第150話 告白・2

 投げナイフを作成していたらドアがノックされた。

 顔を出すとそこにはクリスの姿がある。服装は旅装だけど、一応は寝るとき用の軽装の服らしい。旅をしているから、寝間着などの専用のものは持っていないのだろう。


「あ、あの、少しいい?」


 何事かと思ったが真剣な表情。少し思い詰めたような感じを受けて、断ることがはばかられた。

 俺は机の上のものをアイテムボックス内にしまい、椅子を勧めた。座るのを確認してベッドに腰を下ろす。

 クリスは最初俯いていたけど、顔を上げた。何かを決心したようで、口を開いた。


「ソラの話を聞いて、私も色々と考えました。ルリカちゃんとセラちゃんにも相談したら、好きなようにすればいいって言われたの。本当は、背中を押して貰いたっかんだけど。私、勇気がないから」


 駄目ですね。と、寂しそうに笑った。


「だけどソラは秘密を打ち明けてくれました。だから私も、私の秘密を話そうと……違います。聞いて貰ってもいいですか?」


 次の言葉を待つ。少し間が空いたのは、それだけクリスの中で悩んでいたからだろう。


「私は実は、人種ひとしゅじゃないんです。私の種族は、その、エルフになります」


 何かを呟いたと思ったら、耳の形状が変わった。丸みを帯びた耳から少し尖った状態の耳へと。と同時に、雰囲気が少し変化したような気がする。

 何か? 魔力察知を使った時にそれが分かった。魔力量が普段の倍以上になっている。髪の毛と瞳の色も金色から鮮やかな銀色に変わった。


「……あんまり驚いていません?」

「あ~、悪い。その、知ってたんだ」

「い、いつからですか!」


 グイッと迫られた。落ち着こうな、顔が近いから。クリスも自分の姿勢に気付いたのか、顔を真っ赤にして再び椅子に座りなおした。


「知ったのは今日だよ。俺も色々スキルが使えてさ。その中に鑑定スキルっていうのがあるんだ」

「鑑定ですか?」

「ああ、そうだな。例えばこれなんだが分かるか?」

「ミスリル鉱石ですか?」


 その通り。出したのはミスリル鉱石だ。


「ならこの鉱石の特徴は知っているか?」

「分かりません。軽くて丈夫とは図鑑にも載っているので知っていますが。あ、あとルリカちゃんがミスリルの武器を欲しいって言ってました」

「そうか。これをスキルで鑑定するとな。他にも特性があることが分かるんだ。ミスリル鉱石、というかミスリルの特性は魔力を流しやすいって点がある」

「魔力ですか?」

「ああ、その通りだ。口で説明するよりも見て貰った方がいいんだが、実演は武器が完成してからかな。ひとまず魔力に関してだが、まずはこれを掛けてもらってもいいか?」


 魔力視眼鏡を渡す。うん、クリスにも眼鏡が映える。


「それでこれが魔力操作の練習用で作ったアイテムなんだが、やるぞ」


 魔力を流すと、クリスはじっとそれを見ていた。魔力を流し続けている間、瞬き一つしないで真剣に。


「い、今のは?」

「今の光のようなものが魔力だ。そうだな、ちょっと手を出して」

「あ、あの」


 手を握ると慌てだした。顔を真っ赤にしたり手をバタつかせたりと忙しそうだ。


「魔力を流すな。もしかしたら分からないかもだけど、集中して感じてみてくれ」


 ゆっくりと魔力を流す。俺の右手から握ったクリスの右手に移り、ゆっくりと体を巡る。ん、とクリスは何か小さな声を漏らして、慌てて口をギュッと結んだ。顔がさらに赤く染まったような気がする。ちょっと心配になるほど顔が真っ赤なんだが……。

 一分ほど魔力を流して手を離した。呼吸が少し乱れているが大丈夫か?


「今のが魔力ですか?」

「ああ。って話が少し逸れたな」


 鑑定の話から何故こうも脱線した。相変わらず説明が下手だな。

 他にも薬草類を取り出して、鑑定とはどんな能力かを今度は手短に説明した。


「こんな感じで鑑定して、色々と知ることが出来たんだ。それと似たようなものでクリスも鑑定して、その、種族がエルフになってるのを今日見たんだ。前いた時は、まだ使えなくて」

「もしかして薬草の採取とかが得意だったのは……」

「まぁ、鑑定のお陰だな」

「……そ、その、鑑定で何が分かるんですか?」

「名前に職業、種族にレベルと状態だな。例えばクリスだと、クリス・エルフィール。精霊魔法士。エルフ。レベル22。ってとこかな。あ、スリーサイズとかの身体的特徴とかは見えないから安心してくれ」


 なんか睨まれた。腕を抱くようにして胸を隠したのは、俺の言葉が原因か? 原因ですね。失言でした。けど一応そっちは分からないと伝えたかっただけですよ。

 うん、これ以上考えるのも言及するのも危険だ。


「だからエルフだってのは知ってたんだ。今日だけどな」

「そ、そうなんだ……」

「あれ? ってことは、エリスはクリスのお姉さんになるのか?」

「うん、エリスお姉ちゃんはお姉ちゃんです」

「けどクリスは人に姿を変えてたんだよな。エリスさんも姿を変えたりしてないのか?」

「姿を変える魔法は使えなかったと思う。少なくとも離れ離れになる前は、だけど。それにこの魔法、維持し続けるのは結構大変なの」

「そっか……見つかるといいな。ってか、すぐに探しに行かなくてもいいのか? ダンジョンに潜るような話の流れになってたけど」

「それは大丈夫です。前々からルリカちゃんとも話してたんです。もっと強くならないと駄目だって」

「なんか危ないことでもあったのか?」

「旅はいつだって危険ですよ? それに、色々あるんですよ?」


 女二人旅だしな。しかも二人とも可愛いし。変な奴も多いしな。たくさん会ったよ。今日もな。もちろんいい人も多かったけど。顔は強面だったけど。


「とりあえずもう遅いし今日はここまでにしよう。あまり夜中に男の部屋に来るのも問題があると思うぞ?」

「ソ、ソラのことは信用してますから」


 困る返答だよねそれ。だから貴方とは何も起こりませんよと、遠回りに言われたような気がします。あ、もちろん襲うなんて下衆なことはしません、ハイ。


「そ、それじゃお休みなさい」

「ああ、お休み。長旅で疲れてるのに遅くまで話し込んで悪かった。ゆっくり休んでくれよ」


 部屋の前まで送った。といってもすぐ近くですけどね。

 ドアが閉まるのを最後まで見届け自室に戻る。

 一つだけ、クリスに嘘を言った。

 エルフと言ったけど、本当はハイエルフと表示されていた。

 今まで調べた中で、話を聞いた中で、ハイエルフという言葉は出てこなかった。俺たちの世界では、空想の物語では度々出て来た種族、名称だったけど、普通にいるなら記述が残ってそうなのにそれがなかった。

 クリスが気付いていないだけなのか、同じエルフ種として認識しているからエルフと言っただけなのか、それを聞くことが何故か出来なかった。



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