第175話 マジョリカダンジョン 20F・1

 ボス部屋に入った。

 いくつかの作戦を話し合い、危ないと判断したら銃を使うとは皆に話した。

 いい顔はされなかったけど、最終的には納得して貰った。銃が効くかどうかは別として、楽をすると成長が望めないからと禁じられている。

 命あってのものだと思うけど、危険を承知でダンジョンに挑んでいる以上、覚悟はしているとのことだった。命に対する価値観の差が……ミアだけは、俺に近い感じのようなんだよな。

 セラと再会を果たしたけれど、まだエリスを探すという目的があるのに、何故か頑ななんだよな。理由がわからん。

 一度じっくりと話し合う機会を設けた方が良いかもしれない。

 ただ、根本的に銃に対する認識の差があるのかもしれない。俺としては銃こそがという思いが強いが、ルリカたちは違うのかもしれない。

 出現したのはコボルトキング。ジェネラルが二体にファイターは一〇体、アーチャーが四体にガードが八体。計二五体と考えると当たりを引いたかも?

 出現と同時に先制攻撃のファイアーストームを二人で放つ。

 炎がコボルトたちを焼き尽くそうと広がるけど、盾を構えたコボルトが前に出て、それを防いだ。この時他のコボルトたちは後方に下がって待機していた。

 ファイアーストームの炎が消えたそこには、無傷のコボルトたちが佇んでいた。


「ジェネラルが二体。ボクが片方の部隊を受け持つよ。ルリカとヒカリで一部隊お願い!」


 資料ではジェネラルの数だけ部隊が出来るとあった。そのための指示だ。

 後衛職の二人は援護というか、魔法で牽制。俺も魔法で主にコボルトキングの足止めを任された。もっとも、戦闘直後はすぐには動かないらしいから、動き出すまでは前衛の援護に回る。ゲーム臭い演出だけど、何故なのか理由は分からない。

 コボルトはジェネラルの指揮のもと、ファイターに二体、アーチャーに二体ガードを付けて陣形を整えて行動を開始した。

 これでは遠距離から先に倒そうと攻撃しても防がれてしまう。

 それなら接近したらどうかと思うけど、アーチャーの近くにはジェネラルが張り付いて目を光らせている。

 さらに攻撃が激しくなり劣勢に陥ると、すぐに後衛に張り付いているガードを一体前進させて補充し、魔法で後衛を攻撃しようものなら、アーチャーが逆にこちらの邪魔をする。


「いっそ三人を合流させた方が良くないか?」

「どうでしょう。数が増えると逆に一気に押し込まれるかもですし……」

「けど押し切れないと、体力を消耗する一方だぞ?」


 予想以上のコボルトの連携に劣勢を強いられている。

 事前に話していた策のことごとくが通用しない。

 ルリカの投げナイフは牽制にもならず、セラによる斧の投擲は吹き飛ばすことに成功したけれども、すぐに残りのガードがカバーに入って隙が無い。接近して振るうセラの攻撃に耐えている間に吹き飛ばされたガードは復帰し、ファイターもガードが集中攻撃されないように襲い掛かってきている。

 ジェネラルの指揮による連携も大きいのだろうか?


「一度範囲魔法で態勢を……」


 整えようとしてセラが負傷した。

 ファイターの連続攻撃の間を縫うように放たれたアーチャーの矢が左腕に突き刺さっている。

 きつく結ばれた口からは悲鳴は上がらず、素早く矢は引き抜かれたけど、いつもの動きじゃない。


「前に出てセラと代わる。治療する時に意見を聞いてくれ」


 魔力を大きく消費させて広範囲に魔法を放つ。

 一つはセラと戦っている集団の少し後方を起点に。もう一つはジェネラルたちのいる後衛全体を包むように。威力よりも目くらまし、時間稼ぎを狙ってだ。


『ファイアーストーム』『トルネード』


 魔法を放つと同時に、前に飛び出す。


「セラ交代だ」


 炎は目に見えていたけど、見えない風の刃はどう防ぐのか注意していたら、ガードの持つ盾が淡い光を持って周囲に膜のようなシールドを展開している?

 何あれ、ズルい。高性能過ぎないか。

 俺は近付いて打ち込むことが出来ないため、さらに魔法を追加。今度は逆にそれぞれ違う魔法を放つ。


『トルネード』『ファイアーストーム』


 MPが一気に消費されていくのが分かる。発動中にさらに追加したのが原因かもしれない。

 それでもガードの防御を突破することが出来ない。

 ただじっと観察していたからだろうか。一点気付いたところがあった。あれは……。

 思い浮かべた予測をかき消すように、キングが吠えた。

 釣られて視線を向けると、今まで微動だにしなかったキングがこちらに向かって来る。

 また魔法が消えるとともに、矢の雨が襲い掛かってきた。

 俺は避けて、剣で撃ち落して、接近するファイターにはアロー系の魔法を撃って、どうにか耐える。


「主様、援護する」


 セラが俺を追い越し突出していたファイターを押し潰しすように斧を振り抜いた。

 さらに追撃をかけたけど、それはガードによって受け止められた。

 って、セラが前に来たら誰がアーチャーの攻撃を防ぐんだ。と思ったら、近くにミアとクリスの気配がある。一緒に来たのか。


「一度合流しようってセラちゃんが。ルリカちゃん」


 クリスがルリカとコボルトたちの間に壁になるように魔法を放った。

 それを受けてルリカたちもこちらにやってきた。

 今度は俺が前に出て前衛を行い。セラと並んで剣を振るう。

 この時クリスとミアには、俺が感じたことを伝えた。

 すぐに行動に動かしたいところだけど、マナポーション一本ではMPが回復しなかった。もう一本飲む余裕がなかったため、今は回復待ち。クリスとミアにもMPを回復しておくようには言ってある。

 今度はこちらが耐える番か。戦いはキングの参戦もあり、徐々に防戦一方になっている。

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