕方ありません。騎士団長さんも黙認しているし、むしろ……」

「むしろ?」

「別に、たぶん気のせいです。それよりも本当にドラゴンと戦うなら、色々準備は必要です。それも考える必要があると思います」

「い、今の私たちでは辛いのでしょうか?」

「過去にその階層を突破出来ていない現状から、敵は強いと思った方がいいと思います。今までもボスは他と比べても強かったから」

「そうね。最悪私たち六人で行く方が良いかもしれないわ」

「……その方が私も助かりますけど……」

「無理なら撤退を考えればいいでしょう。こっちはボスを倒すまでその階層から出られないなんてことはないんだし」

「問題はあの二人がこっちの言うことを聞いてくれるか、ですね」

「そこはツバキさんに任せます」

「あれね。これが終わったら一度多めに休みは欲しいわね。出来ればあの子にも会いたいし?」

「あの子ですか? 恋人でも出来たのですか?」

「違うわよ。あの、召喚された日に別れた子よ。王都で暮らしてるって話だけど、やっぱ心配になるじゃない。一度頼んだ時は、魔人が出ただ、ダンジョンに行くだでうやむやになっちゃったし」

「そうですか? 別に向こうは自由気ままに生きてると思いますよ」

「あ、あの。私も一度会ってみたいです。その、心配ですし」

「ならそのためにも、ドラゴン退治頑張らないとね」

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