第140話 マジョリカダンジョン 7F

 七階もダンジョンの構造は基本的に同じだった。

 違いは大小様々な石ころが足元に転がっている点。歩くのを妨げるほどではないけど、気になって目につく感じだ。特に魔物と立ち回る時は注意が必要だ。

 この階もなかなか魔物と遭遇しない。もしかして誰かが先に入って倒したのだろうか? 自分たちの足音だけが、コツコツと響いている。

 心配になってヒカリを見たけど、集中力を切らすことなく周囲を警戒している。

 安心する一方、いつも以上に集中しているようにも感じる。無意識の行動っぽいから、自分で気付かないうちに消耗しているのかもしれない。


「セラ、休憩出来そうな場所があったらそこで昼食にしよう」


 セラもヒカリの状態は気になっていたのか、場所を確保してくれた。

 食事の用意をして休憩する。

 魔物と遭遇してないのに疲れたな。は~、温かいスープがじんわりと体に広がって、空腹とともに癒してくれる。

 ヒカリを見るといつものように一心不乱に食べないで、しっかりと噛みしめながらご飯を食べている。本調子じゃない感じだな。


「しかし魔物と全然会わないな。元々少なかったりするのかな?」

「どうだろう。もしかしたら他のパーティーが先に進んでいるのかもしれないよ。それかたまたま魔物のいる道を回避して進んでいるかさ」


 セラも同じような意見か。魔物に会わないのは本来なら歓迎すべきだろうけど、一匹か二匹は倒したいな。肉的な意味でも。ここでゴブリンなら別に会わなくても問題ないんだけどな。

 今日はMAP機能を今のところ使っていない。気配察知も、全方向注意しているわけではなく、後方のみ分かるようにしている。

 後方だけでも使っているから意味がないかもだけど、一応訓練のつもりだ。


「分からないことは考えても仕方ない。気を抜かないようにだけ注意しよう」


 食休みをとって探索を再開する。

 昼食後はヒカリを先頭に歩き出す。空回りしないように注意をした。口うるさく感じるかもしれないけど、心配だから仕方ない。

 ミアにはちょっと笑われた。セラにも生暖かい目で見られたな。心配しすぎなのか? 加減がわからん。

 しばらく進んでいくとヒカリの足が止まった。

 慎重に歩きながら曲がり角に近付いていく。

 気配察知で確認したい衝動に駆られるけど、我慢する。逆にそれがなくても気配が分かるか試みてみるが、駄目だった。何も感じない。これは元々才能がないのか、スキルを切っているからなのか判断に困る。

 ヒカリがハンドサインを送ってくる。数は二匹。

 今度はミアは手を出さない。セラは援護に回るけど、基本ヒカリが相手にする予定だ。

 ヒカリがナイフに魔力を流す。準備が整うと通路に飛び出す。

 その後を追うようにセラが、俺とミアがそれに続く。手にはそれぞれ武器を構えている。急な襲撃を想定しての対処だ。

 通路の向こう、ブラッドスネイクは体を滑らせて、足元の石ころをものともしないで接近してくる。逆にこちらは注意しないといけない。変に踏んで足を挫いてもいけない。

 ヒカリは足元も見ないで接近する。まるで見えているかのように、邪魔な石ころを避ける。

 すれ違いざま、一閃。剣身が短いから首を落とすことは出来なかったけど、ナイフの触れた部分はザックリとその痕を残していた。

 傷口から血が噴き出し、悲鳴を上げて暴れるも、すぐに動きが緩慢になりやがて動かなくなった。

 ヒカリは確認もしないで、さらにもう一匹に肉薄する。目の前で同胞があっさり殺されたからか、ブラッドスネイクは突進をやめて尻尾を振り回す。

 それをナイフで切り刻みながら、ヒカリがさらに速度を上げる。

 虚を突かれたブラッドスネイクは、体勢をを整える暇も与えられず、喉元の下の辺りを一突きされて、目から光が消えてその活動を停止させた。

 確かちょうど魔石がある位置だ。砕いたことで即死攻撃になったかもしれない。

 確かめると魔石は砕かれていた。これでは使えないな。


「主、ごめんなさい」


 魔石はお金になるし、俺が集めているからな。主に錬金術で使うために。


「気にしなくていい。一番は確実に倒すこと。余裕があったら素材の状態を気にしながら倒すこと。だけど安全が第一だからな。魔物の魔石や素材は替えがきくけど、ヒカリたちは替えのきかない大切な仲間なんだから」


 これはしっかりと伝えておく。そりゃ、レア素材だったりしたらちょっとは残念に思うけど、それによって危険を冒す必要なんてない。

 現に余裕がなければそんなことを考えている暇なんてない。オークロードを半焼きにした前科は伊達じゃない。うん、あの時は多少なりとも肉が確保出来てラッキーだった。魔石も無事だったしな。売っちゃったけど。

 ひとまずブラッドスネイクはアイテムボックスに収納。血抜きは戻ってからか、夜の野営の時だな。流石に通路の真ん中でやるのは色々な意味でヤバイ。他の冒険者に目撃されたら何事かと思われるだろう。野営中の血抜きも大差ないかもだけど。

 その後八階への階段を見付けるまでに、さらに追加で五匹のブラッドスネイクを倒した。魔石だけ回収して、解体はしないでアイテムボックスに放り込む。

 今日は階段近くで野営をして、明日に備える。

 ここからがある意味本番になるため、疲労が残らないようにしっかり休むことにした。

 ヒカリが上機嫌になったのは言うまでもない。

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