第135話 マジョリカ・7

 帰還した俺たちは、会議室のような場所に連れて行かれた。

 討伐に出た者たちの帰りが遅かったのもあって心配していたようだけど、追加の人員が派遣されるようなことはなかったようだ。

 帰還した人数が九人と少なかったことと、その一部が討伐隊の人員でないことに疑問を持っていたけど、フレッドの説明を聞いたギルド員は慌てて部屋を飛び出し、ギルドマスターを連れて戻って来た。


「もう一度説明して貰っても良いですか?」


 目つきの鋭い、少し神経質そうな女性は部屋に入るなりフレッドに尋ねた。

 フレッドは上位種がダークウルフではなく、シャドーウルフだったこと。ボス部屋のような仕様になり、シャドーウルフを討伐するまで脱出出来なかったなど、順を追って説明していく。

 説明を黙って聞いていたギルドマスターは、フレッドの話が終わると頭を抱えた。


「それでどうやってシャドーウルフを討伐したのですか?」

「こちらのパーティーの助力を受けて討伐しました」

「見ない顔ですね……」

「登録したのは数日前とのことでした」


 全てフレッドが答えてくれるから楽だな。


「……どうやって討伐したのですか?」


 流石に聞いてくるか。助けを求めるような視線をフレッドが送って来たな。

 これに関しては隠す必要がないから素直に話す。


「特殊な武器で撃退した。もっとも次も同じように討伐してくれと頼まれても無理だけどな」

「それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。一回限りの使い捨ての武器だから、使ったと同時に壊れた。これがそれの成れの果てだよ」


 つかだけになったものを取り出す。


「これは何ですか?」

「使ったのと同時に剣身はボロボロになって消滅した。何故と聞かれても分からない。俺も旅の途中で買ったものだからな」

「相手は行商人ですか? それとも鍛冶師ですか? 名前は分かりますか?」

「行商人だったよ。確か……ミヤフジとか名乗っていたかな?」

「そうですか。もし他に何か分かったら教えて下さい。あと、それをこちらで預かってもいいですか?」

「それは断る。一応身を守ってくれたものだからな。大事に所持しておきたい」


 見る人が見たら出所が分かってしまうかもだからな。それは避けたい。


「そうですか。では報酬の話をしましょう。支払いは……」

「討伐報酬に関してはソラたちに支払ってくれ」

「おい! それはないだろフレッド」

「討伐対象を前に逃げたのに、お前はそれを、胸を張って貰うことが出来るのか?」


 フレッドの声が低いな。言葉を発した者以外は目を逸らして気まずそうだ。

 それでも何か言おうとしたが、他が止めに入った。討伐に参加した費用は貰っているからと必死に宥めている。ちなみに急な召集だったため、かなりの額が支払われたようだ。パーティー単位でなく、個人に。

 別に分けてもいいと思うが、それは何故かフレッドに止められた。討伐したウルフの分だけの料金を分けてくれればいいと。本来ならそれも、回収しないで逃げたのだから、受け取るのも悪いんだがと言っていた。

 根が真面目なのか。お人好しなのか。俺には出来ないな。

 その後解体場に案内されて、そこでシャドーウルフとウルフの遺体を渡した。ウルフは全てそのまま売って、お金は人数で割って分配した。

 シャドーウルフに関しては魔石と肉を十キロほど残して他は全て売った。金貨一〇〇枚。表面的には損失だな。魔石を例え売っても二〇〇枚にはいかなかったようだ。


「今回は助かった。ありがとうな」


 口々に礼を言われた。一人を除いてだが。最後までなんか睨んでいたな。

 一応何をするか分からないし、マーキングをしておくか。

 別れたところでギルドの受付に行く。ゴブリンなど、他で狩ったものの報告をするためだ。シャドーウルフの討伐もポイントになるらしいので、これでセラのランクが上がった。Eだったのが飛び級で一足飛びにCだ。文句はないが、それでいいのかと思ってしまう。ランクの上げ方が雑だと思った。

 シャドーウルフの討伐という結果だけ。魔物の討伐部位の提出の結果だけ。結果だけ見て、実際に実力の確認をされることはなかった。それだと誰か別の人が狩ったものを納品しても分からないんじゃないだろうか? 一応今回はフレッドが証言したというのもあるかもしれないが。

 今回のダンジョン探索は、最終的に金貨一三〇枚の稼ぎになった。これに薬草類をポーションに変えたら、そこそこの稼ぎだな。基準になるものがないから、実際に稼げたかどうかは分からないが。あ、けど五階で収穫した食べ物系は一度商業ギルドに持って行ってもいいのかもしれない。ヒカリ次第だけど。

 ギルドを出たところでばったりレイラと会った。

 声を掛けようとしたら物凄く怒られた。

 曰く、予定日になっても帰って来ていない。

 曰く、ギルドに来たら五階で上位種が発見されたと聞いて心配した等々。


「ここだと何だ。家に戻ってから詳しいことを話すよ」


 これは伝えておいた方がいいことだしな。

 家に戻るとタリヤが迎えてくれて、続いてエルザとアルトもやってきた。

 一先ずお風呂の用意を頼んで、客間でレイラたちと向き合う。

 そこで今回の探索の結果を説明した。特に五階がボス部屋になった話は、かなり深刻そうに聞いていた。


「そんなことがあったんですの……亡くなった方々は残念ですけど、ソラたちをはじめ、少なくない方たちが無事に戻って来てくれて良かったですわ」


 その言葉に、救われたような気がした。

 



 

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