第152話 マジョリカ・12

 装備を整えたヒカリはくるりと一回転した。

 装備を新調したから見てくれと主張しているのかな?

 年長者たちは我慢しているが、何かを期待するように待っている。

 一応褒めた方が良いですか? それならもちろん褒めますよ。波風立てないのが処世術です。俺も成長しています。

 今回は俺が最初は付いて行かないから、特にアイテムの用意は気を付けていた。

 そこはルリカとクリスが中心に準備をはじめた。

 各自がポーション類をそれぞれ持ち、専用のポーチを腰に巻いている。

 予備はアイテム袋に入れる。他にアイテム袋には魔物除けやシーツを何点かと、食料類に鍋なども入っている。もちろん水もある。クリスが魔法で出すことが出来るけど、クリスに何かあった時用に持って行くことになった。もちろん着替えも入れているようだ。

 アイテム袋は二つ出来たので、ヒカリとクリスがそれぞれ持っている。他には背負い袋をセラとミアが背負う。小さいもので動きを阻害しないものを購入してきたようだ。この中には保存食が入っている。何かあってもいいように複数に分けるのは冒険の基本だと、ルリカが力強く説明していた。それには同意だけど、何か失敗でもしたのだろうか? 俺がいる時もそうした方が良いかな。

 そのため予定より一日遅れてダンジョンに行くことになった。

 カードは作成済みのようで、今からパーティー登録をして入場する。これを忘れるとあとで合流する時にカードでの通話が出来なくなるからな。前回の探索でダンジョン内での再結成は出来ないことが分かったし。

 冒険者ギルドに入ったら視線を集めた。女性比率が多いからな、と思ったら見られているのは俺のようだ。

 心当たりが多すぎて、何が原因かが分からないな。相手をするだけ無駄だと思ってダンジョンの前に行くとフレッドがいた。もう二人いるけど、見覚えのある顔だな。確か五階の討伐の生き残りだ。


「なんだソラじゃないか。ダンジョンって言うか、何か人数が増えてないか?」


 俺たちを見るなりピクリと反応した。何だ?


「ああ、セラの幼なじみと偶然出会ってな。それで一緒にダンジョンに潜ろうってことになって、また一階から挑戦することになった」

「それにしてはソラは何も持ってない様だが?」

「ああ、俺は五階で合流だ。六階側から入る予定」

「なるほどな。それでセラの姐さんたちは荷物を持っている訳か」


 姐さん呼びにルリカとクリスが変な反応しているな。主にルリカが新しい玩具を発見したように悪い笑みを浮かべている。

 うん、見なかったことにしよう。


「フレッドたちもダンジョンに行くのか?」

「俺たちは行かない。違うな、未練なのかもな。本当は行きたいが仲間ももういないし、どうしようか悩んでいても勝手に足がな。ああ、こいつらはガウンとエデルって言うんだが、元々パーティーを組んでいた訳じゃないんだ」

「僕も勝手に足が向いて偶然ここで再会したんだ。それとソラ君だったか? 悪かったね。変な噂を流した奴がいたようで。冒険者が依頼で自らの命を落とすのは自己責任だ。しかも討伐依頼を受けていない君が悪いとか、恥知らずもいいところだよ」


 確か魔法使いのエデルだったか。隣にいる長身の男も頷いている。持っているのは槍か? あの時は剣を使っていたような気がしたが。


「ああ、ガウンはあまり話さないんだ。あの時剣で戦っていたのは槍を最初の遭遇で破壊されていて、それで慣れない剣で戦ってたんだ」

「違う。剣も使える。槍の方が得意なだけ」


 確かに話すのは苦手そうだ。けど良くお互いのことを理解しているということは、ガウンとエデルは元々パーティーを組んでいたのかもな。


「なあ、フレッド」


 エデルがフレッドを手招きして、さらに三人で円陣を組んで何やら話している。主に話しているのは二人みたいだけど。何かフレッドは驚いたような顔をしている。


「なあ、ソラよ。もし良かったらでいいんだが、ダンジョン探索に俺たちも同行させてくれないか? ああ、別に邪魔をするとかそういうのじゃないんだ。ただ、シャドーウルフを狩るようなパーティーは、どうやって探索してるのか気になってな」


 余程変な顔をしていたのか、慌てたように付け加える。

 確かに急だし、何か別の考えがあって同行を申し出たと勘繰るのは仕方ないと思う。ああは言ったが、仲間の多くが死んでいるんだ。恨みの一つもありそうだ。


「六階からの入場で俺と同行するなら別に構わないぞ。五階で彼女たちと合流後、目指すのは十階のボス部屋になるがいいか? 準備するから待ってと言われても日を改めるのも難しいからな」


 妥協案として提案する。道具類は持ってないし、一階から同行は無理だろう。


「ああ、それで構わない」

「なら少し彼女たちにも確認する。無理だと言ったら駄目だからな」


 勝手に話を進めてしまったけど、女性陣が嫌がるなら断ろう。

 相談したら別に構わないとのことだった。面倒だと思うのだけど、何故許可を出したのだろうか?

 パーティーにフレッドたちも登録して、改めてダンジョンに入って行った。

 五階の登録が済んでから一度帰還するらしいけど、一日一階のペースで下りていく計画らしい。大丈夫か?


「それじゃ七日後の朝ここに集合だ。必要アイテムは各自用意で問題ないな?」

「ああ、それで頼む。無茶な願いを聞いてくれて悪いな。それと……ソラはもう少し警戒を持っていた方がいいと思うぞ?」

「何をだ?」

「噂の話をしただろ。それと十階の揉め事とか。ヒカリの嬢ちゃんなんて、最初俺がソラに話し掛けた時なんて、殺気を飛ばしてきたぞ。たぶん、セラの姐さんも何があってもいいように警戒してたと思う」


 もしかして最初に変な反応をしたのはそれが原因か?


「僕もそう思う。もっとも少し調べれば、君たちに手を出そうとは思う奴はいないと思うけど……。追い詰められたりすると何をするか分からないからね」


 十階のボス部屋をかなりの速度で突破したことを言っているのかな?

 確かに先に入って行ったパーティーに比べても、ボス部屋を突破するのに要した時間はかなり短かったはず。


「まぁ、そう言うことだ。それじゃまた今度な」


 フレッドたちは何度も頭を下げて礼を言うと、ギルド内の資料室へと入って行った。もう一度一からしっかりとダンジョンと向き合うためらしい。

 俺? 俺は商業ギルドである物が買えないか聞きに行って買うことに成功した。無駄にアイテムボックスを圧迫するけど、上手くいけば今後の探索に役立つかもしれない。

 他にはポーション類を売ったりして、アイテムボックス内の整理をして準備を整えていた。

 その間助言に従い気配察知を使ったりもして注意したけど、特に尾行をされてる様子もなかったな。

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