第124話 マジョリカダンジョン 5F・1

 五の倍数の階層は特殊エリアになる。森、草原、岩山などと、ここがダンジョンの中だと忘れてしまいそうになる仕様になっているらしい。ここでは外と同じように昼と夜が切り替わるのもその特徴の一つだ。他には広さ。少なくとも端から端に歩くのに真っ直ぐ進んでも一日以上かかったという記録もあるとか。

 また東西南北、下の階層に下る階段の位置も変遷が起こるごとに変わる。最短で進むのが目的なら、それこそ壁沿いに沿って歩いた方が早いという意見があるほどだ。

 ただここにも落とし穴があり、フィールド内の何処かに出現する時もあるため、その方法も確実ではない。実に探索者泣かせの階層と言える。それにその統計、一度五階を超えると次に来る人が圧倒的に少ないため、全くあてにならないとのことだ。



 階段を下りた先には厳つい顔の冒険者、その数多数が出迎えた。


「ん? 見ない顔だな。もしかしてルーキーか?」

「ああ、今回が初めての探索だ」

「初めてで五階まで来たのか。しかも四人で……無茶をする。俺はフレッドだ」

「俺はソラ。で、何の集まりだ? 見たところ、こんな階層にいるような人には見えないが」

「……ふむ。実はこの階層で上位種が確認されてな。ギルドから討伐依頼が出た。ここにいるのは全てそのメンバーだ」


 俺は改めて周囲を見る。全員で二〇人ぐらいいるか? 少なくとも視界にいる人数を大まかに数えてだが。


「俺たちはこの階層で薬草の採取を考えていたんだが、駄目なのか?」


 あ、変な顔された。フレッドだけでなく、周囲でやりとりを聞いていた者たちにもだ。


「それは活動は自由だか。上位種がいるんだぞ? その、大丈夫なのか?」


 仮面をした怪しげな男一人に奴隷三人。しかもセラ以外は一見すると戦いに向かなそうな感じだしな。


「ちなみに何の上位種が出たんだ?」

「ウルフ種で、報告だとダークウルフって話だな」


 確か闇の属性魔法を使うって奴だな。魔物のランクは確かCだったはず。個体的にはそれほど強くないけど、指揮能力が高くて補助魔法を使う。手下になるウルフの数が多いと比例して強くなっていき、討伐の難易度が上がるって話だ。逆に周囲にいるウルフさえ倒せたらそれほどでもないって奴だ。


「今日中に討伐出来そうなのか?」

「難しいな。一応時間をかけるつもりはないが、無理はしない。今は到着したばかりだから探索隊とベースキャンプを作る班で別れているところだ。あとは合流待ちだな」


 長期戦も一応考えている布陣か。入口に陣地を構築しているのは、最悪すぐに階段に逃げ込めるようになのか?


「どうした方がいいと思う?」

「主に任せる」

「ソラが決めてください」


 それが一番困るんです。セラを見る。何か経験則に則った意見が欲しいです、ハイ。


「注意しながら探索すれば問題ないさ。ウルフがいたら後退するように心掛けていたらいいと思う。理想は他の魔物のテリトリーを見付けられたらいいかな」


 この階層はウルフ以外だと、ゴブリン、キラービーがいる。ハチミツも採取出来るんだよな。あ、あとはブラッドスネイクもいたか。肉が美味しいとの噂の。

 確か魔物ごとに縄張りのようなものが出来ているから、ウルフ以外の魔物がいたらそこはある意味安全地帯と考えていいという話だったか。もちろん完全にそれに頼り切って、警戒を怠ってはいけないが。


「行くつもりか? 止めはしないが、何かあっても自己責任だ。俺たちの手助けを当てにしても無駄だぞ」

「ああ、そこは問題ない。ただ、もし発見したら報告した方がいいか?」

「君たちで対処出来るなら倒してくれて構わない。ただし倒したら報告はしてほしい」


 フレッドが真面目くさって言うと、周囲の冒険者たちは笑い声を上げた。

 無理だと思ってる感じだ。

 ヒカリがちょっと御冠おかんむりだ。

 早めに離れた方がいいだろう。

 俺はMAPを表示させて気配察知を行う。追加で魔力察知も発動だ。MAPが埋まらないということは、このフィールドは一辺が一キロ以上あるということか。

 一日以上歩かないと到達しないって話だから、当たり前か。


「とりあえずあっちの森にでも行ってみようか」


 俺は先頭に立って歩き出す。

 三人が続き、呆れた、侮った、心配した、様々な視線を向ける冒険者の中を歩いて、目的の森の方に向かう。

 その間、遠くに狼煙のろしのようなものが見えた。俺たちの進行方向とは反対方向に。

 十分も歩くと目の前に森が広がる。鬱蒼と茂っているな。ただ木と木の間隔が広いから根に足を引っ掛ける心配はなさそうだ。

 見た感じ特別に何かある森というわけではなくて、外で見かける一般的な森と同じような感じだ。試しに枝を伐採すれば、そのまま手に入る。折れた枝を離れた場所に放置しても魔物と同じように消えることなく残っている。


「主様、ダークウルフを見付けたらどうするんだい」

「俺たちでも狩れそうか?」

「主が頑張れば狩れる」


 それは俺が頑張れということか? 遭遇したら頑張りますけど。


「ダークウルフ自体はそんなに強くないさ。問題はウルフの数だけど、確かに主様次第かもしれないさ」

 セラには色々と魔法が使えることは話してある。実際に戦ったところは模擬戦以外に見てないから、ヒカリの自信満々な言葉に苦笑を漏らしたのだろう。

「そうだな。なら相手に先に気付かれたら仕方ない、狩ろう。逆にこちらが先に気付いて、気取られていなければ撤退してあの冒険者たちに伝えるか」


 今回はミアもいるし。もちろん戦うようなことがあったら全力で頑張りますよ。マナポーションだってがぶ飲みです。


「分かったさ。なら注意して進もう。ヒカリも頼んだよ」

「うん、任せる」


 警戒して進む。ここは今まで見たことがない木が多いような気がする。果実とか付けた木が多いな。あれはリンゴに似ている。お、あっちにあるのはミカンっぽいな。

 俺は鑑定しながら、食用可能な果実があればその都度セラに声を掛けて採っていく。

 見たこともないものも多いため、最初食べられると言っても半信半疑だったけど、一口食べたら信じてくれた。甘かったり、ちょっと酸味があったり、疲れた体に良く効くな。あ、これは砂糖漬けにしないと辛いな。ヒカリ、騙したなんて文句を言わないように。

 珍しく、また美味しいものを食べたからか、次第に上位種のことを忘れて、階段探しというよりも食料調達になり始めた。

 初めて見るものに関してはそれを俺のところに持ってきて、大丈夫かどうかを確認する。大丈夫なら今度は味見をして、合格点が出たらそれが多く生っているところに移動して採取を繰り返した。

 その日は魔物と遭遇することもなく採取に精を出し、野営の準備を始めた。ダンジョン内で見上げる空は、星が浮かび、月が浮かび、まるで室内にいることを感じさせない風景をそこに浮かび上がらせていた。


 

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