第167話 マジョリカ・15

 十五階の探索は困難を極めた。

 階段がなかなか見つからなかったためだ。

 結局階段を発見するまでに八日かかった。肉体的に疲れたというよりも、精神的に疲れた。ロックバードに追いかけまわされたのが、地味に応えたようだ。

 さらに疲れる原因が発見された階段の位置。ぐるりと一回りして、入口側に戻って来る途中で見付けた。真っ直ぐ歩けば二日もかからなかったところにあった。


「私たちの苦労が……」


 ルリカの呟きが今も耳の中に残っているような気がする。

 他の面々も無表情でそれを眺めていたな。

 ヒカリだけは、ロックバードをたくさん狩れたのが良かったのか、余裕の表情でしたけど。

 帰還用の広間に飛ばされると、ホッと一息つけた。

 帰還報告をしたら、そのまま素材の解体を依頼する。

 今回頼むのはロックバードぐらいしかないけど、その数に驚かれた。

 基本的にロックバードは追い払うか、倒す場合も魔法で素材を駄目にするため、綺麗なまま持ち込まれるのは稀なことらしい。不人気階層というのも影響している。

 そのためロックバードの羽毛は近頃希少価値がついていて、買取の値段が上がっているらしい。

 合計三〇体を納品し、魔石は二〇個。肉を五体分残して、他は全て売り払うことにした。血抜きの関係上、少し時間がかかると言われたので、待つことにした。取りに戻って来てもいいけど、それほどかからないと言う話だしな。ギルドの血抜き技術だけは謎だな。

 五体分も! と驚かれたけど、うちには食べる者がいるんですよ。それに保存には困らないし。

 討伐証明を受け取り、今度は討伐報告をして貰う。今まではセラだけだったけど、今はルリカとクリスもいるので三人にお願いした。


「主、いつ料理する?」


 ロックバードの肉か。ここは唐揚げに挑戦するしかないか。

 あの期待に満ちた目を裏切ることは俺には出来ない。

 待っていたら、見知った顔がダンジョンの帰還部屋から出てくるのに気付いた。

 顔を向けると、装備に身を包んだレイラたちがいた。

 正確に言うと、レイラたちブラッディーローズ以外にも、一〇人ほどが一緒にいる。


「ソラ!」


 見付けたレイラが声を弾ませて近付いてきた。


「ソラたちもダンジョンですの?」

「ああ、今戻って来たところだ。そういうレイラたちもダンジョンに行ってきたのか?」


 一応確認のため尋ねた。


「ええ、やっと座学から解放されましたわ」


 晴れやかな笑顔だ。本当に。


「いつものメンバーだけじゃないようだが?」

「そうでしたわ。先に報告を済ませてきますわ。勝手に帰らないように!」


 念を押さなくても良いのに。

 しかしダンジョンから戻った割には元気だな。

 ヨルが軽く手を振り、他の見知ったメンバーは軽く会釈して受付に向かった。

 知らないメンバーだけは訝し気な視線を向けてきたけど、気にするだけ無駄だ。

 仮面を被って奴隷を侍らせてるなんて、怪しい奴にしか見えないしな。あと何人かは驚いた表情を浮かべているのもいたな。


「レイラは元気ですね」

「ダンジョンから戻ってきたとは思えないほどな」

「きっと美味しい物を食べられるから」


 ダンジョン内でのご飯は基本的にあまり美味しくないようだしな。


「主は別格だけど」


 嬉しいことを言ってくれる。


「主様、終わったよ」

「ああ、すまないがそこでレイラに会ってな。待ってるように言われた」


 セラも気付いていたようだ。


「クリスたちはどうする? 先に戻るか?」

「どんな子か気になるから待ってるよ、ね?」


 ルリカが悪戯っぽい笑みを浮かべる。視線の先は俺じゃなくてクリスだが。

 しばらく待っているとレイラたちブラディーローズの面々がやって来た。


「お久しぶりですわ。え、と。レイラと申します」


 ルリカとクリスに気付いたのか、お互いに自己紹介をしている。


「話はタリヤから聞いてますわ。セラの幼なじみだと」


 俺の方でも改めて、ルリカたちにタリヤを紹介してくれたのがレイラだと説明する。


「けどいいのか? 他の奴らと一緒に帰らなくて」


 見るとレイラたちを待っているように見える。


「そうですわね。なら明日は学園も休みですし。伺っても宜しいです?」

「うん、明日は主の新作のご馳走。来るといい」


 俺の代わりにヒカリが答えた。

 ハードル上がってません?


「それは楽しみですわ。なら明日のお昼前に伺いますわ!」


 レイラは「約束ですの」と、最後に念を押して去って行った。


「俺たちも帰るか」


 翌日、ロックバードを使った大量の唐揚げを作ったとだけ、言っておこう。

 ただその時レイラに相談した。

 十五階の岩山についてだ。


「話って何ですの? その、わざわざ部屋に呼び出して」


 少し照れているのか? 話を聞かれたくなかったとはいえ、二人きりになったのは失敗だったか?


「これなんだが……」


 魔鉱石、魔水晶、ミスリルと机に並べる。


「これはどうしたのですの?」

「十五階で採れた」

「…………はい?」


 そんな顔をされても俺が困る。

 なので嘘を交えながら、何で岩山で採掘をしたのか経緯を話した。もちろん鑑定のことは説明していない。


「商人って色々考えますのね。ソラの場合は、商人と言われないと忘れてしまいますけど」


 商人らしくないのは重々承知している。


「けどそうですの……」

「どうしたらいいと思う?」

「ソラは秘密にしたいのですの? けどそれだったら私に話したりしませんものね。けど何故私にそれを話したのですの?」

「……レイラはこの街の出身らしいし。色々と伝手を持ってそうだからさ」

「……分かりましたわ。詳しい人に相談してみますの。ただ、もしかしたら詳しい説明を求められるかもですの。その場合はお願いしても宜しいですの?」

「ああ、その点は問題ない。ただダンジョンに行ってる時は、タリヤに伝言を残しておいてくれ」


 この選択がどのような結果になるか分からないけど、良い方に向かってくれることを祈るばかりだ。



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