第145話 マジョリカ・9

 ギルドに戻ってきた。

 少しざわつきが起こったが気にしない。

 討伐報告をしてゴブリンキングの首と魔石を見せる。首はそのまま渡し、魔石の納品はしない。だから一銭にもお金にならない。

 なので六階から九階で討伐した魔物の納品を続けて行う。ゴブリン以外に狩った魔物の魔石を各十個ずつ残して全て納品し、魔物の素材も渡す。その時ブラッドスネイクの肉を一匹分だけ解体して返してくれるように頼んだ。一匹でもかなりの量があるからな。


「俺は少しギルドでやることが残っているから、皆は先に戻ってくれるか?」


 何かやらかすと心配してるのか、誰も戻ろうとはしない。

 仕方ない。


「ヒカリとセラはお使いを頼む。この時間ならまだタリヤたちは買い出しに行ってないと思う。だから今日は多めに料理の材料を一緒に行って買ってきてくれ。はじめてのボス部屋突破だ。ちょっと豪華な食事にしよう。これも伝えておいてくれ」


 実は別の目的もあるけど、それはあえて言わない。


「頼めるか?」

「……うん。分かった」


 ヒカリが頷けばセラも断れない。ミアは、証言は一人よりも二人の方が良いから残って貰う。たぶん今のミアを説得するのは難しいだろうから。


「それじゃ頼むぞ」


 二人を見送り、再び受付に行く。


「……何か御用でしょうか?」

「ギルドマスターに会いたい。無理ならある程度立場のある人間でも構わない」

「あの……御用でしたら私が伺いますが」

「ならダンジョンについて聞きたい。正確には、ダンジョンの使い方かな? 今日ボス部屋に挑戦してきたんだが、そこで順番待ちを見た。しかも挑戦する本人じゃなくて、別の者が代わりに順番をとっていて、それを金で売っていた。それはここではありなのか?」


 言っていて早口になったが、思い出しただけで怒りが蘇ったのだから仕方ない。


「えっと、それは本当でしょうか?」

「事実だが? それで何回もボス部屋に挑戦する機会を邪魔された」


 受付嬢は何とも困った表情を浮かべている。

 だから立場のある人に話をしたいと言ったんだけどな。っと、彼女に怒っても仕方ないんだよな。


「判断が無理なら分かる人を呼んできてくれ」

「その、本当にそんなことをしている方がいるのですか?」

「いました。少なくとも私たちは三回ほど、後から来た人たちが先に入るのを確認しています」


 ミアの言葉にますます困った表情を浮かべる。

 奴隷の首輪をちらりと見たから、俺に逆らえないから言わされているとでも思っているのか?


「君たち、今言ったことは本当かな?」


 背後から声がした。

 振り返ると守護の剣、確かアッシュとか言ったか、がいた。


「ああ、本当だ。確かあんたらの隊長はルールに厳しかったな? ならあんたに聞く、ボス部屋の前に代わりをたてて順番を待つのがここのルールか?」

「そんなことはない。そんなことは認めていない」

「なら実際にやっている奴らは誰の許可を得てやっている? 皆が当たり前のようにやっていた。ギルドが容認しているのか? それともクランか?」

「何の話をしている?」


 今度は隊長さんの登場か。名前は確かジェイクだったか。

 もう一度同じ説明をする。


「それは本当……確かソラと言ったか?」

「そうだが?」

「お前とは少し話がしたかった。君、ギルドマスターはいるかな」

「は、はい。いらっしゃいます」

「なら少し話がしたい。何処か部屋を貸してもらいたい」

「……二階の第三会議室が空いています。そちらなら使用が可能です」

「分かった。ならそこに行っている。ギルドマスターを呼んできてくれるか?」


 受付嬢は頭を下げると走っていった。これが権力か?

 ジェイクは一度視線を送ってきて、無言のまま歩き出した。アッシュもそれに続く。

 これは黙ってついてこい的な奴か? まあ話が出来そうだから構わないか。少し敵意を感じたのも気になるしな。

 部屋に入り空いている席に座る。ミアは俺の隣に腰を下ろした。

 ジェイクとアッシュはその正面に座る。沈黙、空気が重苦しい。話そうにも、座るなり目をつぶるジェイクからは、今、話しかけるな的なオーラを感じる。

 二度手間を考えれば、ギルドマスターがきてから話した方がいいか。うん、前向きに考えよう。ミアが不安そうに袖を掴んでくるが、問題ないとその手を軽くタッチした。

 しばらくするとギルドマスター、レーゼが入って来た。

 部屋にいる面子を確認して少し顔をしかめたような気がしたけど、すぐに表情を消して席に座った。なんか俺たちに対して壁のようなものがあるんだよな。


「それで何の集まりですか?」


 聞かれたのでまず俺が話した。十階で今起こっていることを。


「それは本当でしょうか?」

「事実だ。守護の剣だったか? そこのクランのやつもいた。なんだったら確認すればいい」

「それは本当か? 虚実を吐いて名誉を傷つけるようなら容赦しないが」


 仲間意識が強いのか、睨んできたな。

 俺はあの場にいた者の名前を告げた。アッシュがジェイクを見て頭を下げると、部屋から出ていった。


「ダンジョンに入場する際に記録されてるんだろう? それを照らし合わせればわかるはずだが。それで、実際のところ今起こっているのはギルドが容認してるのか?」

「いえ、ギルドからは特に決めていません。冒険者同士で決めているのかもしれませんが……少し悪質ではありますね」


 レーゼはちらりとジェイクを見た。


「確かに悪質だ。そんなことが本当に行われていたらなら、だが」

 

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