第165話 マジョリカダンジョン 15F・1

 一度街に帰還して、休養をとってから十五階の攻略を始めた。

 階段を下りた先は、見渡す限りの岩山が眼前に広がる。

 見事の一言で、自然が作り出す造形に目を奪われていたら、クイクイと袖を引っ張られた。

 視線を落としてみると、ヒカリが首を傾げて不思議そうに見てきた。


「主、先に進まない?」


 どうやら自分で思っている以上に長い時間眺めていたようだ。

 けどこんな光景見たら圧倒される。ゴツゴツとした岩山。遠くからでも分かるほどの巨大な岩がゴロゴロしている。間近で見たらどんな感じだろうと、ワクワクが止まらない。

 確か十六階に下りる階段は、大きな岩山の中に隠されているんだったかな? 記録によると四方の壁には出現しないとあった。

 ただ結局探すには歩き回るしかないのは変わらない。

 しかも実際に歩き出すと歩きにくい。小さく砕かれたような岩がゴロゴロと転がり、時々鋭い突起が出ているものもあって、下手に踏むと怖い。もちろん大きな岩も無造作に転がっている。

 一応ブーツは底の厚い物を選んで履いているから大丈夫だと思うけど、その分普段履いている物よりも重くなっているから余計な体力を奪われていく。ことになるんだろうな。

 厄介なのはそれだけでなく、魔物の存在もある。

 この階に出る魔物は一種類。ロックバード。

 標的を視界に捉えてもなかなか襲ってこないようで、ジッと観察するように付いて来る。一定距離を保って襲われないような徹底ぶり。こちらが焦れて隙を作るのを待っているかのようだ。

 救いなのは数が少ないのと、時々岩山のトンネルのようなものがあって、視界から姿を隠すことが出来ることか。ジッとトンネルに身を隠して待っていると鳴き声を上げて上空を旋回しはじめて、何処かに飛んでいく。

 この時根負けしてトンネルから出ると発見されて追跡が続く。時々飛んで行ったと見せかけて隠れて待っている時もあるから、気を抜けない。

 時々大胆な個体がいて、滑空してトンネルに突撃してくるものがいたのには驚いた。

 警戒していたセラが対応しなかったら、被害が出ていたかもしれない。


「良く分かったね」

「前に戦ったことがあるから。結構面倒な魔物だけど、お肉は美味しいらしいよ。ボクは食べたことないけどさ」


 その言葉でヒカリに火が付いた。

 飛んでいるから無理ですからね。魔法で撃ち落せ? 無茶を言いなさるな。

 なだめるのに苦労した。

 取り出した魔石を見ると、品質も高いようだから出来れば狩りたいところだけど。

 ひとまず精神的に疲れたから今日はここで休憩だな。特製の湿布を貼って、ケアも忘れない。


「これなら普通に迷宮を歩いている方が楽で良かったよ」


 ルリカはハーと息を吐いて弱音を口にする。

 五階だったら採取も出来たし、出てくる魔物もそれほど脅威じゃなかった。

 それに比べてここは岩山が広がり、魔物は面倒なロックバードだけ。

 せめてこの岩山から鉱石でも採れれば違うんだけどな。

 そう思い鑑定してみると、鉱石の反応が見付かった。


「ソラ、どうしたの?」


 岩山を凝視していたら、クリスが心配そうに聞いてきた。


「あ、ああ。今この辺りの岩山を鑑定してみたらさ。鉱石を含んだ奴がいくつかあったんだ」

「鉱石、ですか?」

「ああ、どうやらただの岩山じゃなくて、掘る? 削る? と鉱石が採れるらしいんだ。しかも鉄だけじゃなくて、魔水晶? なんて聞いたことがないものもあるな」

「そうなんだ。で、どうやって採るの?」


 ルリカの一言で興奮していた感情が一気に冷めた。

 どうやって採るかというと、イメージするのはつるはしか? けどあれは大きい気がする。ハンマーやピッケル、タガネのような突起物で削ることは可能だろうか?

 けどここで叩くと削れた岩が飛散して危ない。下手に掘って崩落とかも怖い。大丈夫だと思うけど、素人目で判断するのは危ないよな。

 かといって広い場所で作業したら、音を聞きつけてロックバードが飛んできそうなんだよな。


「そんなに気になるなら掘ってみればいいんじゃない?」

「けどリスクが増えるし」

「けど気になるんでしょう?」


 ハイ、その通りです。


「ならこちらが警戒して対応が出来そうな場所で、尚且つ良さそうな鉱石があったらそこで掘ってみればいいじゃない」


 ルリカさん。貴女天才ですか!

 むしろそれを思いつかない俺が駄目なのか。


「ソラは何処か抜けてるよね」

「そうですね。時々子供っぽい考え方をするし」

「主様はだいたいこんな感じさ」


 幼馴染みズの辛辣な言葉が痛い。が、残念ながら反論の言葉が見付からない。

 けどお許しが出るなら甘んじてそれを受け入れよう。

 むしろまずやることは道具を用意することだ。硬度の高い鉱石が確かあったはず。


「道具を作りたいからもうちょっと休憩していてくれ」


 錬金術でハンマーを作る。これは創造の一覧にあったからその通りに作成した。持っていた鉱石でも、十分な物が作れたけど、流石に何度も使うと破損するとある。

 鑑定で鉱石のある場所が分かる分だけ、採掘するところが分かっているから有利だな。

 それに全部で五本も作った。

 数を用意していたら、女性陣からはやらないよと言われたので、予備だからとしっかり説明しましたよ。

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