第154話 マジョリカダンジョン 再攻略・1
予定通り七日後、ダンジョン前でフレッドたちと合流して俺たちは六階へ転移した。カードで連絡を取ったら、すぐに反応があった。どうやら既に五階に到着していたようだ。
パーティーによるカードを使用しての通信は、同じ階層にいないと繋がらないらしい。理由は謎だけど、そもそも離れている場所に通信できるだけでも有難いというのが冒険者たちの感想のようだ。何でも罠にかかって、パーティーが分断されることも下に行くとあるらしいから、助けられたものも多くいるとのことだ。
『とりあえず上空に魔法を撃ってみる。確認できたら教えてくれ』
火魔法を空に向かって放った。
天井にぶつかるかなとか思ったけど、そんなことなく魔法は五十メートルほど上空で爆発した。ただ音が鳴ると魔物に注目されるかもしれないので、しっかり音は響かないように処置はしておいた。
『確認できました。そちらに向かいますね』
『無理をする必要はないからな。一日で来られないようなら、しっかり夜は休むんだぞ』
後ろを振り返ると、何故かエデルが顔を引きつらせていた。
「それじゃ俺たちはここで野営の準備だな。一応周囲の魔物を狩って安全を確保するか?」
今回の六階への入り口は岩場に出来た
探索はフレッドとガウンを先頭に探索をする。洞穴を中心に岩肌になっているけど、しばらく歩くと森に行きつく。ちょうど階段の入り口を囲むように森が広がっている感じだ。改めて森側から見ると、絵的には不思議な光景だと思う。
とはいえここはダンジョン内。常識の通用する場所じゃないからな。景観の違和感とか気にしても仕方ない。
岩場だと土の操作をするのが難しいから、森の手前に野営地を作った。野営地といっても魔法で地面を整えて、ちょっと壁を作るぐらいだ。
これまたエデルは信じられないものでも見たような顔をした。そういえば前回の探索では、魔法で野営地を作るなどはしなかったな、確か。
土魔法によるスキルの力だと話して、魔力云々の話はするのをやめた。スキルの一言で納得してくれたけど、もしかして土木作業専門のスキルとかもあるのかもしれない。今更だけど、どんなスキルがあるか調べた方が良いのかもしれない。
この世界では紙が貴重だから、本とかも普通に売ってないんだよな。図書館も見たことないし。
探索中、森の中で遭遇したのはウルフ。最初戸惑いを見せたけど、フレッドとガウンはそれぞれ剣を手にウルフを倒していく。エデルは風魔法を使って援護をしている。
俺? 俺はエデルの護衛的なポジションで、迂回して回り込んできたウルフを一刀のもとに仕留めてますよ。さすがに銃は使えないし、時々威圧を放って動きを止めているから、止まった的に剣を振り下ろしている感じだ。
「悪くない腕なのにな」
一通り探索した後に思ったことを口にした。
フレッドは驚いたけど、少し嬉しそうだった。というか、年下の俺にそんなことを言われて喜ぶのもどうかと思うんだけど。
「そうなると、完全に準備不足だよな」
すぐに駄目出しで落ち込んだが。
「実戦経験はそれなりにこなしてたんだけどな。ただ格上とあまり戦ったことがなかったことと、決められた敵としか戦ってきてなかったからかもな」
詳しく聞いてみると、ダンジョンの階層に出る魔物を選んで、そこに出る魔物用に必要なアイテムだけ用意してのトライが普通らしい。そのため慣れた魔物にはそれなりに強い土壌が出来上がり、そこそこ強い魔物を大量に狩ってればそれで評価も上がるためランクも勝手に上がっていくそうだ。
そのため自分では強くなっているつもりだったのが、今回の上位種討伐で自信をなくしたそうだ。
三人とも冒険者を志してこの街にやってきて、ここ以外のところで活動したことが殆どないと言っていた。珍しい気もするけど、そういうものは多いと言う。
「ソラはその点色々なアイテムを持ってるんだな」
「俺の場合は点々と旅をしていたからな。旅先だと決められた魔物が出る訳でもないし、常に色々なことに備える必要があるから。まあ、アイテム袋を持っているってこともあるだろうが」
「本職は商人だったか? 正直信じられないんだが」
「行商人な。別に率先して危険に足を突っ込むつもりはないが、襲ってくる魔物は待ってくれないからな。何時だって身を守るためには備えが必要になってくるものさ。フレッドたちもダンジョンから飛び出して外の世界を歩けば分かると思うぞ」
半分嘘だな。なかったらその場で作ればいいのが、俺のスタイルだ。そのためには材料をある程度用意しておく必要があるにはあるけど。
話しながらフレッドたちはウルフの解体に勤しむ。血抜きから解体まで、流れるようにこなしている。聞くと丸々持って帰るとなると荷物になるから、解体は最初に覚えたと言う。俺には真似できないな。
冒険者を始めた当初は頑張ろうと思っていたけど、今はその気持ちがないんだよな。魔物を解体する時間があれば、錬金術でポーションを作っていた方が稼げるから。そもそも討伐依頼を率先して受けてなかったとも言うけど。一気に納品すると目立ちそうなものが、まだアイテムボックス内にそのまま入ってもいるし。
その日の料理はまあ俺がやった。どう料理すると聞いたら塩を振って焼くか、保存食をそのまま齧るだけというからだ。それでいいのか? それが普通なのか?
それが普通らしい。料理道具を持ってダンジョンに潜るのは、一部の冒険者だけだと呆れていた。
最初の頃は、寝る前に結界術を自分に施し、並列思考も使って何かあっても大丈夫なようにしていたけど、特にイベントが起こることはなかった。
その日も、その次の日も結局合流は叶わなかった。
毎晩通信を交わし、朝には魔法を打ち上げて位置の確認を行った。
焦る必要がないと言ったし、こちらはただ待つだけだ。
待っている間は周辺の安全確認と、模擬戦を何度もこなした。
俺が戦い慣れてきたというのもあるけど、勝率は大きくリードした。フレッドは剣で、ガウンは槍と剣を交互に、エデルはスタッフと短剣を使っての模擬戦で、色々な武器や相手と戦えたから得るものはあった。
終わる頃にはフレッドとガウンが大の字で倒れるのが当たり前な光景になっているけど、それでいいのか? 一応ここ、魔物が徘徊しているダンジョンだからね。
そうした日々を過ごしていたけど、ダンジョンに入ってから四日後に、無事合流することが出来た。
ヒカリが目にするなり胸に飛び込んできた。そんなに寂しかったのか?
「主、お腹空いた」
お腹が空いていただけのようだ。
もうすぐ日も暮れるし、少し今日は豪華に夕食を作りますか。やっぱりむさ苦しい男たちと食べるよりも、華やかな女性と食べる食事は違うね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます