第146話 マジョリカ・10
その言葉は、俺たちの言い分を真っ向から否定しているように感じた。
「事実はすぐにわかるだろう。それよりも一つ聞きたい。今ギルド内に流れている噂についてだ」
「噂? あまりギルドに来ないから知らないな」
「そうか。その噂は、五階に現れたという上位種の討伐に関してだ。ルーキーが、冒険者を見殺しにしたという、な」
「なるほど。具体的な内容を教えてもらいたい、が。ギルマスはこのことを知っているのか?」
「小耳に挟んだ程度ですが……」
「なら何故否定しない? それとも事実と思っているのか?」
返事はなし、か。それとも何かを試すために、あえて放置しているのか。
レーゼを見ると、優し気に微笑んでいる。だがよく見ると、眉間に少し皺が寄っている。判断に困る。
「なら俺からも団長さんに聞きたいんだが。上位種の討伐依頼を受けたら、まずあんたなら何をする?」
「準備をするな。何の魔物なのか。何のアイテムが必要なのか。やることは色々とある」
「たぶんそれが普通なんだろうな。なら、何故誰もそれをやっていなかったんだ? 今回の討伐依頼では」
「どういうことだ?」
「今回の依頼は確かに最初ダークウルフと聞いていたのが、実はシャドーウルフだったから被害が出たんだろう。だけどダークウルフもシャドーウルフも、魔物のランクこそ違うが、弱点はほぼ同じだよな?」
「確かに聖属性の弱点を持っているな。ただしダークウルフは属性を攻めなくても、ある程度の実力があれば討伐出来るという違いがあるが」
「みたいだな。まずそこで一つ、問題がある。野営の準備をするだけの荷物を持ち込んだんだ。何故誰も聖属性の弱点をつくアイテムを持って行ってない。確か五〇人が参加したんだよな? それなのに誰も持って行かなかった、と」
呆れる話だ。
もしかしたら誰かしら持っていて、使う前に殺されたということもあるかもしれないが。
「第二の問題は冒険者のレベルだ。参加したのはBランクとCランクという話だ。確かにシャドーウルフは冒険者ギルドの設定によるとAランクだ。
持っていた装備はそこそこのものだった。それなのにまともに戦うことが出来てなかった。それどころか無理と判断したら仲間を見捨てて逃げる始末だ。
もちろん自分の命が大切なことにはかわりないだろうが。
「それで俺がシャドーウルフを倒す装備を持っていたから、それを早く使わないから仲間が死んだ? 討伐依頼を受けたなら、責任もって自分たちで狩れって話だ。逃げてきて、自分たちで食事の用意もしないで寄生虫のように着いてきて。最終的には俺が悪いだ? そいつをここに連れてこい。そもそも俺はダンジョンに潜っているが商人だぞ? お前ら冒険者は商人にも劣るやつに高ランクを付けるほど甘い機関なのか?」
そもそも俺たちと合流する前に既に全壊に近い状態じゃないか。
ジェイクはそれを聞いて腕を組んで黙り込んでしまった。自分の中で考えでもまとめているのか?
ヤバいな。何か感情が爆発しそうになってきている自分がいる。何か、体の奥底からどす黒い何かが湧いてくるような感じだ。
するとノックをする音がして、アッシュが戻って来た。
急激に膨れ上がっていた何かが、それを合図に霧散した。
アッシュはジェイクに近付くと耳打ちをした。
「ここに連れて来てくれ」
アッシュは素早く部屋を出ると、件のメンバーを連れて戻って来た。ジェイクを一目見て、息を呑む者が数名いたな。
「呼んだ理由は聞いているか?」
「いいえ、聞いていません」
「なら尋ねる。そこにいる彼が、君たちが不正な手段で順番をとって、ボス部屋に入ったと言った。事実か?」
「そのようなことはしていません」
一人が姿勢を正して即時に叫んだ。が、残りは視線を外したり、顔を逸らしたりした。
ジェイクはそれをただ黙って見ている。じっと、見ていた。表情は険しいままだ。
「分かった。君たちのことを信じよう。それで君は我がクランメンバーの名誉を傷付けたことになる。どう責任をとる?」
「別に。あんたが信じたければ信じればいい。ただ、もし俺が言っていたことが真実で、そいつらが嘘を言っていたら、お前はどんな責任をとってくれるんだ?」
答えようがないな。立場からの言葉なのか、ただ単にクランメンバーだから愚直に信じるのか、俺には判断出来ないからな。
そもそもクランメンバーのことを本当に信じているのかも、あの態度からは判断が出来ない。
ただ、これを機にギルドが調査すれば何か埃も出てくるだろう。
「ギルマス。とりあえず先ほど言った調査だけ頼むよ。どのパーティーがいつその階層に行き、いつ帰ってきたか、をね。そうすれば今まで見えて来なかったものも見えてくるだろう。ついでに俺はそいつらが吐いた暴言も許すつもりはない」
言いたいことは言ったからもう用がないな。その言葉に何人かが動揺していたようだが俺には関係ないことだ。
正直俺たちの探索を邪魔さえしなければどうでもいい。
気の緩みで誰が死のうが、質が下がって誰が死のうが、実際に組んで迷惑をかけられなければ、どうだっていいってのが本音だ。
だが今回はそれぞれに関わったから文句を言っているだけ。正直、別にダンジョンはここだけじゃないしな。ここに固執する必要もないだろう。
というか、何故こうも行く先々でトラブルに巻き込まれる。そんなのは勇者に選ばれたあいつらが全て請け負ってくれよ。
いっそ人が多いからトラブルに巻き込まれるなら、何処か静かなところに家を建てて、スローライフでも送ればいいのか? お金稼いだら本当に実行したいところだ。
室内の空気が悪くなってきたので退出することにした。まだ何か言いたそうな者もいたが無視だ無視。
「ソラ、あんな喧嘩腰の話し合いで良かったの?」
「いいよ。それに怒ってたのは本当だしな」
「あまり無茶はしないでください。例えそれが私たちのことでも」
でもな。あんな暴言を吐かれたら怒りますよ? ミアたちは俺のものだなんて言わないけど、奴隷だからといって、ぞんざいな扱いをするのは許せない。それはまあ、同意なら反対することはないけど。それにあの厭らしい視線も許せない要因の一つだったかな。
「何だ?」
少し考え事をしていたら、ミアがじっと見てきていた。
視線に気付くと「何でもありません」と、言って、何故か嬉しそうに腕を組まれた。
意味が分からないんだが?
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