第173話 マジョリカダンジョン 18F・2
どっと疲れたな。終始タイガーウルフに押されていた感じだった。
ヒカリの突拍子もない行動がなければ、まだ続いていたと思う。
「良くセラは対応出来たな」
どうやら昨日の見張りの時に色々と話していたらしい。
ただまさか本当に実行するとは、セラも思っていなかったようだ。
「全然駄目だった。最後私、空気だったよ」
ルリカはガックリと肩を落としている。
「私もそうだよ。もっとしかっりしていたら、セラちゃんが自由に動けたはずだから」
クリスの言葉にミアも頷いている。
今回はタイガーウルフを倒すことが出来るだけの攻撃が出来た二人が、守備に回ったのが原因だと考えているようだ。
俺としてはタイガーウルフの対応力の高さの方に驚いている。囲むまでは予定通りだったのに、直ぐに脅威となる攻撃を感じ取って、誰を警戒すればいいかを理解しているようだった。
「けど結構不利な状況を作ったのに、逃げないんだな」
「狩れると思っていたんだとボクは思うよ。あれ以上長引いていたら、どうなっていたか分からなかったさ」
「それに早かった。あんなに避けられるとは思わなかった」
「最後も向かってこなかったら狩れなかったさ。痛みのせいなのか怒りのせいなのか、冷静さを欠いた攻撃だったから倒せた感じさ」
冷静だったら戦いを避けて逃げていたかもしれない。
今回の戦闘は、常に動き回られて翻弄されていた感じだった。
俺かセラがもう少し前に出て戦えたら、違ったかもしれないとも思った。
前に出られないため、一見囲ったように思ったのに囲み切れずに逆に穴が広かったような気もする。
タイガーウルフも危ない時は、そこを狙って退避しているような感じだったし。
「今のまま戦うとしたら、クリスは退避先を狙って魔法を撃つなどする必要があるかもしれないな。それかセラをフリーにして、どちらか二人に護衛に回って貰うかだけど、力負けしそうなのがな」
攻撃をいなすことは出来そうだけど、突進されたら吹き飛ばされてしまいそう。
そうすると後衛を守り切ることは難しいような気がする。普通の人よりも反射神経はあるようだけど、タイガーウルフの動きについていけるかは疑問が残る。それに速度だけでなく攻撃力もあるから、あの一撃を防ぎきるのは不可能だと思う。
「もっと攻撃が効いたら……」
珍しくヒカリが悔しそうにしている。まともに魔力を流して攻撃出来たのは最初の一撃だけだったしな。
それに緩急つけた攻撃で、普通の攻撃も当たらなかった。
避ける時はその運動能力をフルに使って、間合いを大きくとられたのもあるな。
「追うよりも、向かってくるのを上手く迎撃した方がいいのかもしれないな」
サイフォンたちも、確か盾士で動きを止めたところで、カウンターのように攻撃をしていたような気がする。
「一度攻撃を止めてスピードを殺すような感じ?」
「ああ。あとはさっき話した通りに、逃げ道を限定させて、そこに魔法を叩きこむ感じ。ダメージを与えて動きが鈍れば、ヒカリとルリカなら速度では負けないだろ?」
反省点を話し合い、次の戦いに備えて準備をしていく。
ただ予想以上に体力を消耗したため、警戒しながら休憩することも忘れない。
予備の斧をセラに渡してから、探索を再スタートした。
その後タイガーウルフとは二度遭遇した。
最初の戦闘の経験を活かし、最終的にセラが盾士の役割を担い、タイガーウルフの動きを出来るだけ止めるような立ち回りをした。
今度武器屋で盾を買っておいた方が良いな。最悪それ系のスキルを覚えて俺が盾を持つのも考える必要があるかな?
俺が二人を守るような感じになったけど、後ろへ抜けるような動きを見せたらすぐに魔法で攻撃した。当らなかったけど、牽制にはなったようだ。
またそれぞれがタイガーウルフが後退したタイミングで魔法を放つのも忘れない。
それが上手くはまり、徐々にタイガーウルフを追い詰めていって倒すことに成功した。
やはり速度をいかに殺すかが大事か。
ただあくまで一度目よりも戦えるようになっただけで、もちろん余裕があったわけでもない。倒し方も雑で、素材としての価値は低いと判断されるだろう。
二度目の戦闘ではミアとクリスが自衛するからと言って、俺も少し前に出て戦った。
確かに俺が自由に動いた方が戦いの幅は広がり、戦闘を有利に進められた。
要は後衛に攻撃させる隙を与えなければいいということになるが、いつも上手くいくとは限らない。
「ミアとクリスをもう少し鍛えた方がいいさ」
セラも同じ結論なのか。ちょっと怖い表情で言っている。
「待って、何か来る」
三匹目を撃退して警戒を解いた時に、ルリカが声を上げた。
通路の先から飛び出してきたのは一匹のタイガーウルフ。けど様子がおかしい。相手も通路の先の俺たちを見て驚いているようだった。
詳しく観察すると、体の至る所に傷を負っていて血が滴り落ちている。
一度後方を気にするような仕草をしたけど、こちらに突撃してきた。
単調な動きにセラは斧を構えて動きを止めると、クリスとルリカの連続攻撃で息の根を止めていた。
「だいぶ弱っていたね」
ルリカの言葉をかき消すように、通路の先から足音を鳴らした一団が現れた。その数六人。
瞬間、俺たちの存在に気付いて武器を構えたけど、横たわる二匹のタイガーウルフの姿を見て、警戒しながら声を掛けて来た。
「君たちが倒したのか?」
「ああ、もしかして追って来たのか?」
「そうだ」
「この場合、どうするのがここのルールなんだ?」
倒したの俺たちだけど、その前に弱らせるところまで戦っていたのは彼らだろう。
「君たちが倒したんだ。それは君たちのものだ」
「リーダー!」
「逃がしたのはこちらの落ち度だ。それに見ろ」
二匹のタイガーウルフを指して男が言う。
確かに戦っている最中にさらに一匹が追加されていたら、大惨事の可能性もある。
それを見て反論していた男は悔しそうにしていた。
確かにあそこまで弱らせることが出来たなら、あと少しで倒すことが出来ていたはずだ。苦労の末の戦闘の結果なら、悔しいに違いない。
ヒカリたちが俺を見てくる。判断は任せるということか。
「良かったら、そっちはあんたらで回収してくれ。素材の損傷具合についての文句は受け付けないけどな」
「いいのか?」
「ああ、かなり弱っていたしな。問題ないよ」
その言葉に何人かの顔が明るくなったような気がする。
「俺はブルーという。赤い情熱のブルーだ。どうした?」
「俺はソラ。あ~、パーティー名はない」
「そうか。何か困ったことがあったら言ってくれ。それなりの期間、ここで活動しているからな」
ブルーは仲間たちと共にタイガーウルフを運んでいった。皆近くに来た時に、口々に礼を言ってきた。
ただ一人黙っていた反論していた男も、仲間が小突くと、少し不貞腐れながら頭を下げてきた。
「主様、良かったのかい?」
「無理やり俺たちのだと主張されたら断ってたかもだけどな。好感が持てる対応だったから渡したんだが。駄目だったか?」
「主様がそれでいいなら文句はないさ」
その後はタイガーウルフに会うこともなく、無事十九階への階段を見付けることが出来た。
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