第128話 マジョリカダンジョン 5F・4
「主様、何かが近付いてきてる。この音は……人?」
セラの言う通り、あれは入り口にいた冒険者の誰かだな。ただ一人じゃなくて、八人いる。ウルフの探索にでも来たのか?
森を突き破るように、男たちがその姿を現した。
一言で言ってボロボロ。それが男たちの出で立ちだった。
その中に見知った顔がいた。確かフレッドだったか。
最初フレッドは俺たちを見てビクついたが、すぐに安心した顔をして崩れ落ちた。
結構酷い怪我をしている奴もいるな。
ミアが心配そうにしている。迷うな。ヒールを使えることを教えていいか迷う。
レイラたちのパーティーにはトリーシャが普通にいたから気付かなかったが、改めて思うと神聖魔法を使えるものは少ない。正確には、神聖魔法を使える者がパーティーにいるのが少ない、だが。
「ソラ、治療してもいい?」
ミアならそう言うだろう。優しい子だ。
俺はミアを連れて少し離れると、神聖魔法について教えた。ミアも教会にいたから神聖魔法が身近にあって珍しいことに気付いていない。それゆえに今後目立つかもしれないリスクを聞かせる。他国にいるとはいえ、変な噂が広まるのは良くない。
「その時は、その、ソラがまた助けて下さい……」
そんなことを言われたら断ることなんて出来ないじゃないか。
本来なら止めるところだけど、ダンジョンに潜っている以上、神聖魔法を使うのを目撃される可能性がある以上、ここで隠しても意味がないと最終的に判断した。
俺はヒカリとセラに周囲を警戒してもらいながら治療を行う。ヒールで治りそうなものはヒールで、ポーションで済みそうなものはポーションで傷を治す。ヒールよりもポーションの効果に驚くのは何故だ?
「すまない。助かった」
「で、何があったんだ。おおよそ想像は出来るが」
「はは、討伐は失敗だ。壊滅したと言ってもいい」
「なら何でこんなとこにいるんだ? 階段から別の階に逃げればいいじゃないか」
その言葉に冒険者たちが口を閉ざし、フレッドに皆の目が集中する。
フレッドは力なく頷くと、話し始めた。
「ダークウルフだと思ってたあれな。シャドーウルフだった」
そんな言葉から始まった。確かシャドーウルフはさらにランクが上じゃなかったか? オークロードに並ぶそれはランクAだったか?
「最初は順調だった。だが奴が戦闘に介入してきて、瞬く間に討伐隊が崩壊したよ。一瞬だった。それからはもう、何が何だか分からないまま必死に逃げた。気付いたら四階の階段の前にいた。既にそこには何人かいてな。ただ、何故か皆そこに立ち尽くしたままだった」
「何故だと思う? 進めないんだよ。すぐ目の前に階段があるのに。まるで見えない壁があるかのように前進を阻むんだ」
「俺は預かっていた帰還石を取り出し、絶望した。本来なら光を放っているそれから光が失われていた」
黙って聞いていたら、次々とフレッドの口から言葉が吐き出された。
実際にフレッドは帰還石を取り出して見せてきた。確かに一目見ただけだとただの石だな。鑑定すると、帰還石。効果「ダンジョンから帰還できる」※)ただし今は使用不可、と注釈が付いている。
「ダンジョン内で帰還石が使えない部屋がある。ボス部屋だ。今、このフィールドはボス部屋になっている。理由? そんなの分からない。ただ言えることは、シャドーウルフを倒すか、俺たちが全滅するかしないと、この部屋の効果は解除されない」
「話はまあ、分かった。確かボス部屋は外からも入ることが出来ないんだったよな」
「ああ、その通りだ。だから援軍も期待出来ない。こんなことは初めてだ。少なくとも俺は聞いたことがない」
心が折れかけてるんだろうな。絶望一色といった感じだ。
「ちなみに変遷が起こったらどうなるんだ?」
確かダンジョン内がリセットされるんだったよな。
「はは、ボス部屋には変遷が起きないんだ……」
今度は頭を抱えだした。
「それじゃ、シャドーウルフの倒し方を教えてくれ」
セラなら知ってるかも知れないが、目の前の冒険者に問いかける。
フレッドは詳しく知らないようだったが、他の冒険者が知っていた。
曰く、シャドーウルフは物理、魔法に高い耐性を持つ。影の鎧をまとい、攻撃を通すには高い攻撃力が必要になる。弱点は光と神聖魔法。道具としては聖水など聖属性を付与する道具があるようだ。武器なら銀製のものが有効らしい。
「あの嬢ちゃんは、ヒールを使えるようだな。聖属性の攻撃魔法は使えるのか?」
「一応使えるが、実践で使えるレベルかと言われるとな。そもそも威力がない」
「当てることが出来れば、影の鎧の効果を一時的だが取り除くことが出来るんだよ。なんとかならないのか?」
なるほどな。けど当てるのは難しいかもしれないな。拘束などして動きを止めたら可能性があるかもだけど。
「シャドーウルフを拘束出来れば当てることが出来るかもってレベルだな。ただ、その影の鎧がなくなれば、あんたら倒せるのか?」
「倒せる、はずだ」
「……アイテム。聖水も有効なんだろう。ないのか?」
聞くと誰も答えない。むしろ視線を合わせない勢いだ。
一応ダークウルフも聖属性が弱点だったはずだが、持ってないのか?
聞くと誰も持っていないと言う。少なくとも、ここにいる者は誰一人持ってきていないという。
なら拠点に戻ればあるか尋ねたら、なかったと言われた。
大丈夫かこいつら……。
俺も持ってるか問われると持ってないと答えるしかないんだが。
「セラ、シャドーウルフと戦ったことはあるか?」
「ボクはないよ。話に聞いたことはあるけど」
「ミアが魔法を使って当てることは出来ると思うか?」
「聞いた話だけど正直難しいかな。今まで戦ってきた魔物とは、威圧感も違うと思うから。ブラッドスネイクでさえ辛うじて成功した感じだよ」
「だ、そうだ」
「だが、倒せないとここから出られないんだぞ」
「頑張ってくれとしか言えないな」
「何故他人事なんだ! お前も巻き込まれているんだぞ」
「何か抜け道があるかもしれないだろ? ギルドだって異常を感じて何か対策をとってくれるかもしれないし」
わざわざリスクを負う必要もない。食料が尽きそうだとか、急を要する問題があれば別だが。
ただ長時間放っておくと、そのシャドーウルフが進化しないかという心配はある。
戦ってもいいが、あまり多くの人の前で戦い方を見せたくないのが本音だ。
「主様、とりあえず少し移動した方がいい。この者たちを追ってこちらまで来るかもしれない」
それもそうか。治療も終わったし一度移動した方がいいな。MAP登録した方にいけば、気配察知と合わせて使えば近付いてくるのも分かりやすいしな。
「それじゃ俺たちは行くよ。何をするにしろ、準備は必要だからな」
「ま、待て。置いてくつもりか?」
「別にパーティーを組んでるわけでもないし。そもそもルーキーに何を期待してるんだ?」
やっと思い出してくれたか。こっちは生憎と初心者なんだよ。
だけど何故付いて来る。野営道具も持ってないようだし。俺たちも一見すると持ってないけど。もしかして飯をたかる気か? ヒカリ激おこの未来しか見えないぞ。
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