第168話 マジョリカダンジョン 16F

 再びダンジョンに挑戦したのは、帰還してから五日後だった。

 帰還した翌日はレイラたちが訪れて来て、お昼を振る舞いつつ色々と話をした。

 学生のダンジョン実習が始まるため、ダンジョン内で会うことが増えるという話だった。実習といっても、希望者だけのようだが。

 実習と聞くと教師? が付き添うのかと思ったけど、そこまで過保護ではないようだ。不安がある者は冒険者に依頼を出すのが普通だとか。あとはダンジョンに入る前に誓約書のようなものも書くそうだ。ダンジョン内で起こったことは自己責任だと。

 それでも一定以上の生徒が参加するのは、卒業後の進路が関係したりしているそうだけど、そこは興味がなかったから聞き流した。

 レイラたちも今回は二十一階と二十二階を回って戻って来たという話だった。

 久しぶりのダンジョンのため、慣れるための練習の意味合いの強い探索だったらしい。

 一緒していたのは、良く組んで探索する他のパーティーの面々とのことだ。

 ただ何故かレイラのパーティーは人気らしく、組んで欲しいという希望者が多いとのことだった。



 十六階に出る魔物はコボルト、コボルトファイター、コボルトアーチャー、コボルトシーフ。見た目は殆ど同じだけど、武器を扱いやすいようになのか、あの鋭い爪が退化している? それとも武器を扱いやすいように進化、適応した? 

 まぁ、あの爪の大きさだと武器を握るのも大変そうだったしな。

 戦い方としては、コボルトがかく乱、ファイターが前衛、アーチャーが後衛といった感じで連携をとってくる。

 ならシーフは? シーフはメインでは短剣を装備していて、体も心なしか一回り小さい。一対一で戦うと驚くほど弱いけど、一番の曲者だった。

 シーフは戦闘中にダンジョンの罠を作動させてくる。なので罠がある場所で襲われると、真価を発揮するタイプのようだ。

 恐ろしいのは罠の作動の仕方。敵味方関係なく、無差別に罠を作動させてくる。味方に当てては他の仲間から怒られているようだけど、その姿は出来の悪いコントのようにも見えなくもないかな。実際に何を話しているかは謎だから、見た目の印象だな。

 さらにシーフを残して全滅させると逃亡するなど、もう好き放題やっている。

 面白いほど個性的だけど、厄介極まりない。


「なんなのあれは、もうクリス。まとめて燃やしちゃって!」


 ルリカはかなりイライラを募らせている。

 クリスも魔法で狙おうとするけど、それを察すると味方を盾にして隠れる。

 ならシーフを無視して他を倒せばいいのだけど、逃亡したシーフは別のコボルトのパーティーと合流するのか、シーフの数が明らかにおかしいパーティーに遭遇した。


「向かって来るなら楽なんだけど……」


 セラも初めて見る魔物の行動に、驚きを隠せていない。

 普通に戦えば驚くほど弱い。一度逃亡を阻止して回り込んだら、潔く突っ込んできてあっさりとセラに倒されていた。セラが強すぎるのか、シーフが弱すぎたのか、判断に困る結果だった。そもそも何故一番強いセラに突っ込んだ?

 とりあえず今回は全滅に成功したので、一度休憩することに。

 逃亡を許すと逃げたシーフが仲間を伴って再び襲ってくるから、全滅させた後は貴重な時間だ。


「こういう時は罠を解除するメンバーを護衛して、先に罠を解除するのが普通なのかな?」

「それが一番確実だと思うよ。けどアーチャーもいるし、今の私たちには無理じゃないかな」


 後衛の二人が遠距離から狙われる危険がある以上、俺も不用意に離れることが出来ない。

 結界術を使えば防御は可能だけど燃費が悪すぎる。

 威圧で動きを阻害したりしているけど、これも連発していて気付いたけど、地味にSPを消費していた。前は時々使う程度だったから気にしてなかったんだよな。そもそもSPを極端に消費したことが近頃なかったからな。


「先にアーチャーを優先的に倒す?」

「それが一番堅実か。クリスだけが連続で魔法を使うと大変だから、俺も交代で魔法を撃つよ。あとは、あれは本当に使わなくていいのか?」


 あれとは銃の事だ。

 この階層には他の冒険者もいて、MAPにはいくつかの集団が表示されて確認出来ている。近くにいなければ使った方が早いと思うけど、反対されて使っていない。

 楽が出来ると思うのに、浅い階層からそれに頼り切るのは良しとしないようだ。

 戦闘経験を積めないからというのが彼女たちの主張だ。

 スキルを覚えたての頃の俺のような感じかもしれない。スキルの力で剣は速く振れるけど、実際に人と討ち合うと簡単に負けてしまう。ルリカとの鍛錬でそれを嫌というほど味わったから、強く言うことが出来ない。


「分かった。ただ辛くなったら言ってくれよ」


 命には代えられないんだから。その言葉は呑み込んだ。

 危ないと判断したら悪者になってでもいいから使えばいい。その為にも周囲の冒険者の動きには注意しないとだな。せめて銃のお披露目をするにしても二十階踏破の実績は欲しい。

 そう思っておかしくなった。

 命を守る。そう思っているのに、他人の目に銃が触れるのを未だ恐れている。

 目立つからか? 銃そのものが危ないからか?

 そもそも剣とか普通に持って歩いている世界。魔法だってある。銃がなくったって世界は危険に溢れているのに。


「ソラ、大丈夫ですか?」


 悪い癖だ。また思考の迷路に沈んでいた。


「ああ、大丈夫だ。それじゃ攻撃の順番を決めようか。俺の方があまり魔法を使ってないから、次は俺が攻撃に回るよ」

「分かりました。お願いしますね」


 火魔法は威力があるけど、今回は速度重視で風魔法を中心に使うが、シーフを狙う時は水や土もありかもしれない。その時の状況で色々試せばいいか。

 その後は交代で魔法を撃ちながらダンジョンを攻略した。

 時々やり過ぎた感のある酷い光景を作ったりして非難されたりもしたけど、順調に進むことが出来た。

 一番の要因は、複数の冒険者が探索して次の階段を探し求めているから、階段ゴールに近付くにつれて距離が狭まって、コボルトたちをそれぞれのパーティーが撃破していったからだろう。

 時々シーフが単体で途方に暮れているような姿を見て、何とも言えない気持ちになった。なんか哀愁が漂っていた。表情は分からないけど、遭遇した時に絶望しているように見えた。

 次の階層の階段に到着した時には、ちょうど他の二つのパーティーとバッタリ会うことになった。両方とも大所帯だ。

 ダンジョン内では他のパーティーを襲うようなパーティーも稀にいるそうだから、これはこれで少し厄介な状況だ。特に新参者で、他のパーティーの情報を知らないから人となりも分からないし。

 それは相手も同じようで、警戒した素振りを隠しもしないで見てくる。


「主様、どうするんだい?」

「今日はこの階層で野営をして、時間をずらして進もうか」


 階層登録だけ済ませて、野営をしやすい場所を探しに戻って来た。

 二つのパーティーはそれを見て先に進むようで、十七階へと消えて行った。

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