第147話 再会・3(クリス視点)
マジョリカには昼前に到着しました。
少し路銀が心許なくなっていますが、乗合馬車に乗って急いできました。
隣を見るとルリカちゃんも緊張しているみたいです。
私も少し緊張しています。本当にセラちゃんに会えるのかな?
嬉しいはずなのに、何処か複雑です。
たぶん、それは数日前にサイフォンさんからソラのことを聞いたからだと思います。
まだ、感情の整理が正直出来ていません。
ルリカちゃんも元気に振る舞ってくれていますけど、心の中では悲しんでいる気がします。
「行くよ、クリス」
今日もルリカちゃんは私を引っ張ってくれています。勇気のない私は、いつも助けられてばかりです。
駄目だと思うのに直せません。いつだって、私は誰かの後ろを追いかけています。昔も、今も。たぶん、これからも。
変わりたいと思っているけど、なかなか上手くいきません。
ギルドに入ると少しざわついています。何かあったのでしょうか?
皆の視線が注がれます。フードを深く被りなおしてルリカちゃんの後に続きます。
受付でギルドカードを確認してもらうと、一軒の家の場所を教えられました。
セラちゃんは今そこに住んでいるようです。どういうことでしょうか?
受け取った地図のとおりに行くと、そこは大きなお家です。借家のようです。いくらぐらいするのでしょう。宿屋住まいで借家なんて借りたことがないので正直価格がわかりません。
「騙されてない、よね?」
ルリカちゃんも少し気後れしているようです。あのドアをノックするには勇気が必要です。頑張ってください。
祈っていたら背中を押されました。目の前にはドアがあります。振り返るとルリカちゃんが微笑んでいます。目は笑っていません。どうやら私がやらないと駄目なようです。
コンコン、とノッカー? を叩きます。合ってるよね? ルリカちゃんを見ると視線を逸らされました。
しばらく待っていると、スーっとドアが音もなく開きました。
ドアの隙間からは小さな、小さなメイドさんが顔を覗かせています。
「いらっしゃいましぇ。何かごようでしょうか?」
可愛いです。キュンとしました。健気で一生懸命さが伝わってきます。
「あ、あの。私クリスと言います。こちらにセラちゃんが住んでいると聞きました。いるでしょうか?」
声を掛けると首を傾けて、ドアが閉まってしまいました。
トコトコと足音が遠ざかっていきます。
困りました。訪ねる家を間違ってしまったのでしょうか。
悩んでいると人の近付く気配をドア越しに感じました。
ゆっくりドアが開くと別のメイドさんが立っていました。
「旦那様よりお話は伺っております。クリス様にルリカ様でしょうか?」
「は、はい」
「セラ様はただいまお買い物に出掛けております。お昼にはお戻りになると思います。どうぞ中でお待ちください」
綺麗な所作です。見惚れてしまいます。そ、それに大人です。視線がつい胸のところに……って違います。
私はメイドさんに促されるまま家に入ります。掃除が行き届いています。
「どうぞ、こちらでお待ちください」
大きなテーブルを囲むように椅子が並んでいます。ここでご飯を食べているのでしょうか?
席に座ると飲み物が出てきました。最初に会った小さな子が運んできてくれました。
少しフラフラしていて、見ててドキドキ、ハラハラしたのは内緒です。
一口飲むと口の中に甘い香りが広がります。美味しい。
「ねえ、クリス」
言いたいことは分かります。先ほどから小さなメイドさんが物陰からじっとこちらを見てきます。一応隠れているつもりかもですが、バッチリ見えています。
笑って手を振ると慌てて隠れてしまいます。が、すぐに元の位置に戻ってジッと見てきます。
どれぐらい時間が経ったのでしょうか? 不意に小さなメイドさんが顔を上げてトコトコと部屋から出ていきました。
しばらくするとがやがやと騒がしい声が聞こえてきます。
小さなメイドさんが抱えるように荷物を持って入って来て、続いて少し大きなメイドさんが入ってきました。
さらにメイドさんよりも少し大きな少女が続き、その後ろに……
「セラ、ちゃん?」
面影が残っています。けど本当にそうでしょうか? 自信がありません。
私が呟くと、その子は驚きの表情を浮かべて、私を見て首を傾げて、隣のルリカちゃんを見て、バッと飛び付いてきました。
く、苦しいです。胸が鼻と口を塞ぎます。凶器ですかそれは!
バタバタとしていると解放されました。はあはあ、空気が美味しいです。
「ルリカに、クリス……?」
目の前の猫耳少女が声を発しました。その声音。記憶よりも少し低くなっていますが間違いありません。
「そうだよ。セラちゃん……無事で良かった」
涙が出てきます。止めようと頑張ったけど駄目でした。声も漏れてしまいます。
やっと会えました。やっと会えました。
今度は優しく包むように抱いてきました。
温かい。本当に、セラちゃんがいました。
長いこと、長いこと探していた友人が本当にいました。無理だと何度も諦めた時があったのに、またこうして会えるなんて。
隣を見るとルリカちゃんも泣いていました。
前を見たらセラちゃんも泣いていました。
こうして私たちはあの日、別々になった友達と、九年ぶりの再会を果たしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます