第161話 マジョリカ・14

「こんな時間に自室に女性を連れ込むなんて……クリスが聞いたら嫉妬するよ?」


 照れ隠しなのか本音なのか分からない言葉だ。

 けど既に中にはヒカリが待機しているから問題ない。

 ルリカもヒカリの存在に気付いたようで、罰が悪そうに肩を竦めた。


「ヒカリちゃんも呼ばれたの?」


 ルリカには椅子を勧めた。

 ヒカリはコクンと頷いて、足をブラブラさせている。

 ちょっと待たせてしまったかな。

 お風呂の後に来てくれと言ったけど、予想以上に早くヒカリが訪れたため、ルリカを待つ間、今日一日にあったことを話し合った。

 予想通りルリカは武器を新しくするか悩んでいたけど、金銭的な理由で諦めたと言っていた。

 ヒカリにも武器を新しくしたいか尋ねたら、ミスリルの短剣が欲しいと言われた。タリアが実際に使っていて、その切れ味を知っているからだろう。


「二人に来てもらったのは、ちょっと武器を作りたいからだ」


 唐突な物言いにルリカは首を傾げたけど、ヒカリは目をキラキラさせている。

 俺はルリカにも分かるように錬金術の応用で鍛冶のようなことが出来るため、それで武器を作成出来ることを説明した。


「二人はメインで使ってる武器が短剣や剣だろ? それでどんな形がいいか相談したかったんだ」


 二人には今使っている武器の形状で出来るなら、それに似せて欲しいと言われた。

 ルリカの双剣は実用重視で無骨なデザイン。切れ味と耐久性に特化したものを使用しているようだ。それでもゴブリンキングの皮膚を突破することが出来なかった。

 ヒカリのものは簡単な装飾が付いていて、サバイバルナイフのように、刀身の根元がギザギザになっている。斬ると傷口から麻痺毒が浸透するようになっていて、一種の魔道具になっている。そのお陰か、比較的魔力が通しやすくなっている。

 ヒカリが曲がりなりにも魔力を通せていたのは、この短剣だからこそだろう。

 俺はそれぞれの武器作成のための材料をアイテムボックスから取り出していく。


「ちょ、ちょっと。それで作るつもりなの?」

「ん? そうだが」

「って、それミスリルだよね?」


 もちろんミスリルです。拾ったものだからタダですよ。


「いやいや、そんなもの受け取れないよ」

「気にするな。戦力が上がるに越したことはないんだし。それにアイテムボックスに眠らせておいた方が勿体ないだろ?」

「売って新しい武器を買うとか考えないわけ? ミスリルだったら売ったお金で魔法が付与された武器だって買えちゃうんだよ。というか、ヒカリちゃんはそれでいいの?」

「うん、主に任せてる」


 味方はいないと悟ったのか、それ以上は何も言わなくなった。なんか疲れた表情をしているけど、きっと長風呂の影響に違いない。

 それに魔法の武器とか、欲しい性能のものが買えるかどうか分からないし。お金はあっても、そのもの自体がないとどうしようもない。

 俺は魔力を流し刀身を作る。魔力がぐんぐん吸われていくのが分かる。ステータス画面でMPの消費具合を見ながら、ミスリルの刀身完成までのカウントを見る。ギリギリマナポーションを飲まなくても出来るな。

 原因は想像出来る。創造のスキルレベルが、ミスリル創造に必要な適正レベルに足りていないからだと思う。

 ちなみにMP切れで失敗すると使用した素材を失う。これは実験して確認済みだ。

 ひとまず双剣一本分の刀身が完成した。

 ルリカはその光景を目の当たりにして、口を半開きにしてミスリルの刀身を凝視している。

 マナポーションを飲むか悩むところだけど、一本だけ作ってしまうと決めた。

 MPがある程度回復したのを確認し、柄の部分を作成して刀身と繋げる。

 正規の作り方、鍛冶で作る場合と手順など色々な部分が違いそうだけど、そもそも鍛冶でどうやって剣を作っているか知らないから比べようがない。


「重さとか確認してくれるか?」


 ルリカに差し出すと、恐る恐る受け取っていた。

 実際に振ることが出来ないため本当に重さと握り具合の確認しか出来ない。最悪ダンジョンで使いながら調整しないと駄目だな。


「うん、特に違和感はないかな。あとは実際に使ってみないと分からないけど」


 右手にミスリルの短剣を、左手には今使用している短剣を握って感触を確かめている。


「分かった。残りはまた明日作るよ。朝に一本作って、夜にもう一本作る感じかな。無理すれば今からでも作れるけど、マナポーションを結構消費しそうだからな」


 俺は空になったマナポーションの瓶を振ってみせた。

 本当は二本一組で渡したかったけど、このまま続けたらお腹がタプタプになりそうだ。ちなみに最初にルリカの武器から作ったのは、作りが単純で作りやすかったからだ。


「あ、そういえばこれも錬金術で作ってくれたんだよね。直すことって可能なのかな?」


 ルリカが思い出したように取り出したのは一つの腕輪。見覚えがあるやつだ。宝石代わりにはめ込まれた魔石に亀裂が入り割れている。


「直すことは可能だが、出来れば代わりの魔石が手に入ってからでもいいか? あと、もしかしてクリスに渡した方も破損してたりするか?」


 尋ねたらルリカのマシンガントークが唐突に始まった。

 旅の途中で突然俺から貰ったアクセサリーの魔石部分が破損して、縁起が悪いと思っていたところにサイフォンと会ってソラの訃報を聞いたから、余計にクリスが塞いでしまい大変だった等々。クリスに一度聞いた話だ。

 なので俺もこの宝石、ではなく魔石には特殊な付与をしてあって、それが原因で壊れたことを告げた。一歩間違えばストーカー的な扱いになるけど、合流するためには居場所を知る手段を持っておきたかったと正直に話した。

 ルリカは仕方ないなと謝罪を受け入れてくれた。

 ただそれなら最初にしたように、普通にギルドへ連絡すればいいと言われたけど、その頃は死を偽装することを考えていたから、その方法を使えるか分からなかったとも説明した。

 あとは魔石が手に入ったら何か作ることを約束させられたけど、元々そのつもりだったから問題ない。

 翌朝MPが回復したから早速残りの一本を作成し、ルリカに渡したら嬉しそうに抱き着かれた。

 クリスがその姿を呆然と見て、セラが驚き、ヒカリに指摘されたルリカが顔を真っ赤にしたのが印象的だった。

 俺は悪くありませんよ?

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