第144話 マジョリカダンジョン 10F・2

 結論から言うと。ボス部屋の攻略に要した時間は、戦闘開始から十分もかからなかった。

 光が収まると、部屋の中央にゴブリンキングを中心としたゴブリン軍団が出現した。

 取り巻きの数はランダムで、多い時と少ない時があるようだ。一度倒された取り巻きは倒した後に復活することは二度とない。とあるけど、時間をかけるとどうなるかは分からない。

 今回の取り巻きの数は五〇体ほど、内訳は、まあ説明するのも面倒だな。


「本当に一人で戦うのですか?」


 ミアが心配そうに聞いてくる。

 これは一度自分の戦闘力を確認するために、昨夜のうちに頼んでおいた。

 ここでなら誰かの目を気にすることなく、銃の性能の確認も出来る。

 決してストレスが溜まっていたとかではありません。

 俺は問題ないと答えて、まずはゴブリンたちに近付く。

 戦闘領域に入ったのか、一斉に武器を構える。

 そこで新スキルを発動。実は今回のダンジョン攻略の前に覚えておいて、探索中や、さっきの冒険者たちにも試していた。


スキル「威圧」効果「自分よりも弱い者の動きを鈍らせる」


 レベルが上がるごとに強力になる。レベルの上の者や、上位種には効きにくいようだけど、格下なら十分な効果があるようだ。また範囲を指定出来て、一人に使うか、複数の者に同時に使うかを選択出来る。ただし複数相手に同時に使うと、効果が下がるようだ。

 けどこれ、俺のレベルはなし状態なんだけど、どこで相手よりもレベルが上とか判断しているんだろう。謎だ。

 それを部屋にいるすべてのゴブリンに使う。動きが止まり、ゴブリンキング以外の者の動きが目に見えて鈍くなる。

 続いて魔法の準備をする。唱える魔法は二つ。


『ファイアーストーム』『トルネード』


 同時発動は心の中で唱えないとな。並列思考で同時に唱えることは出来るけど、生憎と口は一つしかないから言葉には出来ない。

 二つの魔法は問題なく発動し、ゴブリン軍団の中央で合わさり、いつも以上の広範囲を燃やし尽くす。

 火の手が中央から外側に伸び、真っ赤な炎が順に焼いていく。高威力の炎の嵐は塵一つ残さず、ゴブリンキング以外を焼失させた。


「腐っても上位種か。そうじゃないと意味がない」


 黒煙を上げるゴブリンキングを一瞥し、ゆっくりと歩いて近付きながら銃を構える。五代目の性能は耐久力以外はほぼ四代目と変わらない。変わったのは弾丸の方。様々な付与をした弾丸を揃えてある。

 今回使うのは火を付与した弾丸。着弾と同時に燃やすのではなく、着弾と同時に爆発するようになっている。イメージとしては爆弾を弾にして銃で撃っているといった感じか。一番出番のありそうな弾丸だ。素材は回収出来なくなりそうだけど。

 距離があるとはいえ、撃った弾丸に反応して剣を盾のようにして弾いている。違うな、弾こうとして爆炎が上がっている。最初の衝撃では体がぐらついたが、二発目からは重心を低くして体重をかけて踏ん張っている。

 良く耐えるものだ。

 やっぱり銃はお手軽に攻撃出来るが、上位種になると簡単に回避してくる。

 実際オークロードと戦った時は剣で弾かれてたからな。

 そのため今回は銃弾の方に細工をさせて貰っている。

 だが俺としては有難い。これはあくまで実験。実際に有効的なのかを確認するための戦いなのだから。

 徐々に近づきながら銃を撃つ。基本的に胴体を狙うが、時々腕や足を狙う。

 狙いを散らすことで反応が遅れて被弾する数が増えていく。

 距離が近付いたことも影響しているのだろうが。これでは接近しないと当てるのは難しいかもしれない。

 ますます使いどころに迷う武器になったというイメージだ。

 近付くことでさらに防戦一方になっていく。ある程度近付いたら立ち止まる。

 前に出たのは、三人との距離を開ける意味合いが強かったしな。

 キングは憎々し気に睨んでくるが、何一つ抵抗が出来ない。

 キングに対して威圧を放つ。

 再び動きが鈍くなる。それは一瞬のことだったけど、銃弾の前にそれは致命的な隙となった。

 手に、足に、胴に、次々と銃弾が刺さる。剣にもひびが入り、あと何発か当たれば砕けそうなほどだ。

 爆発で肉が爆ぜ、かじられたように肉が削げ落ちている。

 キングの顔が歪む。痛みに、そして弱気を見せた。怯え、それが一番しっくりくる言葉かもしれない。

 さらなる銃撃で剣を破壊し、足を砕いた。体が揺れて膝をつく。

 その隙を逃さず魔力を体に流して加速する。下がる頭に合わせるように剣を引き抜き、首を狩った。魔力を流した剣は何の抵抗も見せずに、簡単に首を斬り落とすことが出来た。

 本当は最後まで銃弾で押し切ろうとしたけど、体の動きも確認したかったから最後は剣で止めを刺した。魔石を回収したいというのもあった。あのまま銃で攻撃していたら、魔石を先に破壊してしまいそうだったからだ。

 時間は大してかかっていない。今まで上位種や上位の魔物と戦うと傷を負うことが多かったけど、今回は楽勝だったと言える。


「主、すごい」


 勝利を噛みしめて、余韻に浸っていたらヒカリの襲撃を受けた。

 ちょっと痛いです。頭がいいところに入りましたよ。


「ヒカリ、戦闘あととはいえ、突然飛び付くのは禁止な。危険だから」

「うん」


 頭をナデナデ。興奮しているのが分かる。


「主様、何だいその非常識な武器は……」

「俺の世界にあった武器を再現したものだよ」

「魔法とかないって言ってたけど、主様の世界も物騒なんだな」


 皆が皆持ってるものじゃないからな。言っても分からないと思うけど。


「ソラは非常識です。それにそんな力があるなら……」

「助けられる人は多いかもしれない、か」


 ミアの言いたいことは分かる。


「けど変に目立つし。これを手に入れようと画策する者も現れるかもしれないからな。いざという時以外はあまり使いたくない。頼りすぎて鍛錬を怠るわけにもいかないしな」

「主様の考えは分かるよ。確かに楽が出来そうだけど、それだと他の地力が上がらないだろうしね。それに今の速度なら……って、その話はあとにして、まずは宝箱を確認しようじゃないか」


 確かに宝箱がドロップされてるな。中身が気になるところだ。

 ちょっとドキドキしてくるな。

 そんな俺の思いとは裏腹に、ヒカリがあっさりと開けた。

 うん、結果は同じだからな。けど、こう、もう少し期待感を持ってだな。はい、時間の無駄ですね。分かります。

 宝箱の中身は二つ。お~、帰還石ゲット。それでもう一つは? これはミスリル! ミスリルではないですか。

 その後ゴブリンキングの首(討伐証明?)と、魔石を回収してボス部屋を後にした。体は酷い有様だったのでそのままダンジョンに還した。

 階層登録を行い、ついでに帰還の選択を行う。なんかファンタジーというよりも、タッチパネルを操作するような感じで科学に近い感じの機能に見えるんだよな。

 こうして初のボス戦は終了し、今回の探索も無事終了することが出来た。

 

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