第148話 再会・4
会議室を出て戻って来るとドラク? だったか。ボス部屋の前で小金を稼いでいた男たちにばったり会った。
男たちは俺に気付くと驚き、顔を引きつらせて、何を感じたのか体をガタガタと震わせている。
「ソ、ソラさんだったか? 約束通り戻って、戻ってきました」
後ろには暴言を吐いた冒険者たちもいる。視線を向けると一歩俺から距離をとったように見えた。威圧してないんだがな。
「遅かったな」
結構話し込んで時間が経っているんだがな。
そう声を掛けたらさらに表情を引きつらせたような気がする。
まあ、いいか。
「今ギルドマスターが二階の、確か第三会議室にいる。行って説明してこい。場所が分からなければ受付嬢にでも聞け。ああ、それと嘘の報告を言うのは自由だ。ただ、後でそれが分かった場合の代償は支払って貰うからな?」
これは間違いなく脅しだな。けど面倒ごとをこれ以上抱え込むのも面倒だから、正確に報告して貰いたいものだ。
真っ直ぐ家に戻ろうと思ったけど、もうお昼の時間は過ぎている。時間がかかるかもしれないからと、ご飯は待ってなくていいよと伝えてあるから家に帰ってもお昼はない可能性がある。もちろん食べていないと言えば用意してくれると思うけど、手間をかけさせるのは申し訳ない。
ミアと露店を回って食事をとり、お土産にスイーツを購入した。確かクリスたちも、というかこの世界の女性も甘味は好きなんだよな。
ミアに相談したら目立たないところに建つ、雰囲気のあるお店に案内されて、そこで買うことになった。楽しそうに品物を選ぶ姿は、年相応な少女に見えた。
驚いたのはこんな穴場を既に知っていることにだけど。
「ですが、良いのですか?」
たくさん買ったからかな? 今日ぐらいはいいだろう。食べ過ぎてふ、と、それ以上言うのは危険だ。自分でも分かっているけど、それを他人に指摘されると気にするみたいだしな。
せっかくの美味しいものも、気にすれば美味しく食べられなくなることだってある。決して保身のために口を結んだわけじゃない、ですよ?
買い物を終えたから家に戻る。ドアを開けようとしたら、勝手にドアが開いた。タリヤが頭を下げて迎え入れてくれる。何故分かるのだろうか? スキルを隠し持っているとか?
「旦那様、セラ様を訪ねてお客様がいらっしゃっています」
「そっか。ありがとう」
予定通り。再会出来たようだ。部屋に近付くと楽しそうな声が聞こえてくる。
「主、おかえり」
「主様、おかえり」
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
それぞれが迎えてくれた。
ルリカとクリスも立ち上がり、礼を言われた。何処か緊張し、余所余所しい態度だ。どうしたんだろう?
「無事、会えたようだ。色々話せたか?」
「うん、色々話せたよ。二人には苦労させたな、って」
照れてるのかな? けど嬉しそうだ。
「それで、その。今後のことで相談したいことがあ、あります。セラちゃん、セラは貴方の奴隷なのですよね? どうすれば解放して貰えますか?」
真剣な表情で聞かれた。いや、必死と言った方が適切かもしれない。
別に何かを要求するつもりはないのだけど。
「セラが望むなら普通に開放するよ。そもそも別に奴隷が欲しくて購入したわけでもないし」
なんか変な顔をされた。おかしなことを言ったのだろうか?
「だけど金貨五〇〇枚で買ったって聞いたよ。奴隷を解放するにはそれと同等のお金が必要になるはず、だ、です」
「それって奴隷主が不必要だと言っても駄目なのか?」
「えっと、契約の時にそういう契約をしていれば出来ると思います……けど」
どんな契約したんだっけか? なんかミアの時はかなりミアに不都合そうな契約だったけど、セラの時は気にしてなかったんだよな。すぐに解放するつもりだったし。
嘘です。詳しい内容を覚えてません。買うことばかりに気を取られて、その後のことをそんなに考えていなかった……。
「主様、ボクとの契約は、主様の裁量で解放できることになってるよ。ただ戦闘奴隷だから、それでも購入金額の半分は稼がないといけない決まりだけど」
「探索で稼いだ時は頭割りの計算になるのか?」
「そうだよ」
なら金貨二五〇枚か。金貨五〇枚分ぐらいは稼いでいると思うから、残り二〇〇枚か。けど薬草とか売ってない奴もあるし、その場合どうなるんだ?
聞くと換金した分だけしか駄目のようだ。奴隷主有利の契約だからそうなるらしいけど、それだとわざと稼ぎを減らして長く拘束する者も出そうだがどうなんだろう。
「なら、もう少しダンジョン探索に付き合って貰うかな? 下に行けば行くほど稼げると思うし、あ、ただ、もしかしたら別の街に移動しないとかもだけど」
「また何かやらかしたのかい?」
ミア、そこで苦笑しない。
「すまないな。もう少しセラを借りることになるようだ。その間、良かったらここの家に滞在していてくれて構わないよ」
「……ありがとうございます。けど、何故そんなに親切にしてくれるのですか?」
クリスに不思議そうに言われた。
何故と言われてもな。
「それは俺が二人には世話になったからだよ」
ますます首を傾げられた。
なんか話が噛み合ってないな。おかしい。って、これが原因か。
「えっ、ソラ?」
仮面を取ったら驚かれた。やっぱこれが原因か。今やバージョンアップして、認識阻害も付与された、高性能品となっているからな。
錬金術で作った自信作の一つだ。
「二人とも久しぶり。またこうして会えて嬉しいよ」
クリスが不意に、胸に飛び込んできた。
そんなに再会を喜んでくれるとは。ちょっと照れるな。
と、思っていたら泣き始めた。嬉し泣き? じゃなさそうだ。声を上げて、子供のように泣いている。
誰かタスケテ。
セラを見たら首を傾げられた。
ヒカリは……平常運転ですね。
ミアは困った顔だ。何か言いたいけど、言えない、そんな感じ。
「えっと、これは?」
ルリカに尋ねると彼女も泣いていた。
けどすぐに気付いたのか涙を拭い、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「ううん。えっとね、実はここに来る途中、サイフォンさんに会ったの。そこでソラのことを聞いたんだ。依頼の途中で死んだんだって」
なるほど。それが理由か。
「だから生きていて嬉しかったんだと思うよ。も、もちろん私も嬉しい、と思った」
「なんか色々心配かけたみたいだな。そのことはまた今度時間がある時に話すよ」
「分かった。そうしてくれると助かるかな」
「ああ、それとセラ。悪いけどクリスを休ませてあげてくれるか? どうも寝ちゃったようなんだ」
泣きつかれたのか、いつの間にか寝息を立てている。
クリスはセラにお姫様抱っこをされて連れて行かれた。ルリカも後に付いていった。
残された俺たちは、夕食の準備をすることにした。せっかくの再会だ。大いに腕を振るい満足してもらわないと。
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