第157話 マジョリカダンジョン 再攻略・4
やっと十階に到達した。階段を下りる騎士の姿に覇気が感じられない。
「主様、ボクたちはこれからどうするんだい?」
「ボス部屋を攻略して帰還だけど、今日は食事をとって休憩かな? それとも一度街に戻るか?」
例の件があったからか、戻るのはやめようということになった。
もっとも今はセーフティーエリアに誰もいないけど。
騎士たちも戻らないで、ボスに挑むらしい。次に来た時に待っている人がいたら、時間を無駄にするからというのがその理由のようだ。
「疲れてないからこのまま行っても私はいいよ」
歩いただけだから体力は有り余ってる感じか。
けどお昼は保存食を食べただけだから、お腹が空いてるようなんだよな。ヒカリが時々お腹をさすっていたのは見逃さない。
「無理する必要もないだろう。今日は食事を摂ったらゆっくり休んで、万全な態勢で挑んだ方が良いと思うぞ」
セラたち前衛組みは体力があるけど、ミアたち魔法職は少し劣るしな。もちろん一般人と比べたらある方だけど。
それにセーフティーエリアがわざわざあるんだ。活用しないと勿体ない。
階段から下りたら騎士たちから離れて食事の用意だ。ん? ヒカリもするのか?
鉄板と鍋を二つ用意して、休憩もそこそこに料理を開始する。洞窟内というのに火、煙がこもらないのは助かるな。
俺は鉄板が温まったら肉を焼き、隣の鍋ではスープを作る。ヒカリもスープを作っているけど、少しは手際が良くなっているか?
セラやフレッドたちは武器の手入れをし、ミアたち魔法職はシーツを敷いたりと野営、休憩する準備をはじめている。
騎士たちも武器の手入れをはじめたけど、肉の焼ける音を聞いて、匂いを嗅いだからなのか、手が止まってこちらを注視している。
「なあ、ソラよ。ちょっと相談だがいいか?」
「どうした?」
「あ~、なんか少し料理を分けて欲しいそうなんだ」
フレッドが言い難そうに言ってきた。隊長にでも頼まれたのか?
「主、料理を分けてやってもいいと思う」
思わず見てしまった。まさかのヒカリからのお言葉に。
「うん、せっかくだからヒカリのスープをあげる」
手料理を振る舞うということですか? 結構小さな声で話しているのに、向こうから歓声があがってるのだが。
「ヒカリがそれでいいならいいが。ならもう少し肉も焼いた方が良いか?」
鉄板を二つ追加して肉を焼く。一応携帯食もあるらしいし、それほど多くなくてもいいだろう。
「それで料理代なんだが……」
「ああ、稼ぎを奪っちゃったしな。特に気にしなくていいよ」
思い出したのか、フレッドは苦笑を浮かべながら頷いた。
そう、あれから戦い方が見たいということで代わりに先頭に立って戦ったわけだけど、馬鹿正直に剣を振るうことはなかった。
通路にゴブリンが姿を現したら魔法を放った。逃げ場がないように通路一杯に火の魔法を派手に。
炎の通り過ぎたそこには塵一つ残さず、まるで最初から何もなかったかのような光景がそこに広がるだけだった。
騎士たちの動きが止まったけど、気にせず歩き出した。顔が引き
気配察知を使いながら、風魔法を放って階段を探す。ソナーをイメージしたような使い方で、風を糸のように伸ばして階段を探した。魔力が続く限り風の流れを追えたけど、かなり広いMAPだと魔力がなくなりそうだな。基本的にMAPを表示させた方が早いけど、使えない場合に備えての練習だ。
そんな感じでゴブリンを蹂躙し、その光景を見た騎士たちは言葉を失い。フレッドたちも顔を青ざめていたな。
ただ一部の騎士は平気な者もいた。話を聞いて見たら、この国の魔法兵団に入団する魔法使いの中には、同じようなことをする奴がいるそうだ。流石魔法学園なんてある、魔法が盛んな国だと思った。
そう考えると、高ランク冒険者だとこんなことは普通に出来るのかもしれない。Aランク以上の冒険者が戦っているのは見たことがないし。
まだまだ俺の認識とこの世界の常識にズレがあるな……。上には上がいるということか。
途中、そんな魔法が使えたらもっとシャドーウルフを簡単に倒せたんじゃないかと聞かれたので答えておいた。
「魔法の威力を抑えるのが上手くいかないんだ。味方もろとも燃やしてもいいなら気軽に使えるんだけどな」
その言葉を聞いたフレッドは顔を引き攣らせていたな。
まあ半分どころか殆ど嘘だけど。ただこう言っておけば不用意に頼られることもないだろう。
魔法を使える商人だけど、下手だというのもしっかりアピール出来た。時々アロー系の魔法を使って変な方に飛ばしたりもした。壁にぶつけたり。もちろん友軍に向けて放つなんてことはしてません。
その後、少し剣でゴブリンを倒したら、今度は隊長さんに声を掛けられたからこちらも言い訳をしておいた。
「俺たち行商人は商売のためなら危険場所にも足を運ぶからな。ある程度の防衛手段がないとやっていけないんだよ。商会と違って個人で稼ぐには、他とは違うものを仕入れないと生き残れないからな」
一応は納得してくれたようだ。それに倒したのゴブリンだしな。
俺だったら冒険者やってた方が稼げないか? とか思うけど、その発想は思い浮かばなかったんだろうか。
考え事をしていたら料理が完成した。危ない危ない、貴重な食材を駄目にするところだった。
騎士たちはしっかり並んで肉とスープを受け取り離れていく。嬉しいのか小躍りする奴もいる。ヒカリの鍋のスープが次々となくなり、俺の方は殆どなくなっていないな。セラたちの分を盛っただけだし。
途中ヒカリの鍋が空になったら、テンションの下がった騎士たちが肩を落として俺の作ったスープを受け取っていく。失礼な奴らだ。礼の言葉だけはしっかり言っていたけど。
食事が行き届いたらヒカリの一声で食事が始まり、半数以上がそのスープを一口して突っ伏した。見事な一撃としか言いようがない。
大丈夫か? ピクピク動いているから生きてはいるようだが。
ヒカリの作り方を見ていたけど、特に変なものを入れているようには見えなかったが。途中フレッドに話しかけられたり、考え事をして目を離したからその時に何かあったのか?
ヒカリはヒカリで不思議そうに首を傾げてるな。今度どんな手順で何を入れたかを確認しないといけないな。俺の健康のためにも。
お、復活した騎士たちが恨めしそうにこちらを見てきた。
けどヒカリが悲しい顔をしたら果敢にスープに挑みだした。末恐ろしいな。
本人は俺が焼いた肉とスープを満面の笑みを浮かべて食べている。
まあ、いいか。
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