第174話 マジョリカダンジョン 19F

 十九階に下りてから一泊し、探索を開始した。

 十八階は魔物の数が多くなかったような気がするけれど、流石にタイガーウルフに寝込みを襲われると被害が大きいと判断して、今回は下の階で休むことにした。

 レッドたちも十九階にいたけど、どうもボス部屋には行かずに、ここで狩りをしてから登録して戻るとのことだった。

 どうもまだボス部屋を攻略出来るだけの自信も準備も出来ていないとのことだった。

 地道に連携を上げて、地力を付けていくのが近道だと笑って言っていた。

 メンバーもそれを理解しているのか、誰も不満そうな者がいない。

 十九階に出る魔物はオーク。ルリカたちに話を聞くと、何度か護衛依頼の時に獣王国でも戦ったことがあるという話だった。


「ただ討伐依頼は受けたことないよ?」


 二人で組んで戦うには、面倒な相手だからとのことだ。

 隊列を元に戻して、十九階は進む。緊張感は持って進むけど、タイガーウルフと違って戦いやすい。

 遭遇から討伐まで、大した時間を掛けずに倒すことが出来る。クリスたちも積極的に魔法を放って、感覚を確かめている。


「オークなら余裕がある」


 とはヒカリ談。

 接近するまでの間に魔力を籠めることが出来るから、最大の攻撃力を発揮して斬りつけている。これはオークが接近するまでの時間を把握しているからだろう。それならタイガーウルフでも実践出来ないかと思うけど、それは難しいらしい。


「圧が違う」


 と、ヒカリは言う。

 ルリカはまだまだ上手くいかないようだけど、挑戦しては魔力を霧散させて、普通に斬りつけている。

 それでもミスリルの切れ味は抜群で、致命傷とはいかないけど確実にダメージを蓄積させていき、隙あらば急所を狙って攻撃している。

 クリスも問題なく魔法を放っているし、ミアは最初その見た目に驚いていたけど、徐々に慣れていってホーリーアローで攻撃していた。心なしか、威力も上がってきたような気がする。


「戦いやすくていい」


 お昼の休憩をしている時に、ヒカリが満足げに頷いていた。

 投擲ナイフも上手く活用出来ていたしな。


「ミアはどうだ?」

「見た目には驚いたけど、タイガーウルフよりは戦いやすいかな。比較的動きも読みやすいような気がするし」


 ミアも前の階層での戦いよりも、手応えを感じているようだ。


「ただ油断だけはしないようにな」

「うん、何かあるか分からないからね」


 慢心はないようだ。

 昼食後の探索では、一度だけ五体のオークに遭遇することがあったけど、その時も先制の魔法攻撃で分断に成功すると、ヒカリたちがそれぞれ各個撃破。確実に数を減らすことに成功して、無事討伐することが出来た。

 途中で隊列を交代して、俺も戦う。

 魔物を倒しても経験値は入らないけど、実践による戦いの経験を積むことは出来るからな。


「次のボス戦はクリスとミアに頑張って貰うことになるだろうからな」


 もちろん俺も積極的に参加する。

 次のボス階に出る魔物は、ボスはコボルトキング。取り巻きとしてはコボルトファイター、コボルトアーチャー、コボルトガード、コボルトジェネラル。

 特に厄介なのが必ず二体は出るコボルトジェネラル。ジェネラルが指揮をとることでコボルト軍団の動きが変わるようだ。連携の練度が上がり、統率された動きはさながら騎士団のようだと話す者もいたとかいないとか。

 また忘れてはいけないのがコボルトガード。攻撃力は殆どないけれど、防御に特化しているようで、装備した盾で様々な攻撃を防ぐ。防御力に劣る後衛を守るため、どうしても戦闘時間が長くなってしまうらしい。

