第153話 マジョリカダンジョン(ルリカ視点)

 ダンジョンに入るのはこれが初めてだった。

 マジョリカに到着して、セラと再会して、ソラと再会して、色々な話を聞いた。セラが今までしていたこと、ソラが色々な経験を積んだこと。ソラを慕い、一緒に行動している二人のこと。

 何処か出会った当初感じた、壁のようなものの意味も分かった。異世界に呼ばれて無責任に放り投げられたこと、自分の立ち位置など色々迷っていたんだと思った。

 相談してくれたらと思うけど、すぐには無理だったんだろう。

 それにヒカリちゃんから話を聞いた限り、ソラから話を持ち掛けられていたら何かに巻き込まれていたかもしれない。私たちの旅も、それほど余裕があったわけじゃないしね。

 私だったら正直どうすればいいか迷った。クリスは良く、私が引っ張っていてくれたから行動出来るなんて言うけどそれは違う。私はクリスがいたから、今まで頑張ってこれたんだと思う。

 だからかな、ソラは凄いと思う。たった一人で、何でも考えて決断して実行している。それこそ他人のために命を懸けている。ちょっと抜けていて、危なっかしいところもあるけど。

 ソラは色々な目的を持ってダンジョンに潜っていると言っていた。

 私たちがエリス姉を探すために旅を続けるなら、セラも解放してくれると言っていた。金銭的な契約が残っているみたいな話をしていたけど、たぶんそれも解決しちゃうんだろうな。

 クリスと、セラと話をして今後のことを相談した。

 私はこの機会に、少し自分自身を鍛えようと思った。セラの壮絶な経験もあるけど、確かにもっと強くならないととは感じていた。

 年々、旅が厳しくなってきたのもその理由の一つ。以前は滅多に見かけないような魔物の噂を良く聞くようになった。護衛依頼で国から国へ、町から街へ移動していると、経験を積んだ冒険者の護衛の人が必ずいるけど、そんな人でも倒せないような魔物との遭遇も何度か経験した。追い払うことが辛うじて出来た場面にも、何度か立ち会ったりした。それに残る国のルフレ竜王国は、厳しい場所だって話だし。

 あとは純粋に、あれからソラがどんな成長をしたのか、戦いの基礎を教えた者として個人的に気になったのは内緒だ。

 ソラのパーティーは、四人で既に十階まで到達したと言う。

 パーティー募集もあるから利用するのもありかと思ったら、セラたちが一緒に行くと言ってくれた。純粋に心配してくれたのが半分と、自分たちだけの力でダンジョンに挑戦したいというのが半分らしい。

 どういう意味だろう?

 詳しく聞いたらソラの非常識ぶりが分かった。アイテムボックスで備品の管理。倒した魔物の素材の回収。Aランクの魔物討伐。ボス部屋を一人で攻略。嘘か本当か迷うような話ばかりだった。道中も本当に危ない時は、介入して瞬く間に解決したとのこと。私の知ってるソラじゃないみたいだ。

 だから十階まで到達しているけど、自分たちの力で本当にダンジョンを潜れていたかをソラ抜きで試してみたいと言ってきた。

 ソラは最後まで渋ったようだけど、ミアが妥協案として六階側から入って五階で合流しようと提案して、不承不承それに従っていた。

 なんかこの子、ソラの扱い上手くない?

 予定より一日遅れて、ダンジョンに入ることになった。準備に苦労したからとも言う。

 ソラからはアイテム袋を二つと、各種ポーションを受け取った。アイテム袋にも驚いたけど、このポーションかなりのものだよね。買うと結構なお金が飛ぶと思うんだけど。それをこんなに?

 セラたちは当たり前のように受け取っていた。安全のために質の良いものを準備するのは大切だけど、これ使えるかな。ちょっと怖い。ただのポーションがお金に見えてくるのは何故だろう。

 驚いたのはダンジョンに入ってからも続く。自信がないと言っていたけど、え、セラ強すぎない? そりゃあ獣人だし、私たちとは根本的に身体能力は違うよ。けどそんな重そうなものを持ってその動き。Aランクの冒険者だってそんな動きが出来るかどうか。

 それにヒカリちゃん。こんな小さな子が本当に大丈夫かソラに何度も確認したけど、この子も強い。ううん、強すぎる。確か特殊な訓練を受けてたって話だったけど、私じゃ勝てないかもしれない。今度模擬戦のお願いをしようかな。

 ミアの戦闘スタイルは普通。回復職だって話だし、セオリー通り後方に控えて戦っている。時々危ない時はホーリーアローで援護してくれる。けど魔法の運用が上手い。自分の限界を知っているように使用回数をセーブしている感じ。体術はまだ慣れていないのか少し拙いけど、十分戦えている。


「ヒカリちゃん、本当に強かったんだ」

「うん、けど主もっと強い。それに色々と教えて貰った」


 それは魔力の流し方とその運用方法だという。魔力って最初何を言っているんだろうと思ったら、魔力視眼鏡という魔道具を渡されて説明を受けた。ネーミングセンスはどうだろうと思ったけど、何も言わない。それが優しさだと思う。

 クリスが驚いてないから不思議に思ったら、ソラから説明して貰ったことがあると言う。いつの間に?

 それでその魔力、武器に流して使うと威力が上がると言う。ヒカリちゃんが実践して見せてくれたけど、スパスパ魔物を一撃で斬っている。硬い骨すら抵抗なくだ。

 まだ余裕のある時しか使えないって言ってるけど、そうなの?


「ただ使い過ぎ注意。倒れる」


 かわりにミアが魔力切れの説明を詳しくしてくれた。

 私が使えるか分からないけど、今度ヒカリちゃんが教えてくれるらしい。セラにも使えるか聞いたら、魔力量が低いから同じようには使えないと言っていた。

 けど違う使い方をソラから聞いたらしく、今はそれを練習しているという話だ。

 ソラ、あんたは別れてからの数十日の間に、どれだけの成長をしたの?

 それを知るのはそう遠くない未来だったけど、まずは今日の夕食を作らないといけない。セラに見張りを頼んで、四人で料理をした。

 ヒカリちゃん、見てないでその野菜を切って~。

 それからその調味料。この料理には合わないから入れるの待って~。

 お肉ばかりだと栄養が偏るから……。

 料理を作る時間が一番疲れたのは内緒だよ。

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