第170話 マジョリカダンジョン 17F・1
十七階に挑む前に、ヒカリに渡した武器の説明を一通り他のメンバーにもした。
流石に突然ナイフが爆発したら驚くだろう。
実際にヒカリに魔力を籠めて貰い、ダンジョンの壁目掛けて投げて貰い、どのようになるかの実演も忘れない。
壁にぶつかり爆発。大きな音が反響した。けど爆発の規模としてはそれほど大きくない。直径一メートルもない感じだ。
近くに魔物がいなかったから良かったけど、魔物を呼び寄せる原因になるかもしれないな。それとも壁に当たったからあれだけの音が鳴ったか。これも検証が必要だ。
威力が分からなかったこともあったけど、不用心だと怒られたのは言うまでもない。
ちなみに壁には傷一つなかった。
準備が整い階段を下りる。
十七階はホブゴブリンの出る階層。今度は五体一組以上の集団で出ることが多いという記録が残っていた。
階段を下りた先はシンと静まり返っている。
昨日見かけたパーティーの姿は見えない。
更新されたMAPの端の方に一五人ほどの反応がある。結構先行している。
もう一つのパーティーは範囲外だとすると、二つのパーティーは休憩もしないで攻略を続けたのか、それ以上の腕なのか。戦っている所を見た訳じゃないから判断は出来ない。
「ここのホブゴブリンは連携してくると思うか?」
「ゴブリンだって連携をとってきたほどだから、きっと連携を取ってくると思う」
「それじゃ後衛は足止め中心の方が良いか?」
「罠がある場所で戦わなければ五体ぐらいに襲われても大丈夫さ。だから罠がある場所で遭遇したら一時後退。もし罠を解除する時間があるなら解除して迎撃がいい」
ルリカとセラと相談しながら戦い方を考える。
後退する時は挟撃に気を付ける注意があるけど、罠のある場所で戦うよりは安全だろう。戦いに意識をとられて、罠の範囲に足を踏み入れる方が危険だ。罠の種類によっては危険極まりないものもあるようだし。
隊列は三人を先頭に、俺が殿を務める感じで歩く。本当は前衛、中衛、後衛と二人で組んだ方がバランスがいいけど、罠があるためこの隊列になってしまう。
気配察知と魔力察知は定期的に発動させるけど、基本的に口を出すことはしない。
そもそもヒカリもルリカも優秀なので、変に声をかける方が邪魔になりそうだ。
現に今のところ罠の見逃しはない。短い期間だったけど、資料室に籠っていた成果だろう。俺だったら覚える自信がないけど。タリアの教えが良かったのも影響しているかもしれない。
前のパーティーが通ったからなのか、入ってから一度も戦闘が起こらない。
倒された魔物のリポップ時間は相変わらず謎だ。楽で良いけど、魔物と戦わないとレベルも上がらなければお金にもならない。贅沢な悩みと言えば贅沢な悩みなのかもしれない。俺は歩くだけで経験値を入手しているから関係ないんだが。
もっとも罠も解除されているから、順調に進めている。
半日ほど歩いて、前のパーティーとの差がだいぶ詰まってきている。
「遠くで剣戟が聞こえる。他のパーティーが近いかもしれないさ」
セラが立ち止まり皆に状況を説明した。
流石と言うべきか、良く聞こえたな。MAPで位置を確認したけど、まだ結構な距離があると思うのだが。
「ひとまず休憩するか? それとも別の方向に進んでみるか?」
話し合った結果。別の方向に進むことになった。
まだ疲れていないというのもあるけど、冒険者のいる方向に必ずしも階段があるとは限らないのだから。事実、あちら側は行き止まりのようだしな。
「待って、罠がある」
しばらく進むとルリカが罠を発見した。
早速解除をするために床を調べ始めたけど、ハッとして顔を上げた。
「何かが近付いてくる……魔物よ!」
「主様、後方は?」
「大丈夫。こっちは安全だ」
「ルリカ下がろう。ここだと戦い難い」
素早く後退するのと、通路の先からホブゴブリンが顔を出したのは同時だった。
獲物を見付けたホブゴブリンは、歓喜の声を上げて接近してくる。
「クリス、罠がある辺りに入ったら魔法をお願い。合図するから準備して」
牽制で魔法を撃つようだ。
クリスは詠唱を唱えて魔法を待機させている。
「今よ!」
声と同時に呪文名を唱えた。
杖の先から勢い良く風の刃が放出されて襲い掛かる。
皮膚を斬り裂き、血しぶきが飛ぶ。痛みにバランスを崩したところで罠のスイッチを踏んだのか、落とし穴が発動して一匹のホブゴブリンが視界から消えた。
仲間が傷付き動揺するかと思ったけど、気にした様子もなく突撃してくる。
「迎撃するよ。前に出すぎないように注意」
セラは両手に握った斧を構え、一歩前に出る。
下の階に来てからは三人並んでも動き回れるぐらい幅はあるけど、武器を振り回す以上、十分な間合いは必要。それは相手も同じようで、中央に二匹、左右に一匹ずつ別れた。
混戦になると魔法が撃ちにくいため、クリスは待機。一応いつでも魔法を撃てる準備はしている。ミアは補助魔法をかけて、俺は周囲の警戒をする。
力自慢のホブゴブリンは、といってもゴブリンと比べてだけど、その丸太のような腕に持つ武器でセラを押し潰そうとするけれど、セラの前では相手にならない。
セラによって討ちつけられた武器は力負けをして、体勢を崩されたところを一撃の元葬り去れらた。
それを見た残り一匹は、勢いのまま襲い掛かるのを留まり、慎重な行動をとろうとしたところを逆にセラに襲撃されて、瞬く間に倒された。
ヒカリもスピードを生かして懐に入ると、一閃二閃とダメージを与えて危なげなく倒した。
ルリカも相手の動きに十分対応したけど、魔力を籠めての一撃を試そうとしているのか、二人に比べると倒すのに時間が掛かってしまった。
「ヒカリちゃん、難しいよ~」
「練習あるのみ」
教えを乞うているようだ。
それをセラが呆れた目で見ていたけど、危険な相手で試すよりはいいと思っているんだろう。止めはしない。
模擬戦で試すには、魔力が通った時のミスリルは切れ味が良すぎて危険だしな。
「はいはい、討伐部位と魔石の回収はこちらでやっておくから。罠の解除をお願いな」
それから何度かの戦闘を行い、階段を発見した。俺もセラと何度か立ち位置を交代して、ホブゴブリンと戦った。
階段近くには既に先客がいて、野営の準備のようなものをしている。
流石に次の階層に行く前に、十分ここで休むことにしたようだ。
もちろん俺たちも休憩をとる。近くで野営すると色々とトラブルに巻き込まれるかもしれないため、離れた位置で野営を行う。
ダンジョン内での他パーティーへの干渉は、基本親しくなければ不干渉が推奨されている。下手に絡むとトラブルの原因になるからだ。
特に俺は注意するように言われた。否定する材料がないので黙って従います。
「もう一つのパーティーも来るかもしれない。見張りの当番は一応警戒だけしておいてくれ」
いつもよりも簡単な食事を済ませると、順番を決めて先に休むことになった。
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