 いかにガードを早く倒せるか。もしくは分断出来るかが鍵になるようだ。


「どれぐらい攻撃を防いでくるか。あとは取り巻きが何体出るかだな」

「最初に範囲攻撃で試した方がいいかな?」


 クリスの提案に頷く。


「そうだな。ガードが持つ盾は魔法の盾らしいし。どのように作用するかは確認したいな」

「魔法の盾? 確認は出来ていないのかい?」

「どうも持ち帰り不可の装備みたいで、性能とかは謎らしいんだ。資料にも魔法を防いだとしかなかったし」

「主、ナイフの追加をして欲しい」

「主様、ボクの予備の斧もお願い。必要なら投げてガードの動きを牽制したい」

「分かった。ならルリカにも渡した方がいいか?」

「そうね。魔力を流すのはまだ自信がないから。普通の投擲用ナイフがあれば、それをお願い」


 少しの休憩のはずが、少し話し込んでしまった。

 詳しい戦い方はまた二十階に到着してからということで、探索を再開した。

 次の階の階段を見付けたのは、それから一日経ってからだった。

 セーフティーエリアには人の姿がなかったけど、もちろん警戒は解かない。

 いつ飛んでくるか分からないからな。

 魔物以外でも気を遣わないといけないとか、ダンジョン内は本当に厄介だ。

 いっそ戻って休んでから再入場した方がいいか?

 聞いたら前の十階の件がまだ頭に残っているのか、ここで休んでから挑戦しようということになった。


名前「藤宮そら」 職業「スカウト」 種族「異世界人」 レベルなし


HP780/780 MP780/780 SP640/780(+100)


筋力…770(+0)  体力…770(+0)  素早…770(+100)

魔力…770(+0)  器用…770(+0)  幸運…770(+100)


スキル「ウォーキングLv77」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1習得)」

経験値カウンター 69802/77000


スキルポイント 25


習得スキル

「鑑定LvMAX」「人物鑑定Lv9」「鑑定阻害Lv7」「並列思考Lv9」


「ソードマスターLv9」「身体強化LvMAX」「気配察知LvMAX」

「魔力察知Lv8」「自然回復向上Lv9」「状態異常耐性Lv5」「痛覚軽減Lv4」

「気配遮断Lv9」「暗視Lv6」「投擲とうてき・射撃Lv6」「威圧Lv4」


「魔力操作LvMAX」「生活魔法LvMAX」「火魔法Lv8」「水魔法Lv7」

「風魔法Lv7」「土魔法Lv7」「光魔法Lv6」「闇魔法Lv5」

「空間魔法LvMAX」「神聖魔法Lv6」「錬金術LvMAX」「付与術Lv7」

「創造Lv5」


「料理LvMAX」


 ウォーキングのLvにも上限があるのだろうか?

 スキルポイントも新しくスキルを覚えていないから貯まる一方だな。

 お、空間魔法のLvがカンストしている。特に新しい空間魔法は覚えないようだ。

 他にもいくつかスキルが上限に達したようだから、何か有用なスキルが、主に上位スキルがあるかもしれない。

 探していくと、あった。

 転移スキル! 衝動的にポチッとしてしまった。


 説明文を見て一瞬思考が停止した。

 効果。視界の範囲内に任意のものを転移させる。レベルが上がる毎に効果は拡充される。

 注)生命いのちあるものを転移させることは出来ない。

 ダンジョンから簡単に脱出とか考えていたのに、それはまだ無理のようだ。

 鑑定を使って詳しく視てみると、少なくともLv8まで上げないと、自身を転移させることは出来ないようだ。


「どうしたの?」


 固まっていたらミアが心配そうに聞いてきた。


「新しいスキルを覚えたんだけど、効果が期待していたのと違ったから……」

「何を覚えたの?」

「ちょっと試してみようか」


 アイテムボックスから取り出した鉱石を右手に持ってスキルを発動。左手の中に鉱石が現れた。

 ステータス画面のMPを確認して、さらにスキルを発動。次は少し離れた場所に鉱石が出現し、重力のまま落下して地面に転がった。


「ものを転移……瞬間移動させるスキルだな」


 驚いたのか、大きく口を開いたまま転がる鉱石を見ている。女の子がそれは、少しはしたないですよ?


「な、何ですの今のは!」

「見たまま、説明したままだよ。ただ少し、今のままだと使い道がないかもだけどな」


 MPの減り具合は、一回使う毎に100減っていた。


「一見便利スキルだけど、出来ることはこれだけだからな」


 ミアは呆れていたけど、当分はコツコツと熟練度上げていくしかないな。消費MPも多いし、ダンジョン内で上げるのは難しいかもしれないけど。

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