第139話 マジョリカダンジョン 6F

 もう少し休養をと思っていたのに、ダンジョン探索を再開した。

 食事以外はあまり興味のなかったヒカリが、ダンジョンに行きたいと言ってきたからだ。理由は明白、練習の成果を試したいからだろう。

 魔力視眼鏡のお陰で、魔力のコントロールは格段に向上した。その中でも魔法に元々興味を持っていたヒカリの勤勉さは群を抜いていて、前々から練習していたのもあってか、瞬く間に使いこなせるようになった。

 今では息を吸うように自然と魔力をナイフに纏わせ、維持することも出来るようになっていた。あとは戦闘中でも変わらず使いこなせるかどうかだ。そこまで出来て、はじめてマスターしたと言える気がする。

 俺はダンジョンに行く前に準備をする。

 これは俺だけでなく皆にも自分で用意するように言ってある。他人任せではなく、一人一人が考えて、自分に必要な物資を用意することでより考える機会を与えたかった。きっとこれがいつか財産になると信じて。食料は主に俺が用意しましたけどね。

 もう一つ、ダンジョンに行くなら確認しておく必要があることがあった。

 ルリカとクリスの現在位置だ。ダンジョンに入る前に伝言を頼んでおくけど、どこまで近付いてきたかを知っておくのは大事だ。

 発信機に魔力を流すと受信機に反応がある。MAPで確認するとエーファ魔導国家内にはもう入っているな。

 位置的には北側、首都マヒアの方向か?

 ん、受信機の反応が突然消えた。もしかして限界がきてしまったか?

 予想以上に近付いて来ている。

 ダンジョンに潜っている時にちょうど来る可能性もある。

 タリヤにセラを訪ねてルリカたちが来るかもしれないと伝え、俺たちが不在だった場合は滞在して待っていて貰うように指示だけ出しておいた。

 もちろんギルドの受付には伝言をお願いしてある。

 ギルドに到着すると、そのままダンジョンの入り口に移動。何人かがチラリとこちらを伺うような視線を送ってきた。

 俺たちはダンジョン入口で探索の申請を行い、パーティー登録を行い入口で階数を選択して飛んだ。

 今回のスタートは六階。洞窟MAPに戻り、迷路をまた進んでいく。


「ヒカリ、前に出すぎだ。もう少し進むペースを落とそうな」


 注意する。セラには手綱を頼むことにした。

 今のヒカリは注意力がちょっと散漫だ。本当なら気を引き締める必要があるのだけど、まだまだ子供なのかその衝動を抑えられないようだ。罠がない階層だからいいけど、それがなかったら一時探索を中断して話し合いをするところだ。

 一緒に旅をした時の方がその点はしっかりしていたような気がするが、あれはただ張り詰めていたといった感じか。今はいい意味で力が抜けていて、年相応になったといったところだろうか?

 ここは年長者たちがフォローをしてやるしかない。

 ここで出る魔物はキラービー。特徴的な羽音のため、不意を突かれることはないはず。上位種になると、羽音を消して暗殺者のように接近する個体になるというけど、流石に見通しの良い洞窟ではその能力を発揮することは出来ないだろう。曲がり角からの強襲なら有効か?

 ある程度進むと、羽音が聞こえてきた。

 分かりやすいけど、音が反響してどこにいるのかを惑わす。通路を何度か曲がったのに、その姿をまだ確認出来ない。ただ不気味に羽音だけが反響する。

 そのため徐々に進む速度がゆっくりになる。ヒカリも魔物の出現にスイッチが切り替わったのか、どこかフワフワしていたような感じだったのがなくなり、気を引き締めて周囲に注意を払っている。

 通路の角で一度セラは立ち止まり、その先を覗き込んでいる。

 ハンドサインのようなもので、この先に魔物がいると伝えてくる。

 ヒカリがこちらを見てくる。

 最初の戦闘はどうするか話したのを覚えていたようだ。

 まずはセラが先に飛び出し注意を惹く。遠距離からミアがホーリーアローをまずは放ち、続いてヒカリが攻撃する。セラは二人のバックアップメインだ。

 セラが合図を送り身を晒す。斧を打ち付け、音をわざと鳴らして注目を集める。

 音に反応したキラービーは旋回してこちらに注意を向ける。

 そこにミアがホーリーアローを放つ。的が小さいので、外れてもいいと言ってある。重要なのはしっかり魔法が発動出来るかどうか。

 その間にヒカリが接近してキラービーを倒す算段だ。

 しかし予想に反して、出現したキラービーはミアの三連発による魔法で全て倒してしまった。

 魔法が安定していたのと、次に撃つまでの間隔がかなり短縮されていた。

 ミアは驚き。ヒカリは不満そうだ。頬を膨らませている。

 とぼとぼと肩を落として歩いて戻ってきている。

 テンションが凄く下がってるな。


「次があるからな。今回はミアの魔法が凄かった結果だ。むしろミアを褒めてやらないと」

「ん、ミア姉凄かった」


 頭を撫でてあげる。少し落ち着いたのか機嫌が直ってきた。

 その後、探索は続いたが結局魔物と遭遇することがなかった。

 階段が早く見付かった結果だ。

 次の階層はブラッドスネイクの出る階層だ。それを聞いて、肩を落としていたヒカリのやる気が少し上がったような気がした。

 

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