第166話 マジョリカダンジョン 15F・2

 結局ハンマーで直接叩いて採掘することになった。タガネを叩いて掘るやり方を試してみたけど、タガネを叩くのに勢いを付けられなくて上手く掘れなかったからだ。

 そんなに不器用じゃないと思ってたんだけどな。

 ハンマーで気持ちよくコツコツ、ガツガツ掘っていたら、またロックバードが現れた。騒音をまき散らしているようなもんだから、それは文句を言いに出てくるってもんだ。近所迷惑もいいところだ。

 うん、変なテンションになってるのは、レアな鉱石がザックザックと見付かっているからだ。

 そんな俺とは対照的に、セラたちは至って真面目にロックバードを狩っている。

 セラとクリス、ミアが俺を守るように立つ。セラは俺だけでなく魔法職の二人も守りながらだから、守備主体に立ち回っている。有効射程内よりもかなり近付いてから、攻撃はクリスの風魔法をメインに、ミアは補助的にホーリーアローを放っている。

 魔法で攻撃及び注意を惹きつけて、倒しきれなかった個体は、ヒカリとルリカの隠れ潜んだ二人が不意を突いて狩っていく。

 投擲ナイフの扱いも上手く、ロックバードの動きを予測して撃ち落したりもしている。俺がやったらどうだろう? スキル補正があるから一応出来るかもしれないか。

 採ろうと思うと気になる鉱石が多すぎて際限なく時間がかかりそうなので、作ったハンマーを使い潰すまで採掘を行った。

 少量だけどミスリルが入手出来たのには驚いた。もっともこの量では短剣一つ作ることも出来ないが。

 それを考えると魔鉱石と魔水晶が、まともな量を採れた中ではレア度が高いのかもしれない。魔鉱石は武器に、魔水晶はアクセサリーなどの材料で使えるようだ。


「ソラ、歩く時は鑑定使うのやめなよ?」


 出発する時に釘を刺された。

 確かに希少鉱石のミスリルとかを見付けたら我慢出来ないかもしれない。ハンマーは使い潰したけど、分解して鉱石に戻せばまた作ることは可能だから。

 後ろ髪を引かれる思いだけど、階段を見付けることが今の最優先事項だ。物資に余裕はあるけど、代わり映えしない岩山の中を歩いていると精神的に参ってくる。

 実際、この階層に入ってから既に六日が過ぎた。

 救いは所々にある人が休めるようなスペースのある岩山。死角になっていたり、ロックバードが入り込めないような狭さの先にあったりと、一息つくことが出来る。

 また無駄にアイテムボックにストックしていた土も活躍している。以前商業ギルドで購入していたものだ。

 地面も硬い岩で出来ているため、そのまま寝ると体に負担がかかる。そのため袋に詰めた土を取り出してそれを地面に敷いた。本来の使い方とは違ったけど、役立ってくれているから良しとしよう。


「主、もっとロックバード狩ろう」

「ヒカリは元気だな。若さなのかな?」


 うん、つい口を滑らせた。

 笑顔が怖いです。

 だってヒカリ以外の面々が疲れてる感じだったから。セラは疲れたというよりも、うんざりしてるような感じだったけど。


「主、口は災いの元」


 ハイ、その通りです。

 申し訳ございませんでした。

 けどこの世界の女性は十代でも年齢を気にするものなのか? 十二歳からある意味独り立ちをする年齢みたいだから、俺のいた世界とは違うのは確かなんだろうけど。


「あ~、それじゃ明日も大変だと思うし、ゆっくり休もうか」


 ロックバードの襲撃はないと思うけど、いるのは魔物だけではない。

 なので見張りは交代で行う。

 今回は最後の番でミアと二人で見張りをすることになった。

 MAP表示を見るけど、流石に他の探索者たちも休んでいるようだ。

 もっとも騒音をまき散らしているから、出来るだけ近付かないように歩いていたからな。見付かると何をしているかと不審に思われるだろうし。

 見た人はロックバードをおびき寄せるために岩石を叩いていると思ったかもしれないけど。

 日が落ちると気温がグッと下がるため、ヒカリたちは厚手の毛布に包まって寝ている。火をおこし続けるには原料が足りない。

 昼と夜が切り替わる階層だけど、唯一不便なのがこの点かもしれない。五階みたいに木材を補充出来るならまた別なんだけど。

 今度は土だけでなく、木材もアイテムボックスに用意しておいた方が良いかもしれない。


「何か作るの?」


 アイテムを準備しているとミアが質問してきた。

 魔水晶が手に入ったから、前々から作りたかったある物を作れる。

 必要な魔石は……ゴブリンキングの物が使える。


「ああ、ミアとクリス用のアイテムを作りたいと思ってな」


 魔水晶と魔石を錬金術で合成する。

 拳大だった魔石が縮んで直径二センチの大きさになった。濃縮されているのか? 何でこのようになるかは謎だが、考えるだけ無駄だと思い次の工程に移る。

 創造のスキルで表示されるレシピ通りに錬金術を繰り返すと、最終的に真っ赤だった魔石が青色に変わった。光沢が出て一見すると宝石にも見えなくない。


「きれい……」


 うっとりとして見ているミアに、台座のデザインについて相談する。クリス用のはクリスに相談すればいいだろう。

 自分で作らないのは芸術性に乏しいからだ。向こうの世界のものを思い出して作ってもいいけど、折角なので意見を聞くことにした。そこまで詳しかったわけでもないからな。それを思うとスマホで簡単検索は便利だったな。

 結局ミアは魔石が羽に包まれるような感じで、クリスは植物の弦をあしらったような感じのデザインに落ち着いた。

 何でそのデザインにしたか聞いたらクリスはシンプルに植物が好きだからと言った。やっぱりエルフだからか? 勝手なイメージだけど。

 ミアに関しては秘密と言ったまま教えてくれなかった。まあ、本人が満足してくれているから深く追求するのは野暮というものだろう。


「それでどうして二人にこれを?」

「二人の事情はそれぞれ知ってると思う。一応これは魔道具で、所持していれば鑑定を阻害してくれるようになる」

「あの、それだと逆に不審に思われませんか?」


 鑑定されないとなると、逆に相手に警戒されるかもとクリスは心配しているようだ。


「大丈夫だ。正確には嘘の鑑定がされるようになる。例えばミアなら職業が神官に。クリスだと変装の魔法を解除しても種族が人間になるようになっている。もっとも耳を見られると駄目かもだけど」


 作成途中で設定画面が出た時には驚いた。説明には書かれていたけど、実際に見るとね。


「それって、かなり凄くない?」

「凄いかもしれないけど元手タダだしな。あとは、この世に鑑定を使える者がどれだけいるかだろうな」


 実際に俺が知る限り一人しかいない。あとは王国にあった魔道具のようなものだけ。不要になるかもだけど、備えておくに越したことはない。

 そう言ったらヒカリ以外の四人は呆れた表情を浮かべていたけど、俺もその視線にはだいぶ慣れてきた。


「主様の非常識具合はいまさらさ」


 セラの呟きに皆頷いている。仲が良いね君たち。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る