第134話 マジョリカダンジョン 5F・10

 ごとりと、首が落ちた。

 遅れて、手の中のそれが砕けた。

 キラキラと光の粒子となって、柄を残して剣身の部分が消失した。

 体がグラリと揺れて地面に倒れ込んだのを、支えられた。

 温かい、顔を上げるとセラと目があった。

 差し出されたのはマナポーション。急速に減ったMPが回復すると、抜けていた力が戻って来るような感覚が体に広がる。


「何だ。それは……」


 フレッドが驚きの声を上げる。けど聞きたいのはヒカリたちも同じようだ。


「聖属性が付与された剣だよ。何でも特化しすぎて、一回振るうと壊れるって説明されたな。ちなみに、これ一本で金貨二〇〇枚した」


 金貨二〇〇枚の下りは嘘だけど。


「それがあればもっと早く……」


 言葉を途中で止めたな。言いたいことは分かるが。


「悪いな。見ての通りの性能だからな。確実に首か体を両断出来るタイミングでしか使えなかったんでね。それにこんな武器があって、あんたは信じたか?」


 答えられないだろうな。俺だったら信じない。鑑定して効果が確認できたら信じたけど。

 それに上手く使えるか分からなかった。実際MPが際限なく吸われて、下手したら攻撃する前に枯渇して倒れていたかもしれない。


「それよりもミア、もう一本マナポーションをくれないか。まだ少し辛い」


 容赦なく吸い取って行ったな。欠陥品もいいところだ。これじゃ二撃目を放てたとしても、体がもたないな。


「それは魔力切れか?」

「そうらしい。使うと魔力を吸われると言われた。足りないと良くて廃人、悪くて死ぬって言われたな。どうやら俺の魔力量はそこそこあったようだ」


 これも嘘だけど。使うのを躊躇ためらうような理由を並べていけば、そうそう非難も出来ないだろう。狡いと言われようとも予防線を頑張ってはりますよ。

 実際危なかったし。ぶっつけ本番は怖いな。自分で作っていてなんだが。


「それよりどうだ? 帰還石はどうなっている?」


 原因がシャドーウルフならそれでよし。違うならまた別の条件を探さないといけなくなる。

 結果は帰還石に光が戻ってきている。鑑定しても使用不可の注釈がなくなっている。


「使えそうだ」

「なら後は帰るだけ、と言いたいが、退避した奴らを探すのが先か」


 面倒だな。と、ミアが座りこんでしまったな。格上との長時間の戦闘だ、ミアも消耗していたんだろう。戦闘が終わって緊張感から解放されて、疲れが押し寄せてきたといった感じか。


「セラは大丈夫か?」

「負傷はしてないよ。ただ流石に疲れたけど」


 それには同意だ。こういう時は、MAPで気配察知。うん、魔物はいないな。


「何をしている?」

「疲れを癒す料理だ。作り置きの材料を使った簡単なものだけどな」


 と、その前にシャドーウルフをアイテムボックスに収納しておくか。首もろとも。

 フレッドは驚いたが、特に何も言ってこなかった。ありがたい。

 それで今日のスープは疲れた胃に優しいシンプルスープ。ちょっと塩気が強いのは疲れた体にいいからだ。


「主、今日も良い仕事をしている」

「そうか。だけどヒカリ、ありがとうな。助かった」


 ヒカリは首を傾げてる。

 正直シャドーウルフを倒せたのは、セラも頑張ったがヒカリのお陰だと思っている。本人は大した活躍が出来てないと思っているようだけど。

 最後、少しだけだが動きが鈍くなったように見えた。

 あれがなければミアたちもどうなっていたか分からない。

 思い当たる理由が一つある。俺も苦しめられたからな。

 上位種に効くかは半信半疑だったが、時間は掛かったが少しは効果が発揮されたようだ。ヒカリのナイフによる毒攻撃が。たった一撃しか入らなかったが、あれが明暗を分けたと思っている。

 改めてヒカリを見るとおかわりをしている。

 今回も合格点を貰えたようだ。味の。

 は~、全く。何でダンジョンの低階層。五階でこんな苦労をしないといけないんだ。苦情は誰に言えばいいんだ?

 十分休憩をとったので後始末。転がるウルフの死体の回収を済ませて、改めて相談。

 一応探してみようと言う話になったので探すことに。この広いMAPで探索とか、人が良いというかなんというか。ただ探す条件として、まずは六階への階段に向かうことを提案。登録したいというのもあったけど、通行不可の壁がなくなっているかの確認もしておきたかったからだ。


「問題なく通れそうだな」


 登録完了。これで次からは六階だ! 脱出する時はここの装置を利用するから、また後で来ると思うけど。


「なあ、ボスを倒すと、そのフロアの魔物ってどうなるんだ?」


 確かボス部屋には取り巻きが出現するという話だ。ボスを先に倒した場合どうなるか聞きたかったけど、基本邪魔になる取り巻きを先に倒すから分からないと言われた。

 ゲームなら消滅したりするんだろうけどな。少なくともMAP内にはいない。うん、狩りながら移動していたから元々表示されてなかったんだけどね。


「それでどうする? 俺としては疲れたから帰りたいところだが、生存者を探したいんだよな?」

「ああ、……って、ちょっと待て。カードの機能で奴らと通信が出来るんだった。ボス部屋では使えなかったが、今なら連絡がとれるはずだ」


 フレッドが通信をすると応答が来た。相手の声は聞こえないが喋っている。傍から見ると独り言を呟く怪しい人だな。機能的には電話のような感じか。

 他にも呼び掛けているけど、返答は一切なかったようだ。結局生き残ったのは九人か。

 向こうにいるメンバーに、他のパーティーの者がいるらしく、生存者がいるかの呼び掛けも頼んでいたな。


「こっちに来るらしい。少し待ってもらってもいいか?」


 待っている間、帰還石の詳しい使い方などを聞いた。

 効果はパーティーメンバーのみで、また範囲内にいないと効果がないと言う。離れているメンバーは置いて行かれるということか。

 説明を受けていると件の冒険者がやってきた。互いに無事を喜んでいたけど、どう倒したかしきりに聞いてきた。

 フレッドはギルドに戻ったら話すと言い、装置を使用して脱出した。

 装置を使用すると、体が光に包まれた。奇妙な浮遊感のようなものを感じ、目の前の景色が一瞬で切り替わった。

 そこは淡い光に包まれた一室。無数の光が部屋の中に浮かんでいる、幻想的な場所だった。

 こうして初めてのダンジョン挑戦の幕は閉じ、無事帰還することとなった。

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