第136話 マジョリカ・8

 ダンジョン探索から三日が経過した。

 ギルド内では五階層で起きたことが話題となっていて、静かな波紋が広がっていた。ギルドの甘い管理体制。最初に発見した冒険者の審議。亡くなった冒険者たちのこと。シャドーウルフを討伐した冒険者のこと。様々な噂が飛び交った。

 当の俺はというと寝込んでいた。風邪を引きました。

 その間ミアが足繫く様子を見に来ては、作業をしようとベッドを抜け出しては怒られた。最終的にずっと部屋にいるとまで言われて静かに寝ることにした。あまりにも暇だったのと、色々とやりたいことがあったのとで、つい作業をしたくなったんだ。


「熱はもう大丈夫そうです。咳も止まってますし、明日からは普通の生活をしても良いと思います」


 おでこで熱を確認とか原始的だ。正確性の欠片もない。むしろ顔が近すぎて熱が上がってしまいそうだ。

 ミアは容体を純粋に心配してくれているようで、キスでも出来そうなほど接近しているのに照れ一つない。意識しすぎなのか? 違います。女性慣れしてないだけです。

 この世界にも医者はいるそうだけど、ほんの一握りらしい。なので風邪とかは薬師ギルドで販売している風邪薬を買う。もちろん症状を言って、それに合った薬をだ。

 良薬は口に苦しと言うが、本当に苦かった。カプセルなんてものは存在しないから、飲み薬といえば粉薬になる。暴力的に口の中に広がるそれは、拷問かと思うほどだった。

 けど、効果は抜群らしい。現に熱は下がったし。


「ソラは、色々気にしすぎです」


 リンゴのようなものを、まだ危ない手付きで、ゆっくりとカットしながらミアは言ってきた。


「助けられなかったのは悲しいです。けどそれをソラが背負うことはないんですよ?」


 そこまで気にしていないんだが。何故そのように思ったのか。聞いてみた。


「なんとなくかな。言葉では別に気にしてないようなことを言ってたけど、そう感じました。だって、ソラは優しいから」


 誰にでも優しい訳ではない。俺はスキルの恩恵を受けてはいるけど、万能じゃない。全てを救えるなんて思ってもいない。それはおごりだ。

 それになりふり構わず戦っていたら、もっと助けられた命があったかもしれない。それによって失っていた命があったかもしれない。

 だから俺は守りたいものを優先する。赤の他人よりも仲間優先。それはどんなに強くなっても結局変わらないはず。ちっぽけな人間が、英雄になんてなれないように。


「自分のことは、結構自分では分からないものですよ」


 ミアの横顔は少し寂しそうに見えた。

 翌朝完全復帰すると、リハビリを兼ねて少し街中を歩いた。目的もなく歩いたわけではなく、道具屋の価格調査と装備類の確認。

 ポーション関係は大きなことが起きると価格が結構変動すると聞いたから。装備類は掘り出し物の武器があるかを探すためだ。魔法武器とまで言わないけど、もう少し質の良いものがあるかを探すため。

 何軒か道具屋を回ったけど、ポーションの価格は値崩れしてなかった。他に改めてどんな道具があるか探していたら聖水なるものを見付けた。これはアンデッド除けや、武器に振りかけると一時的に聖属性を付与させるとある。

 これがあったらシャドーウルフをもっと楽に倒せたんじゃないのか? ただ珍しいものなのか、二つの店でしか取り扱ってなかった。いくつか購入し、あとは魔物除けも補充しておく。

 武器に関してはこちらもハシゴした。一軒一軒回り、鑑定を駆使して調べた。基本的に武器は、鉱石の玉鋼やダマスカス鋼を使って作られているようだ。鍛冶師の腕によって、その質が変わるようで、値段は創り手によって変わるようだ。

 珍しいものだと銀をコーティングされた剣もある。これはアンデッド系に特攻効果があるようだ。ある魔物に特化した武器など、探せば色々と見付けることが出来る。種類も多い。魔法剣みたいのがあるか探したけど、それはなかった。

 特化武器は値段は高いし汎用性には欠けるけど、あれば有利に戦えそうだ。


「親父さん、ミスリルの剣とかってのはないのか?」

「なんだ坊主。大物でも狩ろうってのか? 実力と……」


 声を掛けたら文句を言われた。その目がセラを捉えると言葉を呑み込んだようだが。


「使うのはそこの嬢ちゃんか?」

「とりあえずいくらぐらいなのかを知りたいと思って。知り合いが使ってるのを見ていいと思ってさ」

「ミスリル武器だと一本金貨五〇枚から二〇〇枚ぐらいだな。少し値段が下がるが表面をミスリルコーティングしたものもあるが、そっちはおススメしないな。耐久力に問題があって、素人だと手入れが大変だ」

「……高いな」

「上級冒険者が使う武器だしな。持ってるだけでも一目置かれるだろう」


 ダンジョンで稼いだとかレイラは言ってたけど、どんだけダンジョンに潜ってたんだ? それとも下に行くほど稼げる魔物がいるってことだろうか。


「店じゃ売ってないが発注が基本なのか?」

「そうだな。稀に普通に店に並ぶ時もある。あとはミスリルを持ち込んで頼むかってとこだな。俺のとこでも持ち込めば取引先の鍛冶師に依頼することは出来るぞ」


 話を聞く限り、ダンジョンで入手も出来るそうだな。宝箱とかかな? そういえばシャドーウルフを倒しても宝箱とかドロップしなかったな。ボスは宝箱を落とすものじゃないのか?

 俺はいくつかの鉱石と、実験用の武器を何点か買って家路についた。

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