第137話 魔道具・魔力視眼鏡

 家に戻ったら料理を教えて、錬金術をするべく一人で部屋にこもる。

 今回の探索は色々と考えさせられた。ダンジョンに対する認識もそうだけど、どこか何とかなるという甘さもあった。前もって資料で階層で出る魔物を調べていたのもあって、それほど危機感を覚えずに行っていたような気がする。

 ギルドには冒険者の準備が悪いと偉そうに言ったけど、俺もスキルがなければ詰んでいたかもしれない。上位種がいると聞いた時点で、安全を考えたなら引き返すのが正解だったのだろう。

 ダンジョンに潜る以上、安全マージンは常に取るようにするけど、今回のように不測の事態に巻き込まれる時もある。そんな時、あれが出来たらと後悔しても遅い。

 あとはダンジョンに潜り、ボスを何回か倒す必要もある。

 その後で銃を使っているのを目撃させて、聞かれたらボスの宝箱から入手したと誤魔化せる土壌を作っておきたいとも強く思った。

 銃は切り札になるけど、物珍しいために使いどころが難しい。周知されれば、珍しい武器ではあるけど、そんな武器もあると認識されていき気軽に使えるようになるはずだ。たぶん。使わないで済むならそれに越したことはないと思うけど。

 一番恐ろしいのは、誰かがその珍しい武器から連想して俺の正体を探ろうとすること。身バレして王国の手が伸びるのだけは防がないといけない。過去にこの世界に来た異世界人のことも調べる必要があるかもしれない。

 まずは戦力の底上げとして、ミアをはじめ、皆には魔力の使い方をマスターして貰う。

 何故なかなか上手くいかないか考えてみた。理由は明白。魔力は目に見えないから、本人の感覚で探りながら魔力を感じないといけないからだ。

 レイラたちはすんなり使えたけど、あれは魔法学園での下地と、冒険者としての経験があったからなんだろうと今では思う。ヨルが一人研究し、皆に話しているのを見たことがあるからそれも影響しているのかもしれない。俺、説明下手だしな……。

 それならどうすればいいか? 俺と同じように魔力が目に見えるようになればいい。

 俺は必要なアイテムをテーブルに並べた。

 錬金術のリストにそれに似たものがあった。それを参考に作る。

 シャドーウルフの魔石。ガラス。鉱石。マナポーション。

 まずは鉱石を分離。軽くて丈夫なものを分離して取り出す。それで眼鏡のフレームを魔力を流しながら作る。

 それが終わればシャドーウルフの魔石とガラスを錬金術で加工合成。イメージして魔力を視ることのできるレンズを作る。魔力を大量に流し込んで割れないように強度を持たせるのも忘れない。

 ここで一服。限界近くまで魔力を籠めたから、マナポーションを飲む。MPが回復したらレンズとフレームを合成して出来上がりだ。

 言葉にすると簡単に見えるけど、俺、頑張ったからね? 完成まで試行錯誤して、二時間ぐらいかかったと思う。微調整を何度もしたし。


「ミア、少しいいか」


 自分で確かめようとして出来ないことに気付いて、隣の部屋のドアを叩く。

 もう寝るところだったのか、寝間着に着替えたミアが顔を出した。この寝間着姿ははじめて見たかもしれない。ちょっとドキドキする。嘘です。かなりです。


「どうしたの、ソラ?」

「ああ、悪い。これを掛けてみてくれないか」


 眼鏡を渡すと不思議そうな顔をされた。眼鏡属性はないはずなのに、いい、と思ってしまったのは内緒だ。


「掛けましたが……?」


 戸惑ってらっしゃる。いかん、顔に出ていたかもしれない。キリリと真剣な表情を作って話す。


「ちょっとそれを掛けた状態でこれを見て貰いたいんだ」


 俺は魔力の練習用に作っておいた魔石を取り出し握る。それをミアの目の前にかざし、魔力を流す。


「えっ」


 と、驚きの声をミアが上げた。


「何か視えたか?」

「はい。その、ソラの手から魔石に光が流れていくのが視えました」

「成功だな。ああ、その眼鏡は魔力を視ることが出来るようになる魔道具だ」

「魔力を視る?」

「そうだ。感覚だけで魔力を探るのは大変だろう? だから目に視えるようになればミアたちも解りやすいと思ってな。どうだ?」

「これなら分かります。凄いです、凄いですよ、ソラ」


 予想以上に興奮しているな。

 ミアに練習用の魔石を渡すと、早速魔力を流している。

 今までと比べ物にならないほどスムーズに魔力を流すことが出来ている。

 興奮しているのか、お~とか、あ~とか無意識に声を出している。


「ミア姉。うるさい」


 奥からヒカリが顔を出した。眠いのか目を擦っている。

 ヒカリも可愛らしい寝間着を来ている。ミアとお揃いのやつだ。


「ヒカリちゃん、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」

「うん、眠い」

「今日はここまでにしておこう。色々試したいと思うが、明日でもいいだろう」


 言ってて説得力がないことに気付いた。そもそも夜更けに俺が持ってきたのが原因なんだよな。けど不安じゃん? 本当に出来ているか分からないと気になって眠れなかったんだよ。

 ミアは眼鏡をしたまま部屋の中に戻って行った。

 明日はヒカリとセラにも試して貰おう。二人も使えるようになったらかなりの戦力アップになる。ただセラは魔力量が少ないみたいだから、ミスリルのような魔力が通りやすい武器じゃないと使えないかもしれないんだよな。

 逆に他に魔力の活用が出来ればいいのだろうか? 実際に魔力はあっても、魔法を使わなければ魔力は減らないから、あっても宝の持ち腐れになりかねないんだよな。

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