第164話 マジョリカダンジョン 14F

 朝食の席で二人に話をすると、ヒカリは快く、ミアは頬を赤らめながら了承してくれた。

 セラは我関せず、クリスとルリカはミアの態度から何かを感じ取ったのか、少し視線が痛かった。別に変なことはしていませんよ?

 この階に出る魔物はホブゴブリン。ゴブリンの亜種的存在らしく、ゴブリンが進化した姿だとか言われているけど、その生態は謎らしい。

 ゴブリンが子供ぐらいの背丈なのに対して、ホブゴブリンは大人と同じぐらいの背丈で、筋肉も発達している。剣で受け止めてみたら一撃一撃が重くて腕に響く、ような感じがする。うん、今の俺だと差が大して分からないな。

 セラを見ると、相手になってない。ただ自分の戦い方を見直しているのか、所々で動きが止まったりしている。それでも危なげなく戦っているのは流石だ。

 ヒカリとルリカを見ると、まともに討ち合うことはしないで避けながら隙を伺い、チャンスと見ると肉薄して斬撃を浴びせている。

 魔力を流した攻撃のヒカリはもちろんのこと、普通の斬撃でもミスリルの切れ味は抜群で、ホブゴブリンの皮膚を簡単に斬り裂いていく。違う点を挙げるなら、一撃を与えた時の傷の深さがヒカリの方が深いというところか。あ、腕を斬り落としている。硬い骨も関係ないと言わんばかりの威力だ。

 正直言って人に向けたら怖い武器だ。けど戦争なんて起これば、こんな装備をした者が襲って来るなんてこともありえるんだろうか? もちろん軍隊の全てに、こんな装備を揃えるのは無理だろうけど。

 果たして人同士が争うのと魔王、魔物や魔族と争うの、どちらが良いのだろうかと思う。魔物を倒すのには心は痛まない。では魔族、魔人はどうだろうか?

 イグニスと実際対峙して話した時は、人と何ら変わらない感じを受けた。理性もあれば、感情のようなものもあった。角と羽がある以外は、特に人との違いのようなものはなかったような気がする。強さは……底が知れなくて別次元だったけど。

 ミアを殺そうとしたことに関しては許せないけど、ただもしミアと出会ってなくて、聖女が殺されたとなっていたら、他人が魔人に殺されたんだぐらいにしか思わなかったかも知れない。

 実際イグニスによって多くの騎士と冒険者が被害にあったと聞いた時も、恐怖こそ感じたけど、やり返そうなんて、敵を討とうなんて考えなかった。ではそこにもしクリスたちがいたら……。


「ソラ、戦闘中に考え事ですか?」


 クリスの声で我に返った。

 やばいやばい、いつの間にか考え込んでしまっていた。

 僅かな時間だったとはいえ危険だ。自分一人だけでなく、仲間も危険に晒しかねない。

 戦闘は間もなく終了した。

 ホブゴブリンも肉は食べられたものではないらしいので、討伐部位と魔石だけを残して放置。死体からある程度の距離をとってしばらくすると、ダンジョンが吸収するのか勝手に死体が消える。

 この点は助かる。地上だと燃やすなりして、処理をしないとだから。そのままにすると瘴気が溜まって、アンデッド化するんだったか? もちろん自然の浄化作用があるから少ない数なら大丈夫だと言うけど、冒険者になった時に注意を受けたことがあったな。


「ミア大丈夫か? 疲れてるようだけど」


 結構連続でプロテクションの魔法をかけているからか、額に汗が浮かんでいる。

 継続時間もあるから頻繁に唱える必要がないのだけど、上手くいかないからと、ついつい使ってしまうようだ。

 クリスも見てくれているのだけど、必死に頑張る姿を見ると強くは言えないようだ。性格もあるんだろう。

 一応MPが枯渇しないようにコントロールしているから、これもMP運用の練習と言えるかもしれないけれど、不測の事態に備えてMPは余裕を持って残しておいた方が良い。マナポーションもあるけれど、これも本来は高い品だ。価格調査をして分かったけど、俺の作るものは品質が高いからかなり高く売られていた。低品質のものでも銀貨三枚から五枚で売られている。

 一番の原因は魔力草の見分け方が難しいのと、ポーションに比べてマナポーションの作成が難しいためらしい。俺のスキルだと分からないけど、聞いた話だと作り手の数も少なく、成功率も悪いなんて言っていた。

 もしかしたら高く売りたいがための方便かもしれないけど。


「ひとまず魔法を使うのはしばらく禁止な。少なくともMPが半分ぐらいまで回復するまで駄目だからな」


 言っても感覚的なところなんだよな。

 俺だとステータスを見れば数値ではっきり分かるけど、ミアたちはそのような手段で確認出来ない。だから感覚的に、魔法をいくつ使えば限界がくるのかと確認していたようだけど、今は自分で魔力を感じることが出来るから、以前よりは分かりやすくなっているとは言っていた。


「けどプロテクションって、どれぐらいの効果があるのかな?」


 歩いていたらふとミアが呟いた。

 ミアさん、それを言いますか? 確かめるためには実際に攻撃を受けないと分からないんですよ。

 魔法がかかると一瞬光に体が包まれるけど、その効果は装備にではなくて体の防御力を上げるため、何度か盾で攻撃を受けても効果を感じることが出来なかったんだよな。体感的に感じる衝撃は緩和されたような気がするけど。

 そして何故皆さん俺を見る。攻撃を受けろと?

 ジトッと見ると視線を慌てて逸らしたけど遅いからね。

 ミアは天然なのか、時々恐ろしいことや突拍子もないことを言うから油断ならないな。効力を知りたいと思うのは、間違ってはいないと思うけど。

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