第171話 マジョリカダンジョン 17F・2

 今日の見張り当番は三番手。特に問題は起こらなかったようで、ゆっくりと休息を取ることが出来た。

 向こうの冒険者だって、次の階に行く前に余計な揉め事は起こしたくないのだろう。理性的な集団で良かった。真面目にダンジョンを攻略しているパーティーなんだろう。


「ソラはあまり疲れてないようですね」


 今日の相方はクリスか。果実水をアイテムボックスから取り出し渡す。


「便利ですね。私も出来たら覚えたかったです」

「スキルは神様からの贈り物だっけか?」

「どうなんでしょう。訓練で覚えることも可能なようですし。ダンジョン産ならスキルスクロールもあるかもしれません」


 そのために魔法学園なんてものがあるわけだしな。最も使えるレベルの魔法を必ずしも習得出来るかと言われると違うみたいだが。

 実際レイラも魔法よりも剣の方が戦えるため、剣メインで戦うことを選んで、魔法は滅多に使っていないという話だ。


「は~、美味しいです。甘くて疲れた体が癒されます」

「そんなに疲れてるのか?」

「それは、休んでいるとはいえ戦闘もあって、歩き続けですから。旅慣れしてるとはいえ、流石に疲れますよ?」

「やっぱそうだよな……手軽にダンジョンから帰還できたらいいんだけどな」


 空間魔法がそろそろ上がりそうだし、転移魔法でも覚えてくれると嬉しいんだが。

 創造スキルで帰還石も載っていたけど、レベル的にも材料的にも作るのは難しそうなんだよな。魔石もボスの周回をしないといけなくなりそうだし。こちらは待機時間が終わった時に挑戦すればいいのか? けど複数の魔石が必要なようだし、無理か。

 仮に魔石が入手出来てもレベルが全然足りないんだよな。MPの消費が激しそうだし、マナポーションをがぶ飲みすれば作成可能か? うん、挑戦したくないな……けど安全を考えるなら……悩ましいところだ。


「そう言うソラは疲れてないんですか?」

「あ~、俺はスキルがあるし、あまり戦闘もこなしてないからな」


 主な活躍の場が野営中の料理というのもどうかと思うが……。


「スキルですか?」

「ああ、話してなかったか? 俺はスキルの恩恵で歩いても疲れないんだよ」

「……何それ、ズルい……です」


 そんな頬を膨らませて不満を主張しなくてもいいと思うのですが。


「ただそれだけしか効果がないから、追い出されたんだけどな。戦う力じゃないからって理由で」

「そうなのですか? 十分戦えてると思いますけど」

「今は、な。一緒に呼ばれた連中は、呼ばれた時から既に強いスキルを複数持ってたみたいなんだよ」


 クリスも出会った時の俺を思い出したのか、納得して頷いている。


「それでソラは配達系の依頼を多く受けてたんですか?」


 その通りなんだよな。あの頃が懐かしい。


「出来れば歩いた距離で特典とか貰えるなら尚良かったんだけどな」


 思わず呟いていた。

 意味が分からないと言った感じで、クリスは首を傾げている。


「俺の元いた世界で、歩いた距離で色々なアイテムが貰えるっていう、歩くことを促進するゲームがあったんだよ。それで歩いた距離で、ゲーム内の特別なアイテムが貰えるってのがあったんだ」


 ゲームとか言われても分からないだろうな。

 けどじっと聞いていたクリスが、ふと聞いてきた。


「ソラは、元の世界にやっぱり帰りたいとか思いますか?」

「……どうなんだろうな。確かに向こうの世界にいたら、もっと安全に生活出来たと思う」


 それに文明、色々な便利な道具だってある。少なくとも日本にいる限りは、何不自由なく生活することが出来ていた。もちろん養って貰っていたっていうのもある。

 ただ一日を振り返ると、ただ何となく生活していた日々を繰り返していたと思う。

 学校行って、たまにバイトして、ゲームして、テレビ見て。何かこれを極めたいということもなく、休日にのんびり川辺を歩いたり、景色を眺めにトレッキングをしたぐらい。それも本格的にやっていたわけではなく、息苦しく感じたりした時に、息抜きで行ったのが殆どだった気がする。

 それに比べてこの世界では、危険は確かにすぐそこにあるけど、スキルもあって、楽しく過ごせていると思う。向こうでは人付き合いが殆どなかったのに、こっちでは多くの人にお世話になり、今もこうして接している。


「正直言って分からないけど。必死になってまで、帰還方法を探すつもりはないよ。何かの拍子に偶然知ったとしても、今は帰りたいとは思ってないかな」


 それが正直な、今の気持ちだろう。


「そっか……そうなんだ」

「クリスたちはエリスさんを見付けたらどうするんだ?」

「お姉ちゃんを見付けたら、一度村に帰りたいな。お婆ちゃんにも報告したいから」

「その後は?」

「それは……」

「それは?」

「……秘密です」


 なんか頬を染めて恥ずかしそうにしているけど、何故だ?

 それともエリスさんを探すまでは、他のことを考えられないのかもしれないな。

 セラと会った時だってあんなだったし、身内であるお姉さんと再会したら、あれ以上に取り乱すかもしれないしな。

 そんなことを考えていたら、ジッとクリスが見ていることに気付いた。


「どうした?」

「別に、また何か考え込んでいたみたいだから。何を考えていたのかな、って」


 貴女の嬉し泣きしている姿を思い出していたんですよとは言えない。


「早くエリスさんと会えるといいな」


 今は回り道をさせてしまっているけど、出来るだけ早く再会させてやりたいな。

 別にダンジョン踏破なんて考えていないから、何処かで区切る必要はあるのかもしれない。

 今回の探索が終了したら、その辺りも一度話し合った方がいいのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る