第156話 マジョリカダンジョン 再攻略・3
九階のゴブリンは、上位種とまでいかないけど、職業の肩書を持った通常のゴブリンよりも強い奴が出てくる。それも集団で。
そのため定期的に対人戦の練習のために騎士が訓練をしにくるという話だったけど、どうやら今日はその日に当たったらしい。
「なあ、こういう時はどうしたらいいんだ?」
「ちょっと待て。見知った奴がいたから話をしてくる」
戦闘が一段落した時にフレッドが声を掛けて、騎士の責任者らしき者と話をしている。
最前列の騎士は前方を警戒しているようだけど、後方に控える騎士たちはチラチラとこちらを盗み見ている。
「話はついたのか?」
「ああ……」
なんか言いにくい条件でも出されたのか、なかなか話をしない。
恨めしそうに騎士たちの方を一度見たけど、覚悟を決めたのか真っ直ぐ俺を見て口を開いた。
「女性の皆様をこちらのパーティーの前列に配置して欲しいそうです」
大声で言い切った。
歓声が上がった。
いいのか? その声を聞きつけてゴブリンが寄ってこないか?
エデルは信じられないものでも見るようにフレッドを見て、ガウンは無言のままため息をついてやれやれと首を振っている。
だがフレッドは至って真面目だ。
騎士の方を見るとポージングを決めたり、静かに頷いたりと、期待の籠った目で注視してきている。
「言いたいことは分かる。言いたいことは分かるが、可愛い子たちの前で良いところを見せたいらしい。変なちょっかいは出してこないそうだ。だから頼む」
なんでそんな必死なんだ? 弱みでも握られているのか疑いたくなるレベルだ。
「ソラ、別にいいじゃない。一応後をついていくだけなんだし、私は構わないよ」
ルリカの声が聞こえたのか、なんか歓声が上がってますが?
「主様、後ろから戦うのを見るのも勉強になると思うから」
そうは言いますがね。うちのパーティー誰も盾なんて持ってませんよ? 俺に見て勉強をしろということなのかな?
悩むところだが、結局要望を聞き入れた。
別の道を進んで階段を目指してもいいような気がするけど、他人の戦い方を見るのも勉強になるということで。
ヒカリたちは休みを挟んだとはいえ一階から下りてきているし、自分では分からない疲労が溜まっているかもしれない。もしこの階を自分たちで攻略したいとなったら、また別の日に挑戦すればいいか。
フレッドが伝えに走ると、握手していた。さらに周りの騎士からボコパコと叩かれている。
うん、あれはあれだ。野球のサヨナラヒットやホームランを打った人が他の選手たちから荒い祝福を受けてる絵面を思い出させる光景だ。
話がまとまり配置に付くと、前列に並ぶ騎士たちが気合の叫び声を上げて前進を始めた。
だから声を上げると魔物が寄って来るかもしれないんだが? 大丈夫かこいつら。
訓練だから呼び寄せるためにわざとやっているのか? 良いところを見せたいからなんて理由だったら最悪だが。
並び順としては、前列にセラとルリカにヒカリが横に並び、その後ろに俺とクリス、ミアが続く。最後列に魔法使いのエデルを入れた男三人が歩く。そのさらに後ろには、半数の騎士たちがいる。
騎士たちの戦い方は。一言で言えば脳筋な、違った。盾を使った力押しの戦い方だった。
盾を構えながら接近し、押し込むように後退させては体勢を崩しては止めを刺している。隊列を崩して魔法職への壁がなくなれば、今度は盾を持たない軽装の騎士が素早く間合いを詰めて敵陣を切り崩している。
面白味のない戦い方だけど、堅実な戦い方だ。倒した魔物は後方で控えている騎士が素早く魔石だけ回収している。遠距離攻撃をするものがいないからの戦い方でもあるようだ。
あとで聞いた話だと、ここで回収された魔石は臨時収入として分配されるため、一体すら逃さず狩っているらしい。
「ソラはこういうのは初めてですか?」
「ああ、そもそも騎士と一緒に行動なんてしないからな。ミアはあるって話だったな?」
「はい、何度か討伐に同行したことがあったので。ここまで、その、明るい狩ではありませんでしたが……」
聖女時代の話。確かに回復役がいれば違うだろうしな。それに神殿騎士とか、生真面目な人が多そうなイメージだ。黙々と任務を遂行してそうだ。
それを考えるとここの騎士たちの回復はポーションが基本ということになるのか。
「クリス、今更だけど神聖魔法を使える冒険者って滅多に見かけないのか?」
「あまり見かけません。ただ絶対数が少ないというだけで全くいないということはないかな。有名なところだと、Sランクの冒険者で神聖魔法の使い手がいるという話を聞いたことがあります。違いますね。高ランク冒険者ほど魔法を使える方がパーティーにいるといった感じかもです」
確かに魔法系の冒険者よりも、どちらかというと剣を持って戦う冒険者の方が圧倒的に多い。実際冒険者をやっていた時に、魔法を使える人は二割いればいいと言った感じだったしな。
そうなると魔法を使える人間が半分いる俺たちのパーティーは目立つかもしれないが、今更か。冒険者ギルドでは悪い噂が流れ、この街最大クランとは少し揉めてるような感じ? だし。
そう考えるとパーティーに女の子が増えたら、さらにやっかみが増えそうだ。今度は奴隷じゃないし。
ミアとクリスと色々話しながら歩いていたら、何故か騎士の責任者、隊長さんから戦い方を見せてくれないかと頼まれた。フレッドに話を代わって貰おうと思ったら、何故か俺指名らしい。
苦笑する隊長さんの話によると、良いところを見せようと頑張っているのに、イチャイチャと楽しそうに話すのに嫉妬した騎士たちからの要望らしい。
苦笑するぐらいなら止めて欲しいけど、どうにも我慢の限界に来ているからガス抜きもかねてとお願いされた。
俺としてはその内情をぶっちゃけられる方が困るのだが……。
ミアが危険だと反対したけど、危なくなったら良いところを見せようと頑張る騎士たちが、身を持って守るということで渋々引き下がった。というよりも、俺が頼んだ。
折角なので勘違いがないように、釘をさすためにも力を少し見せておいた方が良いと思ったからだ。それに、馬鹿な理由なだけで、そこまで悪意は感じられないんだよな。なんというか、純粋に羨ましそうな感じで見てくるから憎み切れない?
一人パーティーから離れて進んでいくと、騎士たちは綺麗に左右に割れて道を作った。
「俺の戦い方だと魔石とか手に入らないけどいいか?」
何を言っているのか分からないといった表情を浮かべたが、問題ないと隊長が頷いたのを見た。
言質はいただいた。なら少し羽目を外すか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます