第142話 マジョリカダンジョン 9F

 九階。ここはゴブリンが巣くう階層になる。

 通常のゴブリンの他、ゴブリンファイター、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンプリースト、ゴブリンチャンピオンがパーティーを組んで襲い掛かってくる。

 数はパーティーごと違い、ゴブリンのみのパーティーもあれば、ゴブリンのいないパーティーもある。

 職業の肩書を持つものは、通常のゴブリンよりも知能が高く、戦術的な戦い方をしてくる。連携も綿密で、その特性を遺憾なく発揮してくる。それこそ人間を相手にしているような感じになる。

 そのため騎士団が、時々実戦経験を積むために利用することがあるという話もあった。


「ミアはメイジがいたら魔法の妨害をホーリーアローでしてくれ。ただヒカリもセラも、妨害されることが当たり前だと思わない立ち回りをするように」

「ソラはどうします?」

「俺も遠距離で妨害するよ。ただ相手にも遠距離攻撃があるということは、妨害のために攻撃をしてくる可能性もある。魔法だけに集中しないで、相手の動きにも注意するようにな」

「ボクたちも優先して倒すつもりだけど、距離があると近付くまでに妨害もあるから、結局倒すのが最後になるだろうし」

「うん、投げナイフで邪魔はするけど限度がある」


 投擲用のナイフにも限界があるからな。数を持つことは可能かもだけど、多いと重くなって動きを鈍くする。

 また距離があれば対処されやすくもなる。反射速度凄すぎだろと思う。


「進む速度は遅くなってもいいから安全に行こう。ただし遭遇したら素早い対処を心掛けよう」


 ここは魔物の数が多く、八階同様、新人泣かせの階層と呼ばれている。倒しても倒しても、次々と魔物が補充されるため殲滅速度が遅いと魔物に呑み込まれて命を落とす原因になる。それが原因で、近頃は護衛を雇って通過しようとする者が多いらしい。

 結局実力が伴わなければ、下の階にいっても限界が来そうだと思うのだけど、考え方は人それぞれだからな。

 装備を確認して九階に下りる。

 少し進むと集団と遭遇した。ゴブリン五体に、メイジとチャンピオンがいる。

 セラはチャンピオン、ヒカリはゴブリン、ミアはメイジにそれぞれ攻撃を仕掛ける。俺はミアの護衛に回りながら、苦戦するようなら加勢するつもりだ。

 ただセラがあっさりとチャンピオンを倒して、ヒカリの加勢に入ったため出番がない。ミアも素早い魔法の発動でメイジをあっさり倒したな。

 戦闘が終われば魔石と討伐部位の回収。済んだらすぐに移動する。

 それを何度も繰り返して、セーフティーゾーンを広げていく。

 連戦が続けば疲労が溜まるから、適度な休憩も必要になるからだ。


「職業ゴブリンがいると流石に厄介だな」

「まるでお互いが仲間のいる場所が分かっているみたいに、戦っていると援護にやってくる」


 セラの言う通りだ。まるで互いの位置を理解しているような動き。ウルフと違って唸り声をあげてるわけでもないのに、何故か援護に来る回数が多い気がする。

 徘徊して自分たちで覚えたのか、ダンジョンが生み出す時にそのようなが埋め込まれているのか、厄介極まりない。

 お昼は軽食で済ませ、俺とミアはマナポーションでMPを回復させてから行動を再開する。

 ゴブリンは狡猾で、挟み撃ちや、自分たちを囮にして小部屋のような空間に誘い込むなど、一筋縄ではいかない行動をとる。冷静に対処していたつもりも、休みなく襲われると徐々に術中にはまって、誘い込まれる時があった。

 その時は俺も全力で魔法を撃ったりと、その都度声を掛け合って危機をやり過ごした。


「主、腕が痛い」


 何百とナイフを振り下ろしてるからな。ミアも接近されてスタッフで殴打する機会が増えて、返り血でローブを汚している。

 ファイアーストームなどの範囲魔法を使えば一掃出来るけど、今は控えている。

 乱戦の練習にいいと、わざとミアの方にゴブリンを流している感じだ。もちろん安全には細心の注意を払っている。セラが上手くコントロールしているとも言う。

 ヒカリも疲れないために、無駄な動きを削げ落とし、効率の良い倒し方を模索していく。このままキリングマシーンになってしまうかと心配するほど、洗練された動きで仕留めている。

 あとは範囲攻撃だと味方を巻き込む恐れがあるからな。それが一番の理由だ。

 俺は全体を見ながら劣勢な場所に単体魔法を飛ばしつつ、接近してきたファイターやチャンピオンと斬り結ぶ。力負けはしない膂力りょりょくはあるけど、それを封印して技術で戦う。何度か失敗して殴打されることもあったけど、致命傷は避けたと思う。切傷は負わなかったしな。

 あとは魔法に関して一つ。牽制用の魔法を練習して習得した。威力を抑えて速度優先で放ち、対象に当てるというよりも、その鼻先を狙って魔法を破裂させるというもの。一種の猫だましのような感じで、ダメージは与えられないが怯ませて詠唱を妨害させるというものだ。

 ただ当てないで爆発させるなど、面倒な手順がある。普通に魔法を放って魔物を狙った方が早い気がするけど、やれることは多いに越したことはないと言い聞かせて色々と試した。

 戦闘後ミアがしきりに質問してきたので、ちょっと救われたような気がしたのは内緒だ。ミアとしては当てなくても相手を怯ませることが出来る点に、注目したのかもしれない。何度か試したけど無理だったようだけど。

 素早い奴だと魔法も避けるからな。近頃銃を使ってないけど、銃弾はどうだろう? オークロードとか普通に剣で弾いていたからな……。何処かのタイミングで確認しておいた方が良いけど機会がな……。

 無限に湧くかと思われたゴブリンたちも、二〇〇体ほど倒してからは遭遇しなくなった。ある意味一番面倒だったのは魔石と討伐部位の回収だったけど、頑張って全て回収した。死体を焼いたりする手間がないだけましか。

 その後階段を見付けたので、休憩を挟まずそのまま十階に下りた。

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