第138話 閑話・6

「到着したよ」

「うん、到着したね。だけど何で先に進めないのかな?」

「盗賊が出て危ないからって言ってたよ」

「な・ん・で、こんな時に盗賊なんて出るのよ! 急いでいるって言うのに!」

「私に文句言っても仕方ないよ? それに討伐隊がもうすぐ到着するって話だし、大丈夫だよ」

「……で、あれがそうかな?」

「たぶん。武装している人が多いしそうじゃないかな」

「凄く派手な人が先頭にいるんだけど、あれがそう?」

「そうだと思うけど……ねえ、あれって」

「だよね。姿見が飾られてたしそうなんじゃない?」

「獣王様が盗賊の討伐に行くの?」

「行くんじゃない。というか、お供の人たちが凄く疲れたような顔してるよね」

「振り回されてる感じかな?」

「そうだと思うけど。何でそこで私の顔を見るかな? かな?」

「それは自意識過剰だよ。それよりも宿を取りに行こうよ」

「そうだね。お風呂でゆっくり出来て、ご飯が美味しいとこ探そ。ちょっとこの疲れた体を癒したい」

「さっき聞いてきたよ。ちょっと高いけどサービスはしっかりしてるみたい」

「よし、それじゃそこに行こうか」



「色々と獣王様は吹っ飛んでた」

「うん、けどそのお陰で護衛の依頼を受けられたんだから良かったよ?」

「それには同意。お金も入って、移動も出来る。しかも普通の馬車だってのがポイントだよね」

「うん」

「それでここがプレケスか。こっちは魔導学院なんだっけ?」

「そうみたい。魔法学園との違いは分からないけど」

「通いたかったりと思うの?」

「どうだろう。今のままでいいと思うけど……ルリカちゃんは?」

「私はいいかな。勉強とか進んでしたいとは思えないし。それでどっち経由でマジョリカに行く?」

「首都のマヒアかな、やっぱり」

「奴隷商の規模も大きいだろうしそっちのがいっか」

「うん。けどここでもエリス姉の噂は全然聞かない……ね」

「エルフは珍しいから、何かあれば噂になると思うんだけどね。エーファ国内に入ってから何も噂を聞かないってことは、もしかしたらこの国にもいないかもね」

「……うん」

「けどもう少しでセラには会えるはずだからさ」

「そうだね」

「護衛依頼はないし、乗合馬車で行こうか?」

「それがいいかも? けど何だかピリピリしてるような気がするけど、何かあったのかな?」

「ダンジョンもあるし、血の気の多い人が他の街よりも多いとか?」

「それは偏見だと思うよ?」



「あれ……?」

「どうしたの?」

「ソラから貰ったネックレス。その宝石にひびが入ってるの」

「そうなの? あれ? 私の腕輪のもひびが入ってる……」

「何か縁起が悪い……のかな?」

「戦闘でも使ってたからなぁ」

「けど私は特に危ないところなかったし……」

「それじゃあの激しい獣馬の馬車が原因じゃない?」

「……それは否定できないかも。初めて乗った時は、体を結構ぶつけた記憶があるから」

「ソラの手造りだって話だもんね。今度会った時には、しっかりした物を造るように文句の一言も言わないとね!」

「それは少しずうずうしいと思うよ?」

「けどクリスだって、プレゼント貰うならしっかりした物の方がいいでしょう?」

「……心がこもっていれば私は別にいいよ?」

「もう、この子は。もっと欲を出しなさい、欲を」

「ん? 誰かと思えばルリカとクリス、か?」

「? どちら様ですか?」

「おいおい、一緒に護衛の依頼を受けた仲じゃねえか」

「……ああ、ゴブリン……って、近い近い」

「ったく、何でお前らはそこで覚えるかな」

「インパクトのある名前だから?」

「まあ、いい。それよりも獣王国に行ってたんじゃないのか?」

「一通り見て回ったから、今度はエーファに来たんだ」

「そっか……そうか……」

「何かあったんですか? 急にその、元気がなくなったように見えましたけど」

「ああ、悪い。二人を見たらソラのことを思い出してな」

「ソラか。元気にやってるかな? ってどうしたの?」

「……二人は知らないんだったな。実はあれから俺たちも南門都市経由で王都に戻ろうと思ってな。そこでソラと会ったんだ」

「そうなんだ」

「そこでな……あいつはソロでウルフ討伐の依頼を受けてな……そこで無茶したらしくてな」

「何があったんですか?」

「依頼先の村がオークに襲われたらしくてな。さらわれた村人を助けるために、囮になってオークを引き付けたらしいんだ」

「そ、それで?」

「分からん。ただあいつが使ってた折れた剣と、ギルドカード。血に染まったローブとかがオークの死体の傍で見付かった。って大丈夫か?」

「クリス、大丈夫?」

「う、うん。それで捜索はされたんですか?」

「ああ、そこの村人の依頼で捜索された。けどオークの生き残りもソラも見付けられなかった。しかも悪いことに、その、ソラがいた森ってのがまた問題でな。その上空を飛ぶ魔人を見たってのがいたんだ」

「魔人!」

「ああ、声が大きい」

「ごめん。それよりも魔人って?」

「聞いてないのか? 南門都市近辺で魔人が目撃されたんだ。実際にかなりの騎士と冒険者が殺されている」

「そ、そうなの?」

「ああ、だからソラももしかしたらッて話になって捜索も打ち切られた」

「そっか……。うん、分かった。ありがとう」

「良いってことよ。それと、その、あまり思い詰めるなよ? こういう仕事をしてるんだ。こういうのは良くあることなんだから」

「……うん。それでサイフォンさんたちは何処に行くの?」

「ああ、俺たちはプレケスを目指してる。ユーノの知り合いがいるってのもあって、そこのダンジョンに潜るつもりだ」

「そうなんだ。気を付けてね」

「おう、お前たちも気を付けてな。それじゃ、元気でな!」

「……行っちゃったね」

「うん。それよりもクリス、本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。うん、だ、大丈夫……」

「もう、全然大丈夫じゃないじゃない。とりあえず今日はもう休もう」

「……うん」

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