第163話 マジョリカダンジョン 13F

 十三階に下りてから一晩過ごし、朝食を食べてから攻略を開始した。

 ここで出てくるのはコボルト。犬のような頭をした魔物が二足歩行で襲って来る。

 主な攻撃は鋭い爪と噛み付き。ウルフとどう違うのかと思うけど、人間の戦士のように防具を装備しているとのことだ。

 武器の分だけリーチの差があるから有利に思われるけど、防具で攻撃を受け止めて肉薄されると、間合いが詰められて武器だと戦い難かったりする。さらにスピードが速いため、付いていけないと翻弄されてしまう。

 ヒカリとセラは問題ないけど、ルリカは少し押され気味だ。ダンジョンに入ってレベルが上がっているようだけど、二人との差は歴然。経験の差というよりも、レベル差による能力値の差が出ているような気がする。

 時間はかかるけど、焦らずに堅実に戦い倒していく。クリスは攻撃魔法で援護し、ミアは攻撃控え目で補助に力を入れている。レベルが上がって新しい魔法を習得したようだけど、まだ上手く扱うことが出来ていない。使い方が自然と分かるらしいけど、流石にすぐに扱えるほど優しくはないようだ。


「精霊魔法は使ったりしないのか?」

「あれは少しむずかしくて。私の力量だと、このダンジョン内だと常に使い続けるのは無理なの。それに使い手があまりいないから、出来るだけ使わないようにしているの」


 五階みたいに自然が多いところだと使えるんだけど、と言われた。

 一度精霊魔法を使うところを見せて貰ったけど、確かに何かを呼び出しているような感じの魔力の動きは視えたけど、その姿形をはっきりと見ることが出来なかった。

 可愛らしい方たちですよと言った時に、何人? かの精霊は異を唱えるような感じだったけど、その本意は謎のままだ。クリスが楽しそうだったのが、強く印象に残っている。

 それに一番の理由は、十全に使うなら変身に使っている分の魔力を解放しないとということらしい。

 だから万が一のことを考えて、常にフードを被っていたのか。いざという時に解除して精霊魔法を使うと、素顔を、エルフだということが分かってしまうから。


「武器の具合はどうだ?」


 コボルトを退けて周囲の安全を確保したところで二人に声を掛けた。


「主、使いやすい。シュパシュパいける」


 斬新な表現だけど、その表情から満足感が伺えるからいいだろう。


「少し重さが違うから最初は戸惑ったけど、良い感じだよ」

「重さを調整しなくてもいいか?」

「大丈夫だよ。重さも武器になるし」

「そうか。ただ長く使い続けて疲労が酷くなるようなら教えてくれ」

「分かったよ。ただ、セラとヒカリちゃんの戦い方を見てると自信を失いそう。ソラもあの頃と比べると凄く強くなっているし……」


 少し自信喪失気味だな。

 セラは黒い森で、ヒカリは特殊な環境で訓練された上に、俺と会ってからは格上の魔物と結構戦っているからな。セラに関してはこの街でもトップクラスに入るレベルだと思う。少なくとも同レベル帯の者は数人しか見たことがない。

 ただ倒した魔物の状態を見ると、ルリカが一番素材のことを考えた倒し方をしている。はっきり言ってお金になる倒し方を。本当は余裕があるんじゃないかと疑いたくなるレベルだ。


「焦ることはないさ。むしろルリカは冒険者としての経験を二人にしっかり教えてやってくれると助かる。俺もそれに関してはあまり分かってないから勉強になるしな」


 それを考えると得手不得手をお互いに補っていけば、かなり出来るパーティーになるような気がする。

 その夜。ルリカと見張りをすることがあったから色々と話した。

 主な内容は魔力の使い方になったのは、ルリカの焦りが原因だったかもしれない。


「一応ミスリルは魔力を通しやすいけど、それでも基礎が出来てないと駄目だと思うぞ」

「あの眼鏡を借りて練習はしてるんだけどね。なかなかコツが掴めなくて」

「ミアもそこは苦労したからな。ヒカリだってレイラたちに教わって、じっくりモノにしていった感じだからな」

「やっぱり基礎を学ばないと駄目か~」

「いっそ学園に通ってみるか? 別に卒業目的じゃなければ、基礎さえ学んで辞めてもいいと思うし」

「けど時間を掛けるとエリス姉のこともあるし……」


 ダンジョンで経験を積んで強くなりたい。そうは言っていたけど、やはり気にしているようだ。

 むしろクリスよりもルリカの方が気にしてる感じだ。


「急いだって仕方ないんだ。一度今回の探索が終わったら皆で話し合うのもいいかもな。そもそも学園に通うとしたら、その条件とかも調べないと駄目だろ?」

「そうだよね。うん、一度クリスたちと話してみるよ」

「そうするといい。それに探索中にコツを掴めるかもしれないだろ?」


 練習用の魔石と魔力視眼鏡を渡す。


「え~と、これは?」

「見張りは俺がやってるから練習してもいいぞ。無理にする必要もないけどな」


 見張りをするという責任感と、魔力の練習を出来る魅力。悩んでいたけど誘惑には勝てなかったようで魔石に手を伸ばしていた。

 やはりヒカリの戦いぶりを見て、魔力を纏った時の斬撃の強さを目の辺りにしたからだろう。


「ただルリカ。魔力の扱いが上手くなっても、扱いと戦い方には注意してくれよ。攻撃力が上がっただけで、基本となる身体能力が上がるわけじゃない。過信すると手痛いしっぺ返しを喰らうことになるぞ。ああ、魔力で身体能力を向上させる使い方をすれば身体能力が上がるかもだけど、そっちも色々な問題があるからな」

「確かにそれはあるかも。武器に振り回されないように注意するよ。ただ、まずは魔力を扱えるようにならないとだけど……」


 寝るまで頑張ったが成果は上がらなかったようだ。

 うん、きっと俺の教え方が悪いんだろうな。ヒカリとミアの方が上手く教えられそうだ。仲良くなったとはいえ、なかなか頼み辛いのかもしれない。今度俺の方から二人に話をしてみよう。

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