第125話 マジョリカダンジョン 5F・2

 早朝。体をゆすられて目を覚ます。意識が覚醒していくのが自分でも分かる。

 目を開けると、目の前にセラの顔。人差し指で口の前に一を作っている。いわゆる静かにのポーズだ。

 俺は頷き、身を起こす。気配察知に引っかかる反応。まだ少し遠いけど、確かに何かがこちらに近付いてきている。結構距離があるのに良く気が付いたな。ヒカリもミアを起こしている。まだ寝惚けているのか反応が悪いようだ。

 俺も少し疲れが溜まっているのか? なんか久しぶりに完全に寝てしまっていた。


「向こうの方角から何かが近付いて来ている。数は一だよ」


 既に戦闘準備を整えている。俺も起き上がり武器を持つ。ミアは慌ててるな、君の愛用のスタッフはすぐ足元にありますよ。寝る時に付与していた結界はまだ解けてないな。


「主様、防壁を解除して貰ってもいいかい。流石にこのままだと戦い難い」


 確かに邪魔になるか。俺が魔法を解除すると防壁はその形を維持することが出来なくなってただの土に戻った。

 このフィールド。地面を掘ろうと思えば穴も作れるため、魔法で利用することが出来た。これは昨日の探索で、地面に埋まっていた食材を採るのに、土を掘り起こさなくては採れなかったことから気付いた発見だ。


「ミアは主様の近くで待機。最初はボクがいく。ヒカリは相手を見てから対応をお願い」


 セラの指示で隊列を組む。

 移動速度的にはウルフ並か。なんか近付くにつれて土煙が見えるのは気のせいか?


「ブラッドスネイク」


 全長三メートル以上。その一口は大きく、ウルフを簡単に一呑みしてしまう。その牙には毒があり、また毒を吐き出して飛ばす個体もいる。他には体を使って絞め殺す特性がある。皮膚は鱗で覆われているため中途半端な攻撃は通らない。


「主、準備をするからお願い」


 俺は頷き向き直る。蛇って、ちょっと恐怖のイメージなんだよな。昔テレビで芸人が締め付けられて、スタッフが慌てて助けようと奮闘しているのを見てから、ちょっとトラウマなんだよ。

 だけどここで逃げ出すわけにはいかない。背後にはミアとヒカリがいる。ヒカリも自分の短剣では攻撃が通らないと判断したんだろう、あれを試すつもりだ。その間集中するから無防備になるんだよな。


「ソラ、私はどうしたらいい?」

「毒攻撃があるからリカバリーを使ってもらうかもしれない。ただ先にホーリーアローの準備をして、セラが距離をとったら牽制で撃ってくれ」

「で、でも……」


 ブラッドスネイクの大きさと素早さに目を回しそうになっている。初めて見る魔物だ、動揺もあるのだろう。


「当てる必要はない。むしろ練習だと思えばいい。あれは動く的だってな」


 実際にあたってもそれほどダメージは通らないかもだし。むしろこの緊張感の中で魔法を使うことで実戦慣れして欲しい。

 実際、俺もあんなに素早く動かれると魔法を当てられるか自信がないんだよな。今までだって、基本接近してほぼゼロ距離から魔法を撃ってたし。範囲魔法を除いてだけど。この距離なら拳銃だよな。あっちは投擲・射撃スキルの補正があるから、照準が甘くても当たってくれる。気がする。

 俺の今やることはセラから注意が逸れてこっちに来た時に足止めすること。剣を引き抜き構える。ダメージが入らないと脅威にならないから、剣に魔力を流して攻撃力を上げる。

 よし、準備完了。改めてセラとブラッドスネイクの戦いを観察する。

 セラの斧による打撃を受け流している? ヒットしているが逆らわないで衝撃を逃がしているような気がする。さらにその反動を利用して、噛み付き攻撃を軸に、時々尻尾による攻撃をしてくる。セラは基本避けているが、避けられない時は斧をクロスしてガード。勢いを殺せずに少し後方に飛ばされてる。

 ただその表情からは焦りの色は見えない。むしろ俺たちにブラッドスネイクの動きを見せる、学習させるために、わざとそのような立ち回りをしているようにも見える。

 あ、大きく息を吸い込んだと思ったら吐き出した。口から毒々しい色の液体が飛ぶ。大きく避けて、背後の木にそれがかかると、煙を上げて変色して溶けだした。酸の効果もあるのか?

 背後で魔力の流れに乱れが生じた。ミアか。あれを見せられると確かに怖い。


「主、行ってくる」


 ヒカリが気配を消して近付いていく。

 セラもそれを感じ取ったのか、斧を打ち鳴らしブラッドスネイクの注意を惹いている。

 それを挑発と受け取ったのか、ブラッドスネイクはセラに襲い掛かる。直線的だが、今までにない速度で急接近。それに対してセラは真向から斧を打ち付ける。まずは右手で一撃、遅れて左手で追撃。悲鳴を上げてブラッドスネイクが吹き飛んだ。

 それに合わせるようにヒカリが接近し、ナイフで首元? を引き裂いた。鱗が剥がれ、鮮血が飛ぶ。血は赤か。

 しかし傷は浅い。すぐさまヒカリを認識すると、その小さな体を吞み込もうと口を大きく開けて襲い掛かる。


「ホーリーアロー!」


 そこにミアが魔法を放った。魔力の収束が甘いのか本来の輝きはないが、ブラッドスネイクに向けて真っ直ぐ飛んでいく。

 口の中に吸い込まれるように飛んで行ったそれは、直前で逸れる。が、逆にそれが功を奏した。

 逸れた魔法はブラッドスネイクの目元に当たり、弾けた。

 それが隙となって、ヒカリはもう一撃入れて離脱。

 最後にセラが、ヒカリの付けた傷をなぞるように斧を振り抜き、首を刈り取った。

 ふー、手に汗握る攻防だった。何もしてなかったと気付いたのは、それからすぐのことだったけど。

 なので頑張って朝食を作りましたよ。

 ブラッドスネイクの肉はすぐには使えなかったので、アイテムボックス内のオーク肉を使用。薄くカットしたものを焼いて、パンに挟んでスープと一緒に頂きました。

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