第158話 マジョリカダンジョン 再攻略・5

 騎士の人たちもボス部屋の攻略をして帰るということだったので、先にどちらが行くかという話し合いの結果。先を譲ってくれるとのことだった。

 うん、まだヒカリのスープのダメージが残っているようだ。

 昨夜はあれから飲み水を分けて、さらに胃薬っぽいものを渡したら感謝された。

 何故そんなものを持っていたかって? 常に備えることは大事だろ?

 朝は朝でヒカリがやる気を見せていたけど、今回は必死に俺を褒め称えて、俺のスープを是非飲みたいと懇願して回避していた。

 ヒカリも俺が褒められていて嬉しそうだったから、騎士の作戦は見事に成功したと言えるだろう。言われた俺は少し複雑だったが。野郎の賛美なんて誰得だと。

 それでも少し残念そうだったから、家に戻ったら一緒に作ろうと言ったら素直に従ってくれた。嬉しそうに微笑む姿を見た騎士の何人かが嫉妬の視線を送ってきたがスルーだ。というか嫉妬する要素が何処にあるんだ? 

 何人かは勇者を見るような目で俺を見てきたけど、ああ、昨日ヒカリのスープを飲んだ奴らか。中にはホッとして何故か拝んできたけど、あのスープの破壊力はそんなにか?


「とりあえず作戦をまとめておこうか」


 食休みを兼ねてゴブリンキングをどう倒すかを話し合う。


「主様、出来ればボクたち五人で戦ってみたいんだけど駄目かな?」

「理由を聞いても?」

「腕試し、というか。自分たちだけでどれぐらい戦えるかを確認したいんだよ。ソラやフレッドさんたちがいるとそれが分からないから」


 ルリカが理由を簡単に説明してくれた。

 どうやらダンジョンを挑んでいる時に、五人で話して決めていたらしい。

 フレッドたちに意見を求めたら問題ないとのことだ。

 むしろどう戦うかを、後ろから見てみたいとのことだ。

 騎士たちも便乗して見たいと言う者がいたけど、残念ながらボス部屋に入れるのはダンジョンに入る時に登録したパーティーメンバーだけらしいからな。

 そもそも戦う姿を見たければ、俺を戦わせないで普通に頼めば良かったのに。

 指摘すると何故か頭を抱える者や、天を仰ぐ者がいた。想像すらしてなかったようだ。自分たちの良いところを見せることしか考えてなかったようだ。

 いいのか? その姿を見た隊長が悪い笑みを浮かべているが?

 無人のボス部屋に向けて歩く。この時異なるパーティーが同時に入るとどうなるんだろうと思ったけど、危険なことはしないに限るな。

 パーティーメンバーが全員入ると扉がゆっくりと閉じていく。

 扉が閉じてしばらくすると部屋に魔法陣が浮かび上がって、そこからゴブリン軍団が現れる。

 ゴブリンキングに、軍団のゴブリンは三〇体ほどか。

 既にヒカリたちは配置に付いている。

 セラが中央に立ち、左右にそれぞれヒカリとルリカが控える。

 その後ろにはミアとクリスが並ぶ。

 クリスが詠唱を始め、範囲魔法のファイアーストームを放った。

 精霊魔法士なのに、精霊魔法を使っているのを見たことがないな。

 ファイアーストームは広範囲に広がり、相手の出鼻を挫いて混乱をまき散らす。

 中央は爆心地であるため殆どの魔物が火に巻かれ、中央で運よく残った個体は素早くセラが倒している。

 ヒカリとルリカはスピードを生かし、それぞれが左右から間合いを詰めると急所を狙って次々と倒していく。ルリカは双剣を巧みに扱い致命傷を与え、ヒカリは魔力を流して主に首、人でいうところの頸動脈を損傷させているのか?

 爆炎が消えて視界が良好になるとクリスの第二射がゴブリンキングを襲う。

 それに呼応するようにセラが駆け、右側に回り込んで仕掛ける。

 ゴブリンキングは右側から襲うファイアーアローとセラから距離をとろうと動くが、そこに少し遅れて放たれたホーリーアローが右肩に直撃した。

 バランスを崩したところでセラが斧を振り下ろしたけど、無理な体勢ながらゴブリンキングは剣で受け止めた。

 ゴブリン種とはいえさすがはキングの名を持つ上位種。セラの重い一撃を一瞬とはいえ受け止めたけど、完全には勢いを殺すことが出来ずに体が流れる。

 そこに処理を終えたルリカが追撃で双剣を振るうが弾かれた。キングの皮膚が硬くダメージが通らない。これはルリカの力と武器の性能が原因か?

 ヒカリもルリカに比べると力は劣るけど、攻撃する瞬間に武器に魔力を流すことで切れ味を増しているため、皮膚の表面を斬り裂くことには成功している。もちろんそれで倒すことは出来ないけど、ヒカリの武器の特性上それで問題ない。ただ一度で傷を付けることが出来なかったようで、何回か攻撃を繰り返していたみたいだ。

 シャドーウルフの時もそうだけど、ヒカリの武器には麻痺を付与する効果がある。即効性こそないけれども、戦闘時間が長引けば徐々に効果が出てくる。もっとも耐性持ちには効かないけど、ゴブリンキングは麻痺毒に侵されているようだ。

 その情報は既に共有されているようで、三人は無理に倒そうとしないで深追いはしない。もちろんチャンスがあれば倒そうとしているようだけど。


「キングの皮膚は硬い。だが動きはそれほどでもないんだよな。あの攻撃力はちょっと脅威だけどな」

「まともに戦ったらまともな攻撃はセラのしか通りそうもないな。そうなるとあとは目を狙うか、口の中、体の内部から破壊するしかないんだろうな」

「だな。セラの姐さんの攻撃なら致命傷を与えられるだろう。だがヒカリの嬢ちゃんの攻撃も通っている。魔物とはいえ、血を失えばやがて動きが悪くなっていく。それが狙いなのか?」


 フレッドも戦いを見ながら色々考えているようだ。もしかしたら自分たちの攻略方法と比べているのかもしれない。

 それから十分ほど戦いは続き、やがてゴブリンキングの動きが鈍ったところをセラの一撃が入り戦闘は終了した。

 危なげない戦いが出来たと、五人はその結果に満足しているようだった。

 あくまで表面的にではあるが。

 

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