第151話 マジョリカ・11

 今日は街の案内をかねて服などの買い出しに行くと言うので、セラにお金を渡した。懐が寂しいと言っていたしな。普段着が華やかになるのは俺にもメリットがあるから問題ないのだよ。目の保養になるし。それにお財布として付いていくと、またあの地獄を味わうことになるから、それを想像して逃げたとも言う。

 ヒカリもミアも連行されたので、今日は一人で自室に籠っている。

 薬草の在庫も溜まってきているから、せっせとポーション類を作らないといけない。結局全てを終わらせるのに昼まで掛かった。これからはこまめにやるか、在庫がたくさんでも一日に作る量を決めることにしようと思った。根を詰めすぎるのは良くない。

 ぐったりして休んでいると、皆が帰ってきたので一緒にお昼を食べた。疲れ気味で席に座ると、アルトに心配された。気遣いの出来る子だ。ただ必要以上に喋らないんだよなアルトは。エルザは結構お喋りで、時々タリヤに怒られている。

 食事を終えてリビングでのんびりしていると、皆が集まって来た。エルザが人数分の飲み物を用意して持ってきてくれた。


「ソラ、お願いがある」


 ルリカが一口飲んで口を開いた。


「私たちをソラのパーティーに入れてくれない?」

「別にそれは構わないよ。昨日クリスからもダンジョンに潜りたいって聞いてたし」


 答えるとホッと胸を撫でおろしたような気がする。


「それでなんだけど、早速ダンジョンに行きたいんだけど……」

「ルリカたちなら心配ないと思うけど、準備だけはしっかりな」

「もちろんよ。それで、その、セラたちと一緒に行きたいと思ってる。いいかな?」


 セラたちを見ると既に話しを済ませてあるのか、三人とも頷いている。


「長旅で疲れてるようだけど、いつ行くんだ?」

「明日は準備する日にあてるから、明後日に行く予定です。それでもう一つお願いがあるの。出来れば五人で行きたいんだけどいいかな?」


 クリスが申し訳なさそうに言ってきた。

 え、俺戦力外通告を受けてます?


「主様がいると、その、楽が出来ちゃうから。だからもう一度十階まで、今度は主様の手助け無しで行きたいんだよ」


 ヒカリとミアも何度も頷いている。

 正直心配だけど、確かに過保護なのも信頼してないみたいであれか。けどな、危険は減らしたいし。


「ソラには五階で合流して欲しいかな。ほら、六階から入場してくれたらどこに階段があるか分かるし。あ、ただソラからこっちに合流しに来るのは禁止ね」


 悩んでいるとミアが妥協案として言ってきた。確かに五階は面倒そうだしな。


「主、料理をマスターする。楽しみに待ってて」


 ヒ、ヒカリの手料理? あの食べる専門のヒカリさんの?

 それでも尚悩んでいた俺にヒカリがまさかの進言。ここは我慢しよう。うん、過保護なのは成長を妨げる原因になるかもだしな。


「ポーション類は必要数を言ってくれたら渡すよ。ただし今日のうちに教えてくれ。在庫を整理していらない分は売っていきたいから」

「うん、ソラありがとう」


 一気に売ると価格が崩れる心配があるとはいえ、あまりに持ちすぎて売る機会を逃すのも問題だからな。どうせ売るなら高く売りたいのが人の性なのだよ。

 けど俺抜きでダンジョンか。魔石を合成すればアイテム袋の一つか二つかは作ることが可能かもしれない。あまり性能は高くないけど、より良いものが作れるまでの繋ぎとして作るか。いらなくなったら売ればいいしな。何より熟練度を上げてスキルのレベルを上げたい。


「それなら俺は用意のために部屋に戻るよ」


 俺が立ち上がるとミアも続いて立ち上がった。ミアも部屋に戻って休むのかな? と思っていたら、部屋まで付いてきた。


「あ、あの、ミアさん何か用ですか?」


 無言のプレッシャー。ニコニコしているけど、なんか逆らえない雰囲気がミアから発せられている。


「ソラは誰かが見ていないと無理をする時がありますから」


 拒否は出来そうにない。部屋に二人っきりというのも正直緊張するけど、だからと言って人目の付く客間で作業する訳にもいかないし。

 タリヤやエルザたちには俺の事情を話してないから。

 ただな……部屋の様子を見ているミアを盗み見る。

 好きにしていいなんていう、美少女と部屋で二人っきり。性格も会った頃に比べてだいぶ丸くなったような気もするし。あと主人と奴隷の関係とか、聖王国で魔力を教えていた時とは状況が違い過ぎる。

 無心だ。無心で作業に没頭するんだ。頭の中を空っぽにして、ただアイテム作成に努める。

 最初はミアも魔力の練習をしていたようだけど、休憩を挟んだ後はじっとこちらの作業を見てきた。視線が注がれると、自意識過剰ではないが気になってしまう。一度そうと意識すると気になり注意散漫に。うん、今日はここまでだな。


「あ、あの、邪魔してしまいました?」


 不安そうに聞かれた。


「違う。目的の物も出来たし、疲れたから今日の作業はここまで。喉も乾いたし一度戻ろうか」


 言ってミアは何かに気付いたのか頬を染めた。何があった? 変なことを言った記憶がないんだが。

 客間に戻るとヒカリがエルザとアルトと何か話していた。


「エルザ、飲み物を頼めるか?」

「はい、お兄ちゃん。アルトも手伝って」


 アルトの手を引いてエルザが食堂へと歩いて行った。以前ならバタバタと急いで走っていったのに、タリヤによる教育の成果か、だいぶ落ち着いて行動出来るようになってきた。


「何を話してたんだ?」

「主の料理について色々話してた」

「そうなのか?」

「うん、だからもっと色々と教えてやって欲しい」

「ヒカリも時間があれば一緒に覚えような」


 何故目を逸らす。さっき料理をマスターするって言ったよね?


 

